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転生したらSM〇Pだった件

作者: MASK

箸を落としてしまった。

つまんでいたご飯がテーブルに落ちた。


俺の目はテレビのニュースに釘付けになっていた。


大きく書かれたテロップは「SMOP解散」


ずっと大好きで、心の支えにしていた中年アイドルグループSMOP。


その解散報道だった。



何を隠そう、初めて買ったCDはSMOPの「白いカミナリ」だった。

それからたまたま見たドラマで、草生くさはえくんのファンになったのをきっかけにグループの全員が好きになった。

彼らの冠番組「スモスモ」は毎週欠かさず見たし、メンバーの出演ドラマ、バラエティに至るまですべて録画した。



そう。SMOPは俺の青春であり、生きる支えだった。



40歳、独身。趣味、ドラマ鑑賞。

追っかけをしていたわけではないが、ずっとファンであり続けた。

ライブに行ったことだってある。


俺なんかより、もっとSMOPが好きで、応援し続けて、お金も時間も捧げたファンは大勢いるだろう。

本物のファンからしたら、俺程度のにわかファンなんて鼻で笑われるかもしれない。

それでも、そのニュースは誰よりも俺の心に届いてしまった。


そして、今。

俺は会社の屋上にいる。


SMOP解散のニュースが流れてから後追い自殺の報道を聞いたことがないから、おそらく俺が初だろう。

そもそもメンバーの誰一人死んでいないのに、後追いですらないか。


じゃあ、俺はなぜ死ぬんだ?


自分でもよくわからないが、何かがポキッと折れてしまったんだと思う。


SMOPが悪いんじゃない。きっと俺の人生の全てがたまたまこのニュースに集約されてしまっただけで、

こうなるべくしてこうなったんだろう。


遺書を書こうかと思ったが、俺には友達も血縁もいない天涯孤独の身の上だから必要がなかった。

遺書の中でSMOPの解散に触れれば、センセーショナルに報道されるか、とも思ったが、

それで元メンバーにショックを与えたくないし、やっぱり必要なかった。


靴を揃えて置く。

よく考えたら、別に靴を脱ぐ必要もないのだが、様式美というやつだろう。

それとも、昔見たドラマの影響か。


そんなことを考えながら屋上の柵を乗り越え、下を見下ろした。


いざとなると、足がすくんで・・・というのがセオリーだが、意外となんとも思わなかった。


今から宙に飛び出すんだと思うと、不思議と楽しくすらなってきた。


建物の壁に擦れると痛そうだし、飛んでる感じがしないから軽く1メートルほど飛んで飛び降りた。


足が屋上から離れる瞬間、亡き母親の姿が頭に浮かんで少し悲しくなった。



____________


気が付くと、真っ暗な空間にいた。

目を瞑ってしまったのか、気絶したのか、ただの夢だったのか。


それとも死ぬ直前で時間が止まっている感覚がするだけなのか、

落下の衝撃も感じていないから、まだ死んではいないのか?


なんせ自殺は初めてなもんで、勝手がわからない。



?「おい!起きろ!いつまで寝てんだ!」

誰かが呼ぶ声がする。


体を揺さぶられる感覚。


俺は・・・生きてる?

助かったのか?


いや、飛び降りは自分の意志でしたことだ。

むしろ邪魔されたというべきか。


?「起きろって!もうすぐライブ始まるぞ!」


へ?ライブ?誰の?そもそもこいつ誰?

なんだか聞き覚えのある声だけど・・・


目を開けると、そこには。


SMOPの木市きいちがいた。


俺「ええええええ!?なんで!?」


思わず声を上げ周りを見渡すと、SMOPメンバー全員がそこにはいた。


木市、香川、中野、稲村。


俺「SMOP!?なんで?」


俺はなにがなんだかわからず混乱していた。



木市「寝ぼけてんのか!しっかりしろよ!」

木市だ。本物だ。俺怒られてる。


中野「マジで大丈夫か?いけるか?」

リーダーの中野だ。心配されてる?


香川「急に倒れるから心配するじゃんよ。」

親友を心配するかのような顔だな。


稲村「大丈夫?無理しなくていいよ。」

あ、ありがとう。でもこの状況がまだ飲み込めないんだ。


木市「いや!無理しろよ!ライブ当日だぞ!お客さん待ってんだぞ!」

厳しいなこいつ。


ディレクター「まもなく本番です!」」


中野「じゃあ行きますか!」


リーダー中野の一言で全員が一か所に集まる。


よくわからないまま移動させられ、困惑しつつも憧れのSMOPと話せるのがうれしく、流れに任せてついていく。


すると突然床が動き出した!なに!?地震?いや、その前に俺さっきまで・・・


次の瞬間、目の前に火花が散り、ワーっという音が聞こえた。咄嗟に目を瞑った。


なんだこれ!?痛みは・・・ない?


そして、目を開けるとそこは。


ライブ会場だった。


まばゆいライトと割れるような声援。これらは俺、ひいてはSMOPのメンバーに向けられたものだった。


何千人?何万人?武道館?東京ドーム?え、え!?


訳もわからず、混乱する俺をよそに一曲目が始まった。

自慢じゃないが、俺は歌が下手だし、ダンスだってできない。


しかし、曲がかかった瞬間。

俺の体は動き出していた。


俺「ダンス・・・できてる・・・!?」

そして歌唱、自分のパートだ、と思った瞬間歌いだしていた。


上手くはない。でもこの声聞き覚えがある。


そうだ、この声は・・・草生、SMOPのメンバー草生の声だ!


