シャトー・ド・コシュマール
こんばんは、遊月です!
しばらくこの作品の連投を続ける予定……(〆切まで間近だったんですねぇ)?
ということで、今回は主人公ゆりちゃんと先輩が再会?するお話……。
本編スタートです!!
「先輩……?」
遠くに見えたのは、ずっと待ち望んでいた姿だった。
夏休み明けの2学期。
夏休みを境に変わってしまった絢伽先輩をもとに戻す。そんなことを言って、幼馴染みで先輩の彼氏の時弥と一緒に来た廃遊園地【ワンダーランド】。
ミラーハウス『シュピーゲル・ミロワール』を出たわたしを待っていたのは、廃墟なんかじゃない、人で賑わった「遊園地」だった。そして聞いたのは、先輩もこの場所に来ているらしいこと。
何かがおかしいとは思ったけど、それでもわたしは懸命に捜した。だって、本気で先輩のことが好きだから。
中途半端な興味なんかじゃない。
あの時は周りにたくさんの人がいたから拒むしかなかったけど、先輩が望むならきっと何だって捧げられる……わたしの「好き」はそういう「好き」だから。
ジェットコースター『エル・フリューゲル』の事故に間一髪巻き込まれずに済んだわたしは、先にその列に並んでしまっていたらしい先輩の姿を捜した。
結局見つからず、途方に暮れていたわたしの前で、見慣れた……というか着慣れた制服が揺れていた。
「先輩……?」
遠くに見えたのは、ずっと待ち望んでいた姿だった。
先輩も呼びかけた声に気付いてくれたようで、「あっ」というように口元が動いたのが見えた。
「先輩……!」
我慢できなくて、声をかける。
もしかしたら、またこの間のようにひどい言葉を浴びせられるかも知れない。
今度こそ、心が折れてしまうようなことを言われるかも知れない。
それでも、わたしには先輩を見かけても知らんぷりなんて、できるはずがなかった。
「あ、小金井さん。何か、随分久しぶりに見たような気がする……」
そう返してくれた先輩の顔には、どこか怯えたような気配が見えて。
その姿は、まるでわたしを踏みにじって突き放した日の先輩とは別人のようにすら見えた。
あの日とはだいぶ違う――今までわたしに優しく接してくれていたときとも違う――先輩の姿に違和感がないといえば嘘になる。
それでも、今は脆そうな……ひょっとしたら、わたしの醜い期待すらも受け入れてくれそうな先輩の手を、ただ絡め取りたかった。指先から広がっていく衝動に、逆らえなかった。
少し冷えた指に、自分の指を絡めて。
「先輩、今どこに向かってたんですか?」
指先の震える感触を噛み締めて。
「わたし、ここ初めてで。一緒に回りましょ?」
何かを躊躇するような瞳を覗いて。
「あ、パンフ見ましょうか?」
小柄……といってもわたしよりは少しスラっとしている体に身を寄せて。
「ここからだと……、この『シャトー・ド・レーヴ』なんて近そう? ていうか、あのお城みたいなやつですかね。ねぇ先輩、一緒に行ってみません?」
彼女がたまに時弥に見せているあざとい姿を真似て、誘う。
そういうのも、全部見てるし、全部わたしの一部にしてみせる。
先輩はわたしを見て、少し迷ったような顔をしながら。
「……そうだね、ちょっと行ってみよっか」
薄い唇を動かして、そう答えた。
その瞬間に、単純なわたしは用意していた計算式とかそういうものをあっさり投げ捨ててしまって。
「ほんとですか!? じゃあ行きましょうよ!!」
簡単に浮かれきって、先輩の横を並んで意気揚々と程近い場所に見えるお城へ向かう。
先輩がそんなわたしに向けてくれた明るい笑顔に混ざる、仄暗い色になんて気付かないまま。
入り込んだ『シャトー・ド・レーヴ』の中は、探検型のアトラクションだった。
幾千年も続く呪いに囚われたお城を舞台に、ロウソク(を象ったペンライト)を片手に歩き回りながら、そこかしこに仕掛けられた罠を避けながら謎を解き、見事呪いを解ければクリア、出たあとに豪華賞品が用意されているのだという。
ただ回るだけでも充分面白かったし、それに暗がりの中で回ることができるということでカップル人気が高いらしいことは、並んでいるうちからわかった。
確かに、1組につき1つしか配られないライトのせい(おかげ?)で先輩との密着ぶりも尋常じゃないわけで……、それでいて先輩も1学期までの優しい先輩のままで……。
あの学校に現れていた先輩は何者だったのだろう。
そんな疑問を持っていたら、不意に袖を引かれた。
「あのさ、小金井さん。ちょっとこっち行ってみない?」
そう先輩が指さしたのは、細くて脇道で、明らかに正規ルートとは言えなさそうな場所。一瞬戸惑ったけど、ライトの薄明かりに浮かび上がっているいたずらっぽい笑顔は、間違いなくわたしが好きになった先輩そのもので。
そんな笑顔に、また期待してしまうわたしは。
「いいですよ?」
そんな曖昧な返事を返して、先輩の指した暗い通路に向かって進んだ。
少しずつ明るくなっていく視界。少しずつ大きくなっていく悲鳴。
通路を通り、階段を下りていく。不安で掴んだ腕はひどく冷たく。
大丈夫だと囁いた先輩の声音は、わたしの不安を見て楽しそうで。
そして、とうとう辿り着いた階段の先。
泣き叫ぶ人々の姿に怯む間もなく。
突然鳴り響いた低く大きな声。
『ようこそ新たなる罪人よ、審判の間へ!』
「え……?」
「ここに、あなたを連れて来たかった……」
法悦とも言える声音を首筋に浴びて、わたしはただ呆然としているしかできなかった……。
前書きに引き続いて、遊月です☆
今回は、というか前回までも、あまりホラー的な怖さがないかもしれません……(^_^;)
基本的に、「人間が怖いんやで~」勢なせいもあるのかも……?
徐々に不穏な影が見えて参りましたが、このお話もクライマックスに差し掛かっております!
いよいよ、少女は【真実】に到達する……
ということで、また次回の更新でお会いしましょう。
ではではっ!!