赤い夕日
そこには「妹」らしき人物が映っていた。
僕は高校卒業と同時に一人暮らしを始めた。
いつまでもおじさんのお世話になるわけにはいかない思いと
妹のためにもお金を稼ぎたかった。
おじさんの家を出て8年が経っていた。
たまにおじさんが尋ねて来てくれる。
その際にはうちのご近所の住人を集めて宴会をする。
とても賑やかで楽しいものではある。
でもそれはおじさんなりの
僕への謝罪の気持ちからなのかも知れない。
おじさん
「おまえ、最近どうだい?」
僕
「どうだいって、なんの脈絡もないじゃないですか」
おじさん
「まぁ、なんて言うかなぁ」
僕
「気を使わないで下さい。おじさんの所為だなんて思ってませんし
僕らを助けてくれて今まで育ててくれただけでも感謝してますよ」
おじさん
「・・・そっか。ありがとうな」
僕
「きっとどこかで元気にしてますよ。きっと・・・」
・・・妹を最後に見たのは、僕の家に訪ねてきた3年前
高校を卒業して就職先が決まったことを伝えにうちに来た。
わざわざ来なくても電話で良いと言ったが、どうしても直接伝えたかったらしい。
それに一人暮らしの男は栄養が偏ってるに違いないと夕飯の支度まで
今思えば二人でお祝いをしたかったのだろう。唯一の家族だから・・・
春先の雨は冷たく、外も暗いので泊まっていけばと言ったが
こんな狭く汚い部屋で寝れないとハッキリ言われた。
なら駅まで送ると言うと、それは当たり前とも言われた。
駅まで傘をさし並んで歩くこと10分
僕は駅の改札前で「仕事頑張れよ」と声を掛けた。
妹は「お前もな」と返した。そして互いに手を振って別れたのが最後だった。
雨の影響で駅のロータリーには人と車で混雑していた。
駅に迎えに来た人、傘がなくて迷ってる人、タクシーを待つ人、
走って雨の中に入る人など、きっと妹も向こうの駅で同じ光景を見るだろう
そう思いならが汚い我が家へ着く。
それから1時間もしないうちにおじさんから電話が入った。
駅まで迎えに行ったが妹と会えず、携帯にも出ないとのこと。
自宅に帰った様子もない。それで僕に連絡をしてきたらしい。
僕は急いで雨のなかを駅まで走った。
先ほどよりも雨は激しくなっていた。
ずぶ濡れになりながらも駅の改札を抜け電車へと飛び乗った。
そして駅前に居たたおじさんと会って話をした。
手分けをして思い当たる場所や知人にも声を掛けた。
そして警察にも連絡してその日はおじさんの家に泊まることにした。
あの日から少し大人びた感じはあるが妹である。
一体なにがあの日にあったのか、今までどうしていたのか
それは全く分からない。しかし、画面の中の妹はとても元気そうであった。
普段の何気ない出来事を楽しそうに話している。
画面の明るさや妹の服装が変わることから
話したい時だけ録画して、終わると録画を止めるの繰り返をしているようだ。
どうやら家に誰かが訪ねてきたようだ。
扉を開けるとそこには大柄の男性が二人立っていた。
なにやら妹は困った様子で大きな箱を貰っている。
お客が帰ったのであろう、扉を閉めてこちらに戻ってくる。
妹の説明だと、近くで相撲巡業が行われていたらしく
贔屓筋への番付を配るのに道に迷っている所を妹に助けて貰ったとか
そのお礼にわざわざ自宅まで来たらしい。
箱の中身はちゃんこの材料。野菜や魚がたくさん入っている。
ご当地食材の詰め合わせをお取り寄せでもしたかのようにそんな風に見える。
一体、どれくらい長さテープがあるのだろうか?
映像の中で妹は楽しそうに日々の生活を日記のように残して行く。
数秒から数分程度だが、何かしら言葉を残す。
服や髪型、部屋の明るさ、家具や荷物などが動いていく様が分かる。
暫く見ていると、滅多に無いが来訪者なのか玄関へ向かい扉を開ける。
妹は焦ったように扉を閉めようとするも扉は開いてしまう。
次の瞬間、妹はその場に崩れ落ちた。
積み木のような・・・、状況を理解するよりもイメージだけが存在した。
妹が消えたそこには黒いコートとフード姿の人が立っていた。
・・・画面がギラギラと赤い光で揺らめく
・・・しばらくすると光は消え、夕日の赤だと分かる
・・・光は角度が変わり鈍くなり
・・・妹の腹部に刺さったナイフが見える
積み木。子供の頃に遊んでいた積み木は四角い箱に
5×5=25枚の2段重ねで50枚。
丁度、50音順になるように裏に文字が書かれ表に絵が描かれているものだった。
怪我をしない様に角は丸みを帯び、硬さはあるが重さは軽い木材が使われていた。
そんな積み木、遊び方はいろいろあるが、僕は高さに拘っていた。
子供なので高さと言っても、せいぜい目線までくれば良い方で、
積んでは崩れを基本的には何度も繰り返し飽きもせずに挑戦する。
ある時、積み木の塔が出来た時に崩れる恐怖を味わう。
積み上げた苦労や壊したくない気持ちとは少し違う。
1つ1つは軽い存在なのに、積み上げればその分の重さが伝わって倒れてくる。
位置エネルギーを持った積み木は、それを体現して崩れてくる。
当たっても痛くないのにあの時だけは積み木が強さを増して襲ってくる。
あれは子供の頃に植えつけられた恐怖。




