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8.階層主

「もう、スレイったら面白いことを言うのね」

「はははっ、私としたことが先走ってしまったようだ。以後気をつけよう」


 先ほどの問題について言及すると、クレアの目の前でにっこり笑顔のルーシアとぎこちない笑いを浮かべるスレイによる胡散臭い芝居が繰り広げられた。


「お前らの顔はなんでこうも正反対なんだよ……」


 大方、スレイはルーシアにとっちめられていたのだろう。僅か一週間で上下関係が構築されていた。


「なんのことかしら、私もスレイもいつも通りよ。そうでしょ、スレイ?」

「……あぁ、も、もちろんだとも! ははははっ!」


 スレイの無理な高笑いが酒場に響く。

 クレアはもうこの問題に触れるのはあきらめた。二人とも、特にルーシアは口を割らないであろうことは理解できていた。


「あなたたち、今日は階層主と一戦交えるんでしょう? そんなに気を抜いていていいのかしら」


 ラムザは朝の開店準備を進めていた。クレアたちは宿の住人ということもあり、特別に開店前から駄弁ることを許されている。


「そうよ。これから一層の階層主『ゴブリンキング』との戦闘なんだから、気合入れていかなきゃ」

「なぁに、心配はいらん! 私とクレアがいればそんな奴は瞬殺だ」

「私もいるから」


 ルーシアがジト目でスレイの意見を否定した。

 今日はこの三人にとって初の階層主戦だ。

 いままではパーティーとしての熟練度を上げることと、個人のLvを上げることに邁進していた。

 各LvはクレアLv6、スレイLv5、ルーシアLv4だ。

 塔での戦闘において最も重要なのはLvの安全マージンを守ることだ。格上の敵に戦いを挑むほど馬鹿なこともない。

 クレアたちは一層で可能な限りのLv上げを行うことでこのマージンを満たしていた。


『ゴブリンキング』における推奨戦闘Lvは4だから、俺たちはそれを全員が満たしてる。簡単には負けないはずだ。だからといって、簡単に勝てるわけでもない」


 クレアはスレイのほうを見た。


「……分かってる。油断などない。私たちは全力を尽くして『ゴブリンキング』と戦おうではないか!」

「ならいいさ。こんなところでくたばってなんかいられないからな」


 ルーシアはクレアの顔を見つめていた。とはいっても、間にはスレイがいるがそんなことは関係がない。彼女の瞳に移っているのはクレアのみだ。


 スレイは一度だけルーシアに、クレアのどこがいいのかを尋ねたことがあった。そして彼女は「助けてくれたからっていうのも理由だけど、今はあの戦闘中の目が好きなの」と言った。


 そして、今のクレアの瞳はそんな目をしていたのだ。


「そろそろ時間じゃない? 遅くなるとどこかの新米冒険者に取られちゃうわよ」


 ラムザが時計を見つめて告げ、それに三人は立ち上がった。


「行くか、次でやっとゴブリン達とはおさらばだ」

「あのギャーギャーうるさい奴らの顔を見るのも最後となるのか」

「私は良い思い出なんかないわ。さっさと二層に行きたい」

 各人が様々な思いや愚痴を抱え、ゴジュを後にした。

 

 三人はすぐにギルドを訪れ、フルーレの元に向かった。

 今ではすっかり彼女とも顔見知りとなっている。


「フルーレ、昨日言っていた『ゴブリンキング』のクエストを受けに来たんだけど、さすがにまだあるよな?」


 階層主は倒されても一定の時間で復活するのだが、その討伐を管理しているのはギルドだ。必ずクエストとして受諾しなければ階層主を倒してならない。


 これには理由がもちろんある。簡単な話だが、階層主からは貴重な素材や経験値を手に入れることができる。であれば、冒険者は殺到しないはずがない。これを管理するためにクエスト制を導入しているのだ。


 ゴブリンキングは一層の階層主ということもあり、クレア達はすぐにクエストを受けることが出来ていた。


「はい、大丈夫ですよ。こちらがゴブリンキングのクエスト情報になります」


 参加メンバーの記入欄に一人ずつ直筆でサインし、クレアはそれをフルーレへと差し出した。


「メンバーの方はこれで全員ですね。では、手続きはこれで終了です。初の階層主戦だと思いますが、皆さんの健闘をお祈りしています。では、塔の扉を開錠しますので、こちらへ」


