8021J列車 後悔先に立たず
「んっ。」
ベッドの中から起きた。今はどこを走っているのだろう。上段のベッドからはしごを下り、通路へと出た。あたりはまだくらい。どこを走っているのかは全然分からない。あれから何時間ぐらい経っているのだろうか・・・。
(あっ・・・。)
そうだった。大事なことを忘れていた。僕はすぐさま1号車へと向かった。寝起きの重い目をこすりながら、先頭へと向かう。扉を開け、よく揺れる連結部を超え、1号車の室内へと入る。1号車のデッキに入り、貫通扉のところまできた。
「あっ・・・。」
変わっている。貫通扉の向こうにはさっきまで型式番号が見えていた。だが、今の機関車は型式番号が見えない。その代わりに機関車にも扉みたいなのが付いている。この機関車は青函トンネルを通過するためのものED79電気機関車だ。もうすでに青森は通り過ぎていた・・・。
(そんな・・・。)
見逃した・・・。ああ、あのとき寝ちゃわなきゃよかった・・・。その後に時計を見て分かったことだが、今日の就寝時間は2時間。この間に一ノ関から青森を超えて津軽海峡線に入ってしまっていたのだ。
「・・・。」
がっかりして、僕はロビーカーに行った。ベッドに戻る気は無かった。戻るとまたやらかしそうな気がするからだ。
6号車のロビーカーに行くと一人だけソファーに座っていた。お父さんだ。
「お父さん。」
「んっ・・・。おはよう智暉。起きたか。」
「うん・・・。ねぇ、お父さん。機関車交換見逃しちゃった・・・。」
「ほら。」
ふと顔を上げると、お父さんはデジカメを僕の前に差し出した。デジカメの液晶は撮った写真が表示されている。
「あっ・・・。」
「あのとき、浅虫温泉を通過してることが分からなかったら、俺も見逃すところだったよ。」
「お父さん見たの。」
「ああ、途中からだったけどな。」
「いいなぁ・・・。」
「でも、取ったのはあまり多くないから、それで我慢してね。」
「うん。」
こういう形だけど、機関車が交換されているところを見れたのだから満足だ。後は函館で降りた時に見逃さないだけだ。