状況は理解した。

なぜそうなったのかはまったくわからないが、どうやら俺は、

SMOPの草生になっているようだ。


そして、このライブのことも知っている。


このライブは俺が初めて行ったSMOPのライブだ。

つまり、俺は、過去に戻った上に、SMOPの草生になっているということだ。



それからは夢のような日々だった。


バラエティ、ドラマ撮影の毎日。

人気女優にも会えた。若い頃だから可愛い!!

まさかこの子が、あんな男に捕まってシングルマザーになるなんて誰も想像しないだろうなー

ヒロインのグラマラス女優もまさか、芸人と結婚するとは。離婚したけど。


そして、知ることになるSMOP、ひいてはアニーズ事務所の裏側。


俺はもうすっかり草生くんが板についていたが、これから十数年後のSMOP解散のことを思い出した。


もしかしたら・・・未来を変えられるかもしれない。


そもそもSMOPが解散しなければ、俺が自殺することも無かった。

自殺しなければ俺が草生くんになることもなかった。


・・・ん?なんだか矛盾してないか?


そういえば、俺はどうしているんだろう。

俺は俺の記憶を持ったまま草生くんになっているが、ここが過去だとしたら、俺自身も存在しているはず?


会って一言将来について忠告してやりたい気もしたが、それをすることでこの夢から覚めてしまうかもしれない。

それに今の俺は草生くんだから元の俺がどうなろうと知ったことでもない。


たしか、この頃の俺は実家住まいの大学生だった。まだまだ学生で世間の厳しさが迫ってきているのを肌で感じながらも、のほほんとしていたはずだ。

母は・・・元気だろうか。


元気な母にまた会いたい。


俺の人生は幸せではなかったけど、不幸なことばかりではなかった。

両親は離婚し、母に引き取られ、生活は貧しかったがそれでも母の愛を受け、幸せを感じたこともあった。


俺は・・・SMOPを守ることも、元の俺の人生を変えることもできるのか?

これは、神様が最後にくれたチャンスなんだろうか。


それからの日々は、仕事に忙殺される毎日だった。

その中で、少しずつ自分の考えをまとめ、俺がいた未来よりもよりよい結果を導き出そうとした。



―――そして、十数年後―――


SMOPメンバーは全員揃って新事務所を設立。

メンバーと時間をかけて話あったのが功を奏した。

何より、結果を知っているからこそ、解散以上にメンバーの別離を避ける方向に話を進めたのがよかった。


大手事務所を抜けて仕事は減ったが、メンバーが5人揃って活動をしている姿は同世代だけでなく、

若い世代の共感も呼び、むしろ今までよりも人気が出るようになった。



そして、元の俺。


あれからどうしても気になって、オフの日に元俺の様子を見に行ってみた。

ひとつも努力せず、母親に甘えてばかりのあの頃の自分。


そこに現れた、SMOPの草生くん。

元俺は目を見開き、口をパクパクさせて驚いていた。


草生くんの姿で元俺に説教をした。

ばれないように将来のことも踏まえて、どうすべきか道を示した。


きっと心に響いたはずだ。

どうしてわかるかって?

そりゃわかるよ。自分だったんだから。



結局俺が元俺に戻ることはなかった。

元俺はサラリーマンは変わらずだが、20代で結婚し、子供を設け、幸せそうだ。

今となっては他人だが、元俺の幸せは素直にうれしいものだ。

友達もいるようで、順風満帆とはいかないようだが、楽しく暮らしている。




そして、独立後も慌ただしく走り抜けてきたSMOPはついに武道館公演をするまでに復活し、その後数十年芸能界のトップに君臨した。

そして、迎えた「メンバー全員還暦超え記念ライブin武道館」


若い頃のようなキレはなかったが、味のある歌やダンスを披露した。


こっそり調べた所、元俺は子育ても無事終わり、娘は優良企業に就職し、最近は夫婦で老後の計画を立てているようだ。


すべてがうまくいった。

神様がくれたチャンスを俺は無駄にはしなかった。


ありがとう、神様。俺は・・・幸せです。



その時、雷が落ちたような音がした。

次の瞬間、ライブ会場のクレーンが静かに倒れてゆく。


俺「逃げろぉーーー!!」

我に返り、咄嗟に叫んだ。


そして、クレーンが倒れる先を見ると、そこにいたのはなんと、

元俺だった。


奥さんらしき人をかばって、座り込んでいる。


次の瞬間、体が動き、クレーンに向かって走り出した。


間に合うか!?間に合え!!

なんとか間一髪、元俺とその妻を両腕で押し飛ばした。


自分も脱出しようとしたが、体が動かない。

限界を超えていたのだ、と悟った。


そして、倒れてくるクレーンの下敷きになった。

ああ、これでおしまいか。

でも・・・いい人生だった。



不思議と痛みはない。


しかし目の前は真っ暗で何も見えない。


どこからか声がする。

?「どうした?具合悪いのか?」


?「大丈夫?」


?「どうしたんですか!もうすぐ収録始まりますよ!」


収録?俺は・・・生きているのか?


?「起きないとヤバイよ~」


俺は目を開けた。


ディレクター「あ、バッキーさん起きた!本番いきまーす!」



ジングル「なぞかけインドアバラエティ!自宅の中だけイッテU」


肉村「さあはじまりました!自宅の中だけイッテU!」



俺「俺・・・バッキーになっとる・・・」



END



2018/1/31/9:05~11:51

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