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ヘコキング  作者: キューズ・カリソー
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史上最強黙示録

「事実を事実のまま完全に再現することは

いかに面白おかしい架空の物語を

生み出すより はるかに困難である。

(アーネス......なんちゃらかんちゃら)

私は あえてこれに 挑戦する!

これは事実談であり、この男は実在する!

ー『ヘコキング』超人追求編 ー

1984年夏、メキシコシティ、炎天の土埃舞う闘牛場『プラザ・ザ・メヒコ』

に、その男は立っていた。

「クレージーッ!」「ゴーホーム!」「クレージー!ゴーホーム!」「ジャップ!オトトイキヤガレ!」「ジョンとポールとミックとヨシキを早く出せ!」観客の怒号が 超満員のスタジアムを揺らす。6万4,000人の観客は チンケな闘牛ショーの前座よりも、世界的漫談歌謡浪曲ヘビメタロックバンドの『三代目ザ・ロリングモンキッペリビトルペッパーXヘイレンブラザーズブギウギバンドトライブ』のライブを1秒でも早く見たいのだった。

男の眼前には体重800キロはありそうな 真っ黒な猛牛が今にも飛びかからんとしていた。その目は敵意に満ちて血走り、両の鼻息荒く、大槍のようなツノを振り立て、ひずめで地面を蹴りたて、全身から忿怒の湯気をもうもうと立ちのぼらせ、男の周りをぐるぐると回っていた。

しかし、男は 慌てるでも無く あくまで自然体、どこまでも無防備!ステテコいっちょで上半身ハダカ、その厚ぼったい一重まぶたの目を薄く閉じ、分厚いくちびるは半開き、並びの悪い歯を覗かせている。防御の構えを取るわけでもなく、まさに棒立ち。まるで 春のうららかな日差しの中、日向ぼっこをしている ボケ老人のごとく、ただただ ぼーっと、佇んでいるかに見えた。

スゥーと、牛の頭が沈んだ!ドドドゥ!土を蹴立て、猛突進する猛牛。あっという間に間合いは詰まり、男のふところに滑り込む!すくい上げるように その刃物のようなツノを突き上げるッ!グサリッ!完全に胴体は串刺しになった!....かに見えた!「死んだッ!」

「ぎゃーッ!」観客席から悲鳴があがる!失神する者も出た。素手で猛牛に対するなどとは!「そんなのは勇気じゃねえ!それは単なる自殺行為って言うんだよ!(ハン・ソ...なんちゃらかんちゃら談)」愚かなり!結果は見えていた!こんな公開処刑じみた残酷ショーを見せることなど主催者側も人道的に許すべきではなかった!そんな後悔を今更してみたところで一切が手遅れであった。

グラリッ...ズズーンッ!いや!見てみろ!地面に崩れ落ちたのは猛牛のほうだった!男の三段腹に傷ひとつ ついてはいない! 相変わらず、そのぷにぷにで体脂肪率の高そうな体を炎天下にさらし、ただただ、ぼーっと佇んでいた。いったい何が起こったのか?一瞬のことで誰しもがわからなかった。

そこで、大型スクリーンに 再現ビデオが映し出された。ドドドド!牛が突進する。みるみる距離が詰まる。ツノが突き刺さる瞬間に バウン!見えない空気の壁かエアバックにでもぶつかったように急に、牛の勢いが 止められた!と同時に男の右手が 目にも止まらぬ速さで自分のケツをまさぐり何かを掴む!返す手で牛の鼻面へつきつける!そこで 握った拳を開き、掌底を押し当てる!途端に牛の狂気に血走った目が、トロンと鈍く光る生気を持たぬガラス球のようにかわる。まるで、河口に大量発生して 酸欠で死んだボラの目のごとし!更にグルンと白目を剥く!ガクンッ!次の瞬間、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる猛牛。ズッズーンンッ!口から黄色い泡を吐き、ピクピクと痙攣している。

「秘技!完全防御!毒ガスすかしっ屁!からの悶絶悪臭掌底(もんぜつあくしゅうしょうてい)!必殺!爆裂握りっ屁ッ!」あまりの出来事に 唖然とし、6万4,000人は ピクリとも動けず、集団金縛り状態に!

20秒ほどの沈黙のあと、一気にスタジアムが揺れるッ!

