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オチなし奇妙な物語  作者: 活動寫眞
4/12

古いアパート

僕は家を飛び出した。


妹の家の場所は分からないのにそれすら頭には無い。

とにかく見つけたい、助けたい、会いたい!

僕は完全に我を忘れていた。


無我夢中に走ってる間に僕は少し冷静になった。

そしてどっと疲れがこみ上げてきた。

場所も分からないのに走りまわって、いつのビデオかもわからない。

もしかしたら悪戯ビデオを間に受けている僕をどこかで

隠れて見ているのかもしれない。


それならそれで僕は良い。

あの映像通りより何倍も何十倍も何百倍も・・・


現実には何も起こらなかった。


周りの人たちも、川の流れのように通り過ぎるだけ

僕が川の真ん中にある岩でもあるように避けて流れていく。

邪魔な存在になったとしても、決して関わろうとはしない。


それがまた、この気持ちをどこに向ければ良いのか分からないので辛くなる。


しばらく途方に暮れ、歩いていると

地下鉄の駅ビルから階段を上って出て来る大柄な人を見た。

そして頭に映像が()ぎる。


冷静になれ、あの映像から沢山の情報があったはず

ビデオに写っていた中にお相撲さんが訪ねて来る所を・・・


僕は急いで携帯電話を探したが、家に置いて飛び出してしまっていた。

こんな時に自分自身が嫌になる。公衆電話すら財布を持っていないので使えない。

結局、一人で無駄な時間を費やして家に戻る事となった。



「おじさん!・・・たす、たすけて・・・く、・・・ください。助けて・・・妹を」


「なっ!なんだ?・・・ど、どうした!?」


「・・・妹が。・・・妹を、妹を助けて」


「妹さんが見つかったのか!?もう少し落ち着いて説明しなさい!」



僕は、おじさんに今までの経緯を順に説明した。

宛先不明の郵便物が届き、中には妹のビデオレター。

そして見たおぞましい映像の詳細も・・・。


おじさんは仕事で他県に居たので

直ぐに僕の家に駆けつけれない事を謝られた。

謝る必要などないのに、優しいおじさんに感謝だ。



「で、その新弟子を探せば妹さんの自宅が分かるってことなんだな?」


「はい、きっと分かるはずです。お願いします。」


「分かった。知り合いにも問い合わせてみよう、

 うちの若い連中にも探してみるように言っておくよ」


「宜しくお願いします・・・」


「おい、おい、他人行儀だな。遠慮などするな!もっと元気を出せよ!

 確かにショッキングな映像だったかも知れないが、

 おまえの元にテープが来たんだ。何か意味があるんだろ?

 それに妹さんが送ったかも知れない。世の中、見たままが現実とは限らない。

 無駄な心配するより今、出来ることしろ!」


「・・・そうですね、ごめんなさい。」


「うん。それで良い。」



それから数時間が過ぎ、朝になった。

バイト先には嘘をついて休ませて貰った。

流石に嘘でも家族の不幸などと言いたくなかったので

インフルエンザになったと言った。これで数日は自由に動ける。


まずは映像から間取りをメモし、不動産屋を回る事にした。

分かってはいたが、家族探しとは言え、一人暮らしの女性を特定するなど

不動産屋も公開するはずが無い。それこそ犯罪になりかねない。

仮に間取りの特定を頼んだ所で該当するであろう場所は地域を絞っても数十件

市や県を跨いだら凄い数になる。だがやるしかない。

今の僕にはそれしか出来ない。勝手に焦りを感じていた。


ドラマや映画のように探偵など出来るはずもない。

成果が無いまま、その日が終ろうとしていた。


そんな時、おじさんから携帯に連絡を受けた。

「焦っても何もないぞ!駅前に来い」 見透かされている。

焦った気持ちがおじさんへの恐怖と変わる僕。



最初の連絡からわざわざ仕事を途中で切り上げ

戻ってきたおじさんは、封筒とビデオテープを受け取ると

直ぐに視聴して見つけると約束をして3日間が過ぎようとしていた。



「取り乱しても困るから俺も一緒に行く」



電話ではそれ以上の事は話してはくれなかったが、住所は判明したと確信した。

きっと八方手を尽くして情報を得たに違いない。どこまでも頭が上がらない。

それから1時間後、駅までおじさんと会った。



おじさん曰く、

「こんな感動的な場面に立ち会わなくて何が仕事だ!人生だ!」と、張切っている。



それも俺を元気付けようとしてくれているものだと感じた。

住所が分かった時点で、ビデオテープが真実の可能性がある。

良い結果が待っているとは限らない。だが、その事を考えさせない様にしているおじさん

今はとても心強く、心地よかった・・・。


そしてもう一人、いつもお節介で世話好きなおばさんも一緒だ。

おじさんの実姉で、この人にも兄妹で大変お世話になった。

おじさんは、僕が落ち込まないように連れて来たのだろう。



「ここら辺なんだけどなぁ・・・」



おじさんは住所の書かれたメモを見ながら当たりを見回す。



「僕が見た方が早くないですか?」


「なっ!馬鹿にするのか?俺は、ここら辺は詳しいの!

 ただ当時と違って開発が進んで建物が変わって分かり難いだけだ!任せろ!」


「(どう考えても迷子だ。それに当時たって、おじさんが子供の頃だろ?

 この辺一体は田んぼか畑じゃないのか?

 目の前の家や電柱でも見れば住所出てるのになぁ。)」



おじさんに対してこれ以上の物言いは出来るはずもない。

おばさんは勝手に動いている。



「ここじゃないかしら?」


「え?ああ、ここだ!こんな奥まった場所だと分からんよ。」


「(おばさん居なければどうなっていたことか、おばさん感謝!)」



新築の一戸建てが並ぶ中、奥まった狭い路地の先に姿が見えた。

2階建ての古びた木造アパート。1階へ進む道はない。

雑木林と金網で囲まれて2階へと上がる階段だけが口を開けている。

2階上がると中央辺りに下へ階段が伸びていたので、そこから1階へ行ける様だ。


こんな昼間でも薄暗いのに、増してや1階に住んでいたらと思うと心配になった。

だが、直ぐにそれは解消された。それはおじさんの一言だった。



「201号室、ここだ。」



この扉の向こうに妹は住んでいるのか?

アパート、単純に低層で賃貸の集合住宅を表す事が多い。中高層はマンションなど。

かつての古いアパートは、風呂なし、台所、洗濯場、トイレ共同となっている。

文化住宅とは、関西で多く存在し、水周りが部屋ごとに作られた事で

「文化的」という意味で付けられた。

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