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記憶は目の中に  作者: オレンジ
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第1話「日常」

今見ている光景は夢か妄想か。

視界にあるものは夢か妄想か。

そんなことを考えたことはないだろうか。


今、見えているものは本当は見えていない。

全て自分自身の作り出した妄想。

そんなことを考えたことはないだろうか。


自分は他人から見て本当はどう見えているのか?いや、もしかしたら他人の視界にあるものも妄想の一部なのかもしれない。


こればっかりは確認のしようがない。

なぜなら、その導き出した答えさえも妄想の作り出した答えかもしれないからだ。


つまり自分が自分でしかない限り、視界の正負や妄想の有無を知ることはないのである。


ましてや、人の考えや思いを知ることなど…impossible


第1話「日常」


暗がりの2段ベット。

朝を知らせる小鳥のさえずり。


僕の名前は【福沢 詩音】


そして、ベットの上でイビキをかくのは、

未だ起きる様子のない、親友の【秋山 康介】


僕の朝は毎日こうして始まる。寮生活の僕達は教室へ8:30に間に合うよう部屋を出る。そして今時刻は8:20。間違いなく遅刻である。


僕は一足早く用意が完了すると、カバンと食パンを片手に康介を待つ。


「いそげぇぇぇえ!!!」


そう叫び、康介は鞄を持ち、部屋を出る。

もちろん、待っていた僕も巻き添えである。


そして康介は間に合わないと踏んだのか、僕を背中に担ぎ走り出した。少し恥ずかしいが、これが僕達2人の日常である。


「よし間に合うぞ!!あとちょっ……」

キーンコーンカーンコーン


「あ………」


けど、8:20に起床した人間が間に合うわけもなく…僕達2人は先生に怒られる。これも普段通りである。もうこれは恥ずかしくない。


遅刻したからといって、別に僕は不良でもなければ、問題児でもない。


むしろ、比較的真面目に授業を受ける方である。康介は別として。


変わったことがあるなら一つ。

月に一回、僕と康介は学校に連携される病院に通っている。なんでも昔軽く転んだとか。そのぐらいであろうか。


後は、ごくごく普通の高校生である。


そして時刻は12:30。昼休みだ。僕は親友の康介に加え、幼なじみの【七草 遥香】と中学の時に転校してきた【松崎 紗南】の4人とご飯を食べ、笑い話で盛り上がる。


これも僕達の日常である。

『この日常がいつまでも続けばいいのに。』

僕は毎日同じことを考えていた。


昼休みが終わると、また授業が始まるが、

やはり午前ほどの集中力はない。康介は授業10分経過後は100%寝ている男だ。


それに対して、遥香と紗南は、康介とは比べものにならないぐらい真面目に授業を受けている。特に紗南は別格だ。


4人に名前をつけるなら、康介は無法問題児。遥香はお転婆娘。紗南は有能転校生。そして僕は多分、普通の少年というところだろう。


何はともあれ、この4人といることは中学生から変わることない事実であり、幸せでもあった。・・・・・そう信じていた。


「詩音は良い嘘ってあると思う?」


・・・・・は?