「オーマイゴッド!」「ミラクル!」「 アンビリーバボ!」「マンマミーヤ!」「サランヘヨ!」「ナマステ!」

「ヘーコキング!ヘーコキング!ヘーコキング!」の大合唱!素手で、いや!屁で猛牛を倒す!その奇跡を目の当たりにした観客!会場全体が「ヘコキング」コールに包まれ、地響きのように振動する。皆が『三代目ザ・ロリングモンキッペリビトルペッパーXヘイレンブラザーズブギウギバンドトライブ』の存在が脳内からぶっ飛んでいた。「このあと、やりにくーッ!」リーダーのポール・マッカーサー元帥が 楽屋のモニターの前で ポツリと呟いた。

そんな中、ウシのオーナーが飛び出してきた。「ああ、こいつぁもうダメだとァ!臭くて肉としても売り物にならねぇ!ただ潰すだけになっちまわぁ!」と酒灼けで しゃがれた声で叫ぶと、屁の残り香で悶絶して地面をころげ回った。すぐさま 化学防護服のレスキュー隊が救護にやってきた。救急搬送されるのを制して、男が言った。

「これこれ、潰すとは聞き捨てならん。一度でも 命をかけて拳を交えれば、それは強敵(とも)、どうか その牛さんの命、私に預けてはもらえんだろうか?」酸素マスク越しにオーナーがこたえる。

「ただでは嫌じゃあ。アンタのファイトマネー全額と交換じゃあ!」

「うむ、いいだろう!」

「ハイ!50ペソ。」

「少ねーッ!」「アンタ!どっかでピンハネされとるぞ!」「モウ..。」

「何と言うことだ。成り行きとはいえ。さっきまで この男を殺そうとしていた 自分を 50ペソとはいえ、全財産を叩いてまで救おうとしてくれるとは。そんな人間がいるとは。ありがたい。」薄れゆく意識の中で牛は何度も両手ならぬ両ヒズメを合わせた。その後、牛はダイエットにダイエットを重ね、体重を150キロまで減量し、その男の付き人になって世界中を転戦していくこととなる。のちの『立憲牛民維新(りっけんぎゅうみんいしん)の会』の創始者『牛田松蔭(うしだしょういん)』である。さて、話は変わる。

1985年冬、ニューヨークはマンハッタン。

とあるビルの一室に その男はいた!

男は 薄く目を閉じ、腕組みをし、軽く足を組み、静かに椅子に腰掛けていた。重厚な大理石のテーブルを挟んで、男の眼前 には、44口径の銃口が3つ、首の両脇には 鋭い ジャックナイフが突きつけられていた。

男は静かに口を開いた。

「それでは、どうしても ジョージとそのつれを返しては もらえぬのだな?」

「おいおい、ミスター。どうやら この状況が わかってないようだな。キミは提案出来る立場に無い。普通なら 泣きわめき命乞いをするところだ。ボスの女を寝とってタダで済むと思うか?」「明日の早朝、ドテッパラに三つの風穴が空き、首の左右をナイフでえぐり取られた、キミを含め三つの死体が 、ハドソン川に浮かぶことになるぜ。」まさに絶体絶命である!ボーンッ!その時、室内の大きなのっぽの古時計が午前0時を告げる。一瞬の隙が生まれた。その男が躍動する。銃声が三つ、室内に鳴り響く。時計が最後の刻を告げ終わるまでに 室内には 動くものはいなくなった。その男を除いて。五人の男はいちように 床で白目を剥き悶絶し、気絶していた。いったい この数秒の間に 何が起こったのか?室内に残された防犯ビデオを検証してみよう。