 フルーレの声を胸に刻み、三人は塔の扉の前に移動した。


 何度も目にした扉の開錠の様子も、今の三人にとってはどこか新鮮に思えた。

 フルーレが扉に触れると扉が淡く光りだし、ゆっくりと扉が開いていく。


「それじゃ、行ってきます」

「はい、お気を付けて。必ず、生きて帰ってきてください」


 クレア達の無事の生還を祈り、フルーレは腰を深く折る。

 それを見届けた三人は塔の中に足を踏み入れたのだった。


 

 階層主のいる部屋はフロアの最奥にある。そのため、小一時間ほどの移動で出くわしたゴブリンたちをクレアは切り伏せていた。


「おいおい、クレア。これでは私の活躍がまるで無いではないか。なんのためにタンクの私がいると思っているのだ」

「まぁ、そう言うな。スレイにゴブリン達を引きつけてもらってたら、不必要にダメージを負うだろ? それなら、俺がゴブリン達の攻撃をよけて一撃で仕留めたほうが効率が良い」


 クレアは率先して敵の前に出て攻撃を仕掛けていた。


「クレアの言う通りよ。スレイにはこれからゴブリンキングをホールドしてもらわないとならないんだから。体力の温存はあなたの義務よ」

「ルーシアまで……くぅ~仕方ないか!」


 自分の戦闘欲とパーティーとしての役割がせめぎ合っているのだろう。スレイはうなり声を上げる。


「まぁ、それも終わりらしい」


 クレアが先頭を歩いていたが、やがて歩を止めた。

 目の前には巨大な扉。扉というよりも門を言ったほうが適切かもしれない。


 三人は階層主のいるエリアは巨大な門で仕切られているということをフルーレから説明されていた。


「おぉ、この扉の向こうに奴がいるのか! やっと私の出番か!」

 スレイは一目散に門に近寄り扉に触れようとした。


「スレイ、ストップ」


 ルーシアの鶴の一声でスレイは石のように動きを止めた。


「あんた、作戦の確認くらいはしなさいよ。ここにいるのは全員が初めての階層主戦なんだから」


 ルーシアの言う通りだった。階層主戦はそこらの魔物とは格が違う。まさにそのフロアの主としてふさわしい戦闘力を備えている。戦闘前の作戦会議は必要不可欠だ。


「むぅ~、すまない。それではゴブリンキング攻略会議といこうか」


 スレイがその場に座り込んだのを見て、他の二人も輪になるように座り込んだ。


「んじゃ、まずはゴブリンキングについての詳細からだな。体長は人間より一回り大きい。そして、こいつの最大の特徴はデカい棍棒だ。これがあるせいで、あいつの至近距離に近づくのは意外と難しい」


ゴブリンキングはその体格を生かした広範囲の攻撃を得意としている。それをどう対処するかがこの戦闘のカギになる。


「そうね。そこでスレイの出番よ。しっかりゴブリンキングを引きつけて。そうすれば、クレアが安全かつ的確にゴブリンキングの棍棒を持つ腕を攻撃することができる」


「あとは簡単だ。棍棒が持てなくなったゴブリンキングを仕留めて終了だ。大して難しいことは何もない。気負わずにいけば大丈夫だ」


 二人はスレイを見つめた。そこに込められた思いは、きっとスレイに届いたのだろう。

 スレイは胸を張って答えた。


「任せろ! 私が二人を守る盾となろう! だから、クレアよ。お前は必ず奴を仕留めろ」

「あぁ、心配はいらない。そうだ、クエスト達成の暁には祝杯だな。報酬もそこそこ出るだろう」

「ラムザさんにお願いしないとね」


 ルーシアも嬉しそうな声を上げる。


「よし、そうと決まったら行こうではないか!」


 スレイの掛け声で、作戦会議は終わりを告げた。


 そして、タンクとして皆を守るスレイが先頭に立ち、階層主の待つであろうエリアへの扉に手をかけた。




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