藪から棒。いや藪から丸太のように突発的な質問をしてくる遥香。彼女は予測不能だ。


「いい嘘?例えばどんなn…」


「おい!詩音!毎日恒例のお昼の放送ジャック行くぞ!ほら!」


「あ、ちょ、康介!」グィッ


「康介!うちが今話してるのに!」


その遥香をも超える予測不能な男、康介。

この2人には振り回されてばかりである。


そして無理矢理、連れられたのは放送室。ここでは毎日昼休みにリクエストや人気の高いミュージックを校内に流す場である。


今の時間は『余の名は。』で大ブレイクの

前前前前世が流れている。

だが、そんなことはお構いなしである。


「あーあー聞こえるか!愉快な野郎ども!今日もやってきた秋山 康介だ!よろしくぅ!」


「またかよ〜」


「カァー!今からサビだったのに!」


校内は僕達へのブーイングの嵐となった。

それでも康介はお構いなしである。


「えーそれでは聞いてください。秋山 康介で『残酷な天使のロンターノ』」


康介は歌いたいから歌う。

彼にとっては、それだけのことなのである。


康介の自由奔放、マイペースな性格には僕だけじゃない、学校全体が振り回されている。

遥香を超える存在は学校という歯車の中心部を動かしていた。


ちなみに『ロンターノ』とは康介が適当につけた名前だそうだ。元よりロンターノの方がかっこいいそうだが…いや別に著作権がどうこうというわけではない。……ほ、本当に。


「のってるかーい!!!次は…」


ガチャ

「康介、詩音、先生が来ました。」


「え!?やべっ!逃げろ!」

ダッダッダッ!


康介はまた左腕に僕を抱えて走り出す。

そして右腕に抱え込まれている先生警報伝達係は唯一真面目の親友、紗南である。


康介が留年せずに2年に上がれたのは紗南との巧妙なカンニング術の賜物である。


テストは全てマークテスト。

咳払い一回で「ア」、咳払い二回で「イ」、咳払いなしで「ウ」。これを10秒毎に行うことで遠距離カンニングの完成というわけだ。


だからテストの時は決まって紗南は風邪になる。本当に困ったものだ。


まあ実はこういう僕もそれに助けられたりもしているわけであるが。


真面目ながらノリが良く、空気も読める紗南は遥香にも康介にも、そして僕にも持つことのできない社会的力を持っているのである。


全く、羨ましい限りである。


そして結局、主犯である康介は生徒指導へ。

今月に入って4回目の指導である。

ちなみに今日は5月9日、新記録だ。


放課後、延々と続く康介を遥香と僕で待つ。紗南は予習があると、先に部屋に戻った。

そして遥香は昼休みの話をもう一度した。


「詩音は良い嘘ってあると思う?」


普通に聞いてくるが、かなり難しい質問だと思う。良い嘘とは何の事を指すのだろう?


「えーと、遥香は?遥香はあると思うの?」


これがベストである。


「うちはね…あると思う。余命3ヶ月のお爺ちゃんに、『お爺ちゃんはあと3ヶ月だ。』って言っちゃったらそこでお爺ちゃんは勝手に線引きをしちゃう。そうなっちゃったら、余命なんか延びるものも延びなくなると思う。希望があれば生き続けると思うの。」


長々と遥香は話した。まるで何か、身近に『いい嘘』を感じ取っているような。


彼女はこんな真面目ではない。だが、興味があるもの、心に差し支えあるものは全て理解、解決しようとする。それはいい事だ。


突発的なのが、たまに傷だが。


遥香は言ったのだから僕の番である。


「えーと、僕はいい嘘はないと思うな。もしそれを後で知ってしまった時は汚い嘘の何倍も苦しくなると思う。嘘をついている期間が長ければ長い程、汚くなるんじゃないかな。今の話なら、お爺ちゃんはそれを知る術がない。だからその場合は良いのかもしれない。でも、何かの拍子に気づくことがあるなら、その時は余命が縮まるくらい苦しくなる。

だったらそんな嘘、最初から無かった方が良いと僕は思う。」


こんなところであろうか。長い経験上、遥香の真面目な質問には真面目に答えることがベストなのである。


「そっか……」


思った以上に思い詰める遥香。多分遥香は今、似たような場面に出くわしているのであろう。だが、敢えてそこは突っ込まない。


「わかった!ありがと。やっぱ詩音に聞くのが1番ね!どうせ康介に言っても、『遊びに嘘はいらない』とか意味不明な解答が返ってくるだけだもんね〜」


「まあ、康介はバカだからね。」


「ほんと、康介はバカなの。」


「「はははははは!!!笑」」


「おい、誰がバカだって?」


「「ぎょ!!?」」


次回は、第2話「影響」お楽しみに。

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