まさにに引き金が引かれようとした瞬間、男は後方に沈み込む。ブリブボボボーンッ!という轟音とともにすざましい風圧が発生し、あの重いテーブルが、フリスビーのように前方に吹っ飛ぶ!またしても屁だ!その直撃を食らってはひとたまりも無い。ボキャ!バキバキ!あばら骨や肋骨、手足の骨が 無残に砕け散る音!と同時に屁で後方に吹っ飛ばされつつ両脇のオトコの顔面に握りっ屁をかます!ただ臭いだけなら後ろに仰け反るが、思わずゲロを吐きそうな類の屁だったため 口元や胃を抑えて前方に体を折り曲げる!もし、銃の男たちがテープルをかわしたとしても ゲロの男たちが 前方を塞ぎ、発砲は出来ない。男はトドメを刺そうとしたが、それは不要であった。倒れ込んだ際、床上20センチに沈殿した悪臭のガス層に モロに突っ込み、全員失神し、ピクリとも動かなくなっていた。中でもリーダー格の男は あまりの臭さに 一瞬にして丸ハゲになっていた。そして全員の鼻毛が タンポポの綿毛のように ごっそり、抜け落ちていた。隣の部屋ではジョージとその連れも 巻き添えを食って 失神していた。もちろん鼻毛も抜け落ちていた。風の噂では、ジョージをはじめ、その場にいた七名は、鼻毛が生え揃った今でも 後遺症に苦しんでいるらしい。

以上の記事は 全て 米格闘雑誌『ブラック屁ルト』に掲載されている。

輸入雑貨店『ビレッジ・バンバンビガロ』御徒町店で 偶然 この記事を発見した私(筆者)は この男に興味を持つに至った。なぜ海外で有名なこの男が、日本国内では 全くと言っていいほど無名なのか?

取材を申し込むと 男はあっさり快諾した。

指定されたところは群馬県高崎市の郊外であった。と言っても高崎駅周辺から もう郊外感満載なのだが。自宅は木造プレハブ平屋の借家で、何件か連なっているタイプだった。近々取り壊されて更地か駐車場になりそうな予感充分の物件であった。男はその、猫の額ほどの庭に...失礼、いくらなんでも言い過ぎました。普通車1台駐車できるかどうかのスペースの庭に ぬぼ〜っと呆けたように佇んでいた。傍では弟子らしき2人の少年が、空手の型らしきものを反復練習している。私が声をかけると、ビクッとして振り向き「やあ、どうも。」と言う。あきらかに寝ていた。「私が屁尾古希増(へおこきます)です。」と男は名乗った。「失礼ですが、アメリカ武者修行で儲けられて、目白に推定30億円の 豪邸を建てられたと聞いていたのですが。」「知人の保証人になったばかりに、借金のカタにとられました。」「『ヒヨコのオスメスを見分けることの出来る 大仏のアタマのキーホルダー』を生産販売する会社を立ち上げるということで。」「もろ、怪しいです。」「試作品を見せてもらったのだが、大仏のひたいの赤い石をヒヨコにあててしばらく置いておくとオスメスがわかるという。」「どのくらい?」「半年ぐらい。」「そりゃ、自然に成長して、その頃には 否が応でもオスメスわかりますよ。」「なるほど!」「アンタって人は。」知人に騙され30億円の豪邸を失ったことより 小さな弟子達が来なくなることを 悲しそうに 熱く語る『屁尾古希増(へおこきます)』であった。

「まあ、立ち話もなんなんで、どうぞこちらへ。」その辺のホームセンターで 980円で購入した ペラッペラの合板の縁台に座るように促し、自分も腰を下ろした。ミシッ!荷重体重ギリッギリである。

「三度三度の食後のデザートにも困る借家暮らしですが、充実しています。」「三食 デザートいらんやろ!」「弟子には こう言っております。『歌うように(屁を)コケ、コクように語れ』と。」「素晴らしい!何一つ 得るものは無いが。」「当初は200人いた弟子も 今では二人。」「でしょうな。」「まあ、『屁コキ道』を極めるとは 孤独な道。モテモテで一攫千金左うちわ貯金5千万以上老後も安泰...とは無縁の世界です。」それを聞いていた二人の弟子が道着を投げ捨て「老後が心配なので辞めさせていただきまーす!さいならー!」と言って出て行った。「ふふふ、どうやら 元のひとりぼっちになってしまったようですな。」男は寂しそうに笑った。「屁コキ道とはハイリスク、ノーリターン!そして...,」カンカンカン!その続きの言葉は いつの間にか静かに忍び寄ってきた秋の夕闇に鳴り響く電車の踏み切りの警報鐘にかき消されて聞こえなかった。もっとも 大した事も言っていないであろうが。だが、その鐘の音に紛れて、小さくプッと屁をカマす音を 筆者は聞き逃さなかった。「少し 冷えてきたようですな。小腹も空いてきたし。続きは室内で。さあ、もっとも ポテトぐらいしかありませんが。」誘われるまま 小汚い借家へと足を踏み入れた。「イモ食えば ハラが鳴るなり 放流ウジ、臭きに泣きて三歩あゆめず、われ泣きぬれてイモとたわむる。」笑うタイミングが全くつかめないまま、近所の古寺の鐘がゴ〜ンとひとつ鳴る。コレでオチがついたのか?

