エル・フリューゲル
こんにちは、遊月です♪
すっかり更新が遅くなっていますが、AWL第3話です! 様子の異なるワンダーランドに来てしまった少女の物語……
本編スタートです!!
「では、引き続きワンダーランドをお楽しみくださいね♪」
可愛らしい顔をしたお姉さんが、ミラーハウス『シュピーゲル・ミロワール』からわたしを連れ出して見せてきたのは、わたしが入った【とっくの昔に閉園した廃墟】とは違う、今まさに人気を博している【遊園地】のワンダーランドだった。
辺りは賑わって、はしゃぎ声まで聞こえてくる。
「次どれ乗るー?」
「あ、ジェットコースター!」
「ならんでるよー?」
「じゃあ、ミラーハウス!」
「もうおしまいだって」
「え~!?」
楽しそうな声。
わたしも昔はよく行ったっけ。最後に行ったのって、小学校を卒業する前に時弥と近所の遊園地で遊んだときだったような……。
時弥。
そうだ。
わたしは、こんな所で立ち止まっているわけにはいかない。
この遊園地に来たのは、絢伽先輩が変わってしまった理由を探すためなんだから!
わたしは、本気で先輩のことを想っている。
時弥みたいに、中途半端な欲だとか臆病風だとかで左右されるような想いじゃない。
だから、たとえ何かがおかしい場所に迷い込んだのだとしても、そんなのは関係ない。何があったって、先輩を元に戻すのを諦めない……!
そう思い直して、戸惑っていた気持ちを引き締める。
とにかく、探すんだ。
「………………」
といっても、その手段が思いつかない。
ただ辺りを見回して探すといっても、辺りは人だかりばかりだ。それに、先輩たちがワンダーランドに来たのは夏休みのうちだ。
手がかりなんて、掃除されたか雨風で飛ばされるかしてしまっているだろう。
愛の力で……なんて夢みたいな言葉を恥ずかしげもなく言えるほど、わたしも幼くはない。
だから、どうにかして探さなくてはいけない。探す方法を考えなくてはいけない。
「先輩……」
案の定圏外になってしまっているスマホでも、画像メモリを見ることはできる。夏休みに入る前に、1学期最後の思い出とか口実を作って撮った写真を見て、どうにか心を奮い立たせる。
……うわ、緊張しすぎてわたしブサイクになってる。
隣で写っている先輩も、困ったような苦笑いになってるし~! ……この頃まで、優しい先輩だったんだ。
なのに。
『そんなに私のこと好きなら、今ここで脱いでみてよ』
『そんな中途半端な興味の対象になってあげられる程、私暇じゃないから』
『あっそ』
まるで別人のように冷たい言葉。冷たい感情。突き刺さるくらいの悪意に満ちた姿が甦る。
違う、あんなのは本当の先輩じゃない。
きっと、【ここ】で何かが起こったんだ。
だからわたしは、【ここ】で先輩の身に何が起こったのかを知らなくてはいけない。だから、わたしはここで止まっているわけにはいかない。
でも、どうやって探せば……。
そう思っていたとき、ふとさっきのお姉さんの声が聞こえて。
「すみませーん、ちょっといいですか?」
咄嗟に声をかけていた。
「あぁ、あなたさっきの……。どうかしたの?」
思った通り、お姉さんは気さくな感じで振り向いてくれた。後から慌てて「じゃなくて、どうなさいました?」と言い直してたけど、そんなの別にいいのに……とか思ったりして。
それで、わたしは本題に入った。
「ちょっと前なんですけど、この写真の人来ませんでしたか? 学校の先輩なんですけど……」
「ん~? どれどれ……。あぁ、何か来たような気もするんだけど、」
「ほ、ほんとですか!?」
じゃあ何してた? どんな顔してた? 周りキョロキョロしてた? 何に乗ってた? どこに向かってた? 色々なことが同時に頭の中で浮かび上がって、うまく言葉が出てこない。
よく考えたら、1ヶ月近く前のことをそこまで覚えているはずがない。この人たちはいろんなお客さんを見ているんだから。
「ていうか……たぶん今も来てるかも? あ、そうそう! ついさっき近くで見たし!」
「ほんと!?」
思わずお姉さんに詰め寄るように訊いてしまう。お姉さんは少し驚いた顔で、「うん、あのジェットコースターあるじゃない? あの列に並んでたけど……?」と教えてくれた。
先輩が来てる……!?
だったら、すぐに会わないと、会って、【ここ】で何があったのか詳しく訊いて、元の優しかった先輩に戻ってもらうんだ!
それで頭がいっぱいだから、忘れていた。
ここは普通の遊園地ではないことを。
わたしが来たときには【とっくに閉園した廃墟】だったことを。
それを、わたしはすぐに思い出すことになる。
「ジェットコースターって、これから……」
もう夜だというのに、ジェットコースター『エル・フリューゲル』の前には長蛇の列ができている。
……この中に先輩が?
そうはわかっていても、なかなか見つからない。
先輩は、決して背が高いわけではない。それでもわたしとかよりはずっと高いけど。
そして、綺麗で可愛らしい人だけど、決して人の目をひくような美人さんでもない。だから、この人混みから見つけるのは簡単じゃない……ううん、凄く難しい。
途方に暮れる思いでいたとき、ふと思い出した。
『あのさ、時弥。ここって何で閉園したの?』
絢伽先輩が変わった手がかりを探しながら歩いていたとき。ふと気になって、時弥に訊いたのだ。
目的は「そういう」ことでも、行くと決めたのは時弥なんだろうから、何かしら知っていそうだと思ったのだ。
『ん? そうだなぁ、何か色々あったんだよな……』
そうして話してくれた、ワンダーランドにまつわる噂話。
ここのジェットコースターでは。
『誰に訊いてもはっきりしないんだけど、何か事故が起こるらしいんだよ。俺が聞いたのは、乗ってた子が投げ出されて……だったかな』
でも、確か新聞とかニュースにはなくて、ネット掲示板でしかそんな話は取り上げられてなかったとか言ってたような……。
ガタンッ!
「おい! おい、おい、おい!! これ落ちる、落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるぅぅぁぁあああああああああああああ!!!!!」
ぎゃああああああああああああああああああああああああああ
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ
身の毛もよだつような叫び声が聞こえた直後、待っていたお客さんの列に、全部で20人くらい乗れる車両が勢いよく落ちてきた。
悲鳴があちこちから聞こえて、聞きたくないような音も同じくらい聞こえて。
わたしは、運よく巻き込まれずに済んだけど、乗っていた人も車両の下敷きになった人も、どう見ても生きているとは思えない姿になっていて。
「先輩……!」
先輩はどうしただろう。
「先輩、絢伽先輩……! 聞こえますか、1年の小金井です! あの、大丈夫ですか!? 聞こえたら返事をしてください!! 先輩……!!」
何かを踏んでいるけれど、気にしてなんかいられない。
まさか先輩がこの中に……!? いや、そんなのありえない! ありえさせないんだから……!!
先輩の声を、必死に探す。
生きているという証明だから。
そのとき、程近い所に見慣れた制服姿が見えたような気がした。
前書きに引き続き、遊月です!
本作は「みんなで怖がりたい」というコンセプトで執筆させていただいておりますので、表現に物足りなさを感じる方がいらっしゃるかも知れませんが、ご容赦ください……と前言い訳します(笑)
次回はまた違うアトラクションが登場です♪
ではではっ!!