8022J列車 紛らわしいトンネル群
「北斗星」は蟹田駅に停車。蟹田を通り過ぎるとまもなく青函トンネルへと入る。青函トンネルは言わずと知れた世界最長のトンネル。それを今から超えて、北海道へと入る。「北斗星」はだんだんとスピードを上げて、青函トンネルへの旅路を急いでいる。
ポイントを数多く超え、下から金属音を響かせながら走る。しばらく走るとトンネルへと入った。
「これが青函トンネル。」
僕はお父さんにそう聞いた。
「・・・いや、こんなに早くなかったと思ったぞ。」
しばらくするとトンネルで響いていた音がロビーカーの中に聞こえてこなくなる。お父さんの言うとおりまだ青函トンネルではないらしい。青函トンネルは53キロを超える。こんなく早くトンネルを抜け出すはずがない。そして、またトンネルに入る。
「これは。」
「これも違うな・・・。」
と言う頃にはまたトンネルを抜ける。
「青函トンネルってちゃんと入ったら分かるはずだ。確かイルミネーションをしてたはずだからな。」
お父さんはそう言った。そして、またトンネルへと入る。僕が「これは」と聞く頃、またトンネルを抜ける。まだ青函トンネルではないみたいだ。
「もうどれが青函トンネルなの・・・。」
全然分からない・・・。
またしばらく走ると「北斗星」は駅を通過する。こんなところにも駅があるんだ。そして、またトンネルへと入る。今まで何本のトンネルを通ってきているだろうか。そろそろ本物がやってきてもいい頃だと思うのだが・・・。と思う頃またトンネルを抜けてしまう。
トンネルを抜けてすぐ「北斗星」はトンネルに入る。今度こそ・・・と思うとまた違う。いつになったら青函トンネルはやってくるのだろう・・・。次こそ青函トンネルかな。またトンネルに入った。だが、これも違う。またすぐにトンネルを抜けてしまった。そして、次もまた短いトンネルを通る。
「もうどれが・・・。」
と言った頃、少し声が聞き取りづらくなった。お父さんが近くで何か言ったみたいだが、僕の耳には入ってこない。
だが、さっきまで通ってきたトンネルと今通っているトンネルは明らかに違う。今までのトンネルはちゃんと声が聞き取れたし、下から響くレールの音もそれほどくぐもった感じではなかった。だが、今走っているトンネルはトンネルの壁に音が反響している感じがするし、大きい音が響いてくる。そして、極めつけは全然トンネルを抜ける気配がないのだ。
「これだ。」
お父さんの声をようやっと聞き取ることができた。
「えっ、これ。」
全然わかんなかった・・・。世界最長のトンネルに入るのがこれでいいの・・・。もうちょっと何かあって欲しいけど・・・。
列車は最深部に向けて下っていく。その道中蛍光灯が両方に並ぶ明るい箇所を通過する。
(あっ、本当に青函トンネルだ・・・。)
僕はこの時初めて、青函トンネルを通過しているという実感をもった。