しまい忘れたコタツをテーブルがわりに置いた四畳半の和室に通された。他にめぼしい家具は無い。そこで男は自らの半生を、再び語り始めた。

「そう、あれは、太平洋戦争も終わりの頃でした。特攻隊員だった私は 九州の知覧から 数回出撃するも 毎回 エンジンとパラグアイ、いや、腹具合(はらぐあい)の不調で引き返し、とうとう昭和二十年八月十五日の終戦を迎え、九死に一生を得たのでした。」「いやいや、年齢的に 全く合わないようですが?」「気のせいです。」「私はよく人から『着痩せするタイプですね。』と言われます。」「いや、そこは『年齢より お若く見えますね。』でしょ。」「うむ、そうとも言う。」「そうとしか言わんでしょ。」「それはさておき、そろそろ イモがフケたようです。夜はまだまだフケませんが。」「上手い事言ったなっていう ドヤ顏はやめてもらえますか?」「さあ、腕とは関係なく 美味いですから。」「何気に『ときめきに...なんちゃらかんちゃら』のセリフをブッ込んできますな。」「やってみるもんだ、先にこれ食わなきゃ、後のイモが食べられなくなった。」「前も後も全部、イモやん。」「さあ、召し上がれ。」「って、蒸したイモじゃなくて『マク...なんちゃらかんちゃら』のポテトのMやん。」「それを レンジでチンしただけですが、何か?」「私の知り合いで チン!じゃなくてピーン!だと 頑なに言い張る人がいまして。」「ほう、見たところ この家にレンジは無いようですが?」「実は フトコロでゾウリと一緒に温めておきました。」「キモッ!」「ところで どこまで話しましたかな?」「高度成長期、団塊の世代の集団就職で東京駅に着いたところまででしたかな?」「バブル期直前のアイドル全盛82年組あたりの話です。」「そうそう、そうでした。」「いい加減だなぁ。」「人間の記憶とはそういうものです。」「ひらきなおったか?」「なにか?」「いえ、何も。」「言いたいことがあったら はっきり言って下さい。」「では 250時間ほど かかりますが よろしいでしょうか?」「私が 悪うございました。続けてよろしいでしょうか?」「よきにはからえ。」「ははー。」「と言う事で、あの アイドル豊作の年、私は 名古屋市昭和区の八事(やごと)という所に下宿しておりまして。いや、天白区の八事(やごと)だったかな?」「まあ、八事(やごと)は 両方の区にまたがっとりますからな。」「どっちにせよ八事(やごと)ですな。」「まあ、私も アイドルブームの直撃を受けまして、雑誌、レコード、ブロマイド、コンサートチケット、デッキも無いのにβのミュージックビデオソフト、更にはファンクラブに五つ入っておりまして なんだかんだで出費がかさみ、中央郵便局での深夜の仕分けのバイトでも追いつかず、三度三度の食事にも困るていたらく、気がつけば一日5食になってました。」「深夜のバイトで夜食が二食 増えましたな?」「そんなある日のバイト帰りの早朝、『マク...なんちゃらかんちゃら』の前を通りかかると、ゴミ置場に大量のポテトが 廃棄してあるのを見かけまして。」「持ってかえっちゃいましたか?」「はあ、ナゲットやパンもついでに。」「飽食の時代で 廃棄物が大量に出てたでしょうな。」「それからは市内の店舗を計画的に効率よく、まわり、回収しまくり。」「食いまくり?」「ふっと 我に返った頃には。」「どのくらい?」「1年3ヶ月。」「自我失ってたの 長ッ!」「気がつけば 体重は 通常の三倍に、スピードは三分の一に。愛用のジャージの色から『紅のイベリコ豚』と 言われるようになっていました。」「下宿の北隣に小さな道路を挟んで 旅館がありまして、そこに大型のドーベルマンの雑種がいました。そいつが 親の仇のように やたら私にキバを剥き、唸り、激しく吠え、飛びかかってくるのでした。通常はクサリに繋がれているのでギリギリ、15センチぐらいの差で届きません。」「しかし、たまに夕方の散歩で 出くわした時に、すれ違いざまに 体を器用にひねり、ガブリとケツを噛んでくることがあるのです。」「何度、ケツにヤツの歯型をつけられたことか。」「その日も 下宿の裏の勝手口を出て自転車に乗ろうとしてた時に、ヤツは散歩から帰って来たところ、飼い主の制止も聞かずババッと背後からやってきて、ガブッといつもの3倍増しで噛みつきやがったんです。」「その時、私の中で、何かのタガが ガチャンと外れたか、カチンと何かのスイッチが入ったか、ケツの栓が抜けたか、したのです。」「ボバッ!ブッ!ブロロローンッ!」「当の本人も驚くぐらいの爆音と共に、ケツから竜巻のような気流が放出され、中学2年女子の飼い主ごと ドーベルマンもどきを 吹っ飛ばしたのです。」「キャイ〜ン」「ライナー性の当たりで10メートルほど吹っ飛び、旅館の黒い壁に激突!それを難なくぶち破り、ゴロンゴロンと中庭へと転がりこんで行きました!運悪く庭で市会議員一行の盛大なバーベキュー大会が行われており、そのボンベに引火し大爆発!あたりは巨大な火球に包まれました。モコモコと不気味なキノコ雲が立ち上り、半径100メートルの窓ガラスは全てコナゴナに破壊されたのです。まるで『ファイナル・デッドコ....:..なんちゃらかんちゃら』のような大惨事になってしまいました。幸いなことに、83名、臭気と爆風で一時仮死状態に成り、全員アフロヘアになったものの命に別状は無かったのです。が、旅館は本館、別館、物置小屋に至るまで 全壊!木っ端微塵!コナゴナに吹っ飛んだのです。その後、更地にされ 売地にされたが 買い手がつかず 公園になりました。公園の一角には『グランドゼロ』と刻まれた石碑がたてられました。時々花束が供えられているようですが、死人は出てないので!即刻 やめるように!」

