「ワンダーランド」の噂話
こんにちは、遊月です!
「夏のホラー2017」企画作品として、『Another Wonder Land』開園いたします!
さぁ、迷える魂たちよ。【真実】へ至る彼らの旅路を共に歩もうではないか……!
ホラーっぽく?言ってみました(笑)
本編スタートです!
山間のぬかるんだ道を、1台のワゴン車が走る。
運転席に座った青年が、隣に座っている学生服の少女にいたずらっぽい笑みを向ける。
「もうすぐ着くよ、絢伽」
「ねぇ、時弥先輩、やっぱり帰りましょうよ~! 変な噂あるっていうし」
少し怯えたような声音で絢伽は言う。だが、絢伽が本当に帰りたいわけではないことを察している時弥は、尚も車を走らせる。
最近つまらない。
何しても結局最後は一緒だし。
そんな愚痴をこぼしているらしいことを彼女の友人から聞いていたので、時弥はどこか「燃えられそうな」所を探そうと思ったのである。
そうして見つけたのが、これから向かう「ワンダーランド」という遊園地であった。もう20年近く前に閉園しているが、今でも「様々な目的」を持った来場者がいる、廃墟だ。
色々な噂話があることはもちろん知っているが、そういうものは大体が人よけの為に流された「ありそうな」昔話に過ぎないのだろう。これから人よけが必要なことをしに行きたい自分たちには好都合な話である。
いつの間にかまた降り出していた雨の中を、そのワゴン車はただ走る。
そして、とうとう辿り着いた「ワンダーランド」の入口。
錆びて腐食した門扉が開きっぱなしになっている中へ、時弥は車を走らせた……。
* * * * * *
「ねぇ、私のことがそんなに好きなら、ここで脱いでみせてよ」
その日は、まだ夏が終わる気配のない夏休み明けのこと。放課後、美術室に呼び出されたわたしは、先輩から冷たい声でそう言われた。
「できるよね」
「え、好きってそういう?」
「へぇー、小金井の趣味ってそういうアレだったんだ~。意外?」
周りにたくさんの人がいる中で。
そんなの、嫌に決まっている。
返事に窮して床に座り込んだわたしに、頭上から冷たい声。
「……やっぱり。そういう中途半端な興味の対象になってあげられるほど、私暇じゃないから」
中途半端。
その言葉だけは、どうしても黙って聞いていられなかった。
何事にも一生懸命だとわたしを褒めてくれた先輩から、そんな風にわたしの本気を否定する言葉を、聞きたくなくて。
だから。
「せ、先輩!!」
「なに」
だけど、意を決して言おうとした言葉は先輩の敵意に満ちた声と目付きに打ち消されて。
「何でもない、です。ごめんなさい」
臆病なわたしの口から出たのはそんな言葉だけだった。
「あっそ」
不愉快そうにわたしを一瞥して美術室を出て行く先輩と、その様をまるで見世物みたいに面白がりながら出ていく周りの人たち。
「ねぇ、ちょっとかわいそくない?」
「えぇー? でもずっと困ってたみたいだし」
「付きまとわれてたんだっけ」
「ていうか最近そういう悩み言ってくるようになったよね」
「ウチら、頼られてる?」
「夏休みまでは何かいつも笑ってて嘘臭……とか思ってたけどね」
「うーわ、すっごい落ち込んでる~」
「被害者面してんじゃないの?」
「こわ」
口々に投げつけられる言葉の形をした凶器。心に刺さる痛みなんて知らないとでもいうように笑う彼女たちに殺意を覚えつつも、わたしは訳がわからない気持ちで上級生たちの先頭を歩く先輩の背中を見る。
どうして?
あんなに優しく笑ってくれてたのに。みんなから馬鹿にされてしまっていた絵を、初めて褒めてくれた。見てほしいところを見てくれて、そのうえで意見をくれた。
そんな、初めての人だったのに。
付きまとわれてるって、それで困ってるなんて、本当にそんなことを言ってたんですか、絢伽先輩……。
それとも、わたしは先輩を傷付けることしちゃってたのかな……。
今まで彼女といたことにふわふわした気持ちが全部嘘になったような気がして辛くて、自分のしたことがわからなくて、わたしはそのあと、しばらく美術室で泣いた。
* * * * * *
「ねぇ、時弥。ほんとは絢伽先輩に何かしたんじゃないの?」
「は?」
ジリジリとした日差しが言葉を無遠慮にする週末のお昼前。わたしは、幼馴染みで今はバイトを転々としている時弥の運転する車に乗っていた。
「だって、そうでもなきゃおかしいし。あんなに優しかった先輩が、わたしのことをストーカー呼ばわりなんて」
「ん……」
煙草を吸いながら、どうしてか曖昧に声を返してくる時弥。きっと、彼も感じているのだろう……絢伽先輩が変わったことを。
先輩から拒絶された夜、思わず泣きながら時弥に電話したとき、彼も言っていたのだ。
『確かに、変わったんだよな……。廃墟に行ったあの日から』
8月の半ばくらいに行ったというその廃墟。そこは、ずっと前に閉園したという遊園地跡地。
気になって調べたら、色々な怪しい噂が絶えない場所のようだった。そもそも閉園に至る理由も、よく子どもがいなくなるからとか、事故が多かったから、とか。
今では心霊スポットみたいな場所になっているらしい。
「何でそんなとこ行ったの?」
「あ~、ちょっとした気分転換に?」
「ふーん」
隠したって、時弥の考えていることは何となくわかる。この男はそういうやつだ。
ほんとに、どうしようもない。まぁ、そういうのにももう慣れたけど。
車は山道に入っていく。
時弥の口数が減り、その顔にも緊張の色が窺えた。その様子を見て、確信する。
この先に、「ワンダーランド」が。
先輩を変えてしまった何かが。
きっと、あるのだ。それをわたしは知りたい。知らなくちゃいけない。知るべきなんだ。
先輩のことを、知るために。
いつしか空には、宵闇が迫っていた。
前書きに引き続き、遊月です。
ホラー分なくない?と思われた皆様、安心してください。これからホラーっぽくなるはずですよ!
とううことで、また次回♪
ではではっ!!