「その時のドーベルマンもどきですか?ほれ、あそこに。」庭に出てみると、指差す先に『チャウチャウ』?が鎮座していた。色はチャコールグレー。「あれ以来 毛がちじれてチャウチャウに見えますが、あの時のドーベルマンもどきです。」「バウッ!」それまでぼーっとしていた犬が突然、思い出したように男のケツに噛み付いた!ガブッ!バン!ボン!ボボン!途端に屁圧で10メートルほど吹っ飛ばされ路上へ、そこへもって、通りがかりのおばちゃんのスクーターにはねられる!クルクルと5メートルほど空中をまったのち、たまたま掃除のために鉄板を外していたドブにバシャーン!と落ちた!そして大量発生したボラと一緒に流されて行った。そして暗闇の中に消えて行った...。「懲りぬやつ。」「このドブも やがては海へ出るだろう。大海原でまた会おう!」「まず、下水処理場へ行くのでは?」「そうなの?」

「事件後、私は身をくらますため、いや、修行の為、千葉県鴨川市の清澄山の山中に山籠りを敢行したのです。」「修行の内容としては、脚力をつけるため、成長の早い植物を植え、芽が出始めたらその上を助走無しでジャンプして飛び越える。徐々に植物の背丈が高くなるほど、より高くジャンプしなければならない。....はずであったが、植えたのがサツマイモだったため、ずっと茎は地面に張り付いてのたくっている。最後の最後まで、縄跳びみたいな微妙なジャンプしか出来なかったのでした。」「しかし、毎日、腕立て伏せと腹筋とスクワット1000回を100セット、山道を往復40キロのランニングを朝晩2回...夢の中でしました!更に、逆立ちでの歩行、支える指の数を一本づつ少なくしていき最終的には 親指だけで倒立し、250段の石段を登り下り出来るようになった....夢を見ました!」「全部 夢オチ。」「そう言うことかな?」「そうです。」「まあ、バーチャルトレーニングという事で 手を打って下さい。」「睡眠学習と言い張る事も出来そうですね。」「実際ところは、初日に山頂で転倒し、そのまま(ふもと)まで一気に転がり落ち、途中でサル、クマ、キジ、イノシシ、キツネ、タヌキ、ニホンカモシカ、ハクビシン、カミツキガメ、ブルーギル、セアカゴケグモ、アルゼンチンアリ、ヌートリアのボスを巻き込み、結果、喧嘩もしてないのに、ボスの座争いに勝利し、私が新しいボスになったカタチになり、以後、全ての種類の動物が私のところに 木ノ実、野菜、果物、ハチミツ、サカナ、カニ、エビ、シジミ、タルタルチキン南蛮弁当などの食べ物を持って来るようになったにです。」「おかげで、食うに困らず、実質 運動もしないので 以前にも増して太ってしまいました。」「それをチラッと見かけた登山家や猟師の間で『清澄山には天狗じゃなくて、ブッダがおられる。』という まことしやかな噂まで聞かれるようになったようです。」

「そして、1年3ヶ月が過ぎた頃、転機が訪れました。」「それは 明るい満月の夜でした。当初から『屁で自然石を真っ二つに割る』という悲願があったのですが、今日こそは割れる!そんな確信にとらわれたのです。ケツはすでに真っ二つに割れてますけどね。」「うまいことは言ってないですよ。」「うむ、話を続けましょう。全身の気を下っ腹とケツ集中する。」「屁ネルギー充填120パーセント!対衝撃、対閃光、対臭気防御!屁導砲(へどうほう)発射ッ!」「ギューン!」「空気中の粒子のエネルギーが ケツにいったん吸い込まれるイメージ。」「ドドドドーンッ!」「次の瞬間、すざましい威力の屁が、一気にレーザービームのように放出され、見事、自然石を貫いた!そこまでは良かったが、バチッ!閃光が弾けた!マズイ!火打ち石だったのか!火花が炎に変わり、凄いパワーで地面を貫き、マグマまで到達し、その辺一帯の火山活動を誘発してしまった!水蒸気爆発と火山弾、マグマ流による森林火災が発生し、地球の裏側では 海底火山による 新しい島が出現し、大陸にキレツが走った!」「私は反動で空高く吹き飛ばされ、更には火山弾により成層圏まで押し上げられ、遂には衛星軌道上にまで達したのです。」「あまりの寒さと酸欠と宇宙線をダイレクトに浴びて、もう即、死む〜!と覚悟したのですが、ギリギリ平気でした。」「小刻みに噴出する屁が エアカーテンのように体を覆い、ちょっとした救命カプセルのようになって、かろうじて生存を可能にしていたのです。」「しかし、このままではジリ貧!無縁仏となって永久に地球の周りを回り続けることになる。」「運悪く 屁意をもよおし、プッとかましでもすれば、加速がついて、スイングバイにより 小惑星イトカワ方面に 軌道をとってしまう危険性もあった!」「しかし、運良く、ロシアの国際宇宙ステーションの日本の実験棟にぶち当たり、ロボットアームを半壊させたのち、減速し、地上への落下を始めた。だが、この落下軌道では燃え尽きてしまう!屁を小刻みにひねり出し、目分量で進入角度を調整した。さっき ぶつかった時に拝借した ステーションの外板をサーフィンボードのようにして屁のバリヤー全開で落下していった。『量産型ザ...なんちゃらかんちゃら...ク』が 空中分解して燃え尽るのを横目に、大気との摩擦熱も収まり自由落下に突入した。」「最後の屁を振り絞り 逆噴射!2発!見事、軟着陸に成功した。」「その落下の様子は ロシアのドライブレコーダーに数多く撮影されていた。」

「ロシアのツングースカに落下した私は、モスクワのオタク仲間のコネを使い、カニ密漁船のタラバガニに紛れて 二週間後、新潟港に降り立ったのです。ついでにカニを闇取引し、その資金で上越新幹線に乗り、高崎まで帰って来たのであった。実を言うと乗り過ごして熊谷まで行ってしまって引き返して来たのだった。それを車掌に見つかって追加料金を支払ったのであった。」「そこから 本格的な『屁コキ道』を極めんとする 私の戦いが始まるのである!」(『疾風怒濤編』へ続く!)


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