アナザー:赤い万年筆
「登場人物も団体も架空の物語です。」
個人の力で保護施設を見つけ出す事は不可能に近い。
素人が見つけられるのなら犯罪者に狙われるような人が
安心して隠れるの不可能だということくらいは僕でもわかる。
しかし、刑事さんと別れてから音信不通。
所轄署の刑事課に訪ねてみても一身上の都合で退職したと聞かされる。
住所を訪ねてみるが個人情報保護法のこのご時世にまず警察は教えてくれなかった。
やはり僕への情報提供したモノがそれだけ危ないもので
既に刑事さんの身になにかあったのか、それとも身を隠したのか
せめて後者であった欲しいと願うばかりである。
探すべきものが分かっていても動けないもどかしさ。
これでは最初のビデオを見た時となんら変わりはしないのか?
あのときの不安よりも今は心にゆとりが持てている。
それは以前より確実に妹に近づいている。
そして妹は生きている!と確信しているからだろう。
男
「で、俺に何を聞きたいんだ?」
僕
「日本にはまだ証人保護プラグラムはありませんよね?」
男
「残念ながらないな。証人保護プログラムは、
元々アメリカでマフィアの「血の掟」から証言者を保護する目的で設けられたものだ。
日本ではそういった立場のものはないし、証人もいない。
だから意識が薄いんだ。だが昨今、犯罪も多様化し複雑になっている。
日本でもいずれは主流にならざる終えないだろう。
ストーカー犯罪あたりではより必要な気もするがね。あくまで持論だが」
僕
「元刑事さんならより犯罪に対しての思い入れがあるでしょうね。」
男
「まぁ、そんなところだが...まだ本題は言ってないな。君は?」
僕
「では、単刀直入に言います。
日本でそういった立場の人が保護されている場所はご存じないですか?」
男
「直球だな。知らない人について行ったらダメなように、
仮に知っていても教えてはダメなんだぜ?これ常識だ。」
僕
「事情によっては教えてくれますか?」
男
「元刑事に泣き落としか?話だけは聞いてやるよ、
ただ相談料は頂く形式なんでよろしくな!」
世間一般的には絵空事と思えるような出来事を、僕は初めから全て話してみた。
勿論、簡単に信じて貰えるとは思わなかった。
むしろ「ご苦労さん!相談料払って帰ってね!」と言われるのは覚悟していた。
元刑事の探偵事務所ということで何かしら情報を持っているのではないかと。
1度限りの勝負をしてみた。事が事だけにいくつも周って聞き込みは危険だと思った。
もしかしたら繋がりのある人物の前や関係者の耳に入れば何かしらのアクションがある。
その相手が特定できなければ意味もないし、危険度が増すだけだ。
まったくの関係がなければ鼻であしらわれて終わるだけ。
男
「なるほど。」
僕
「どうですか?」
男
「俺の元を訪ねたのは正解だ。裏の世界と繋がりがある男だからな」
僕
「!?」
男
「と言っても勢力からすれば反対勢力に位置するしがない貧乏探偵だ。
俺を訪ねたのは裏社会の情報を持っているなり知っている人物である可能性。
若くして警察を辞めてまで探偵職につくようなアウトローには
何か事情があると踏んだ。違うか?」
僕
「そのとおりです。」
男
「良いだろう。依頼料は妹さんが見つかってからで良い。ただ...」
僕
「ただ?」
男
「相談料はくれないか?光熱費を振り込まないと今晩風呂に入れない。」
依頼を快く引き受けてはくれたが、まだ話だけでは信用されるわけでもなく
それからはしばらく一緒に行動を共にするように言われた。
その間にいろいろと考えると...。
保護施設の存在は知っていたもののそこには僕の妹はいないとの連絡をくれた。
他の施設にいないか頼んでいるらしいけど良い返事はいまだ届かない。
事務所に依頼に着てから半年が経ち、あと数ヶ月でおじさんの
1周忌が訪れようとしていた。
僕
「聞き込み、タレコミ、知人友人他人からの情報収集など
それだけでこの半年で情報メモがすごい数になってますよ?」
探偵
「人は時間が経てば忘れる生き物だ。これでも少ないくらいだ。
人は良いことも悪いことも忘れたりする。
それに覚えていても都合の良いように改ざんもする。」
僕
「では、この中で本当に使える情報はほんの僅か?」
探偵
「いや、全くのゼロだ。」
僕
「そうですか...」
探偵
「下手に動くと身動きが取れないからな...
気が進まないが知り合いに頼んで見るか。君、死ぬ覚悟あるか?」
しばらくして、探偵さんから連絡があり会うことになった。
待ち合わせ場所に訪れると探偵さんと隣にブランドのスーツ着こなしている
品の良さそうな中年男性が並んで立っていた。
僕
「そちらは?」
探偵
「昔からの知り合いでな。現役の刑事だ。」
刑事
「どうも。僕は警視庁の刑事をしています。
彼が例の事件の被害者の方ですね?」
探偵
「そうだ。この手の事件はまともにやっても埒があかないからな」
刑事
「それで僕をわざわざここに呼びつけた訳ですね。
でも上から圧力がかかる事件では内外の人間にも無理でしょうねぇ。
そこで内側にいながらも動ける僕ですか?」
探偵
「お前しかいないからな。それにお前だからできることでもある!」
刑事
「確かに、正義を貫くにはそれ相応の覚悟が必要です。
警察は犯罪者に対してのみ権力をかざすべきです。
至福を肥やしたり身内を守るために使っているならば僕は許しませんよ!」
探偵
「まぁ、お熱い答弁は分かったから、例の件は?」
刑事
「では君、ちょっと両手を出してくれるかな?」
僕
「はい?」
刑事
「午前11時12分、緊急逮捕します。」
取調べに必要なので部屋を借りたいと言えば貸し。
データを紹介、照合したいのでPCをと言えば貸し。
部屋から出れくれ、監視カメラは切ってと言えば反対もされず。
所轄の警察は警視庁には弱いのかすんなり要求が通るのには驚いた。
刑事
「これで当面は自由に部屋が使えます。
ですが敵の懐には違いないので手短にお願いします。」
・
・
・
探偵
「どうやら事件に関わった刑事はすべて左遷か自主退職しているな。
口止め料でも貰ってるだろうな。うらやましいぜ!」
刑事
「冗談でも行き過ぎてますよ。そんな態度だから君の事務所は火の車なんです。」
探偵
「痛いところ突くよな!...と発見!」
刑事
「なるほど、少しは進展しそうな内容ですね。」
僕
「どういったものなんですか?」
刑事さんの話では、おじさんとの繋がりのある人物へお金の流れが書かれた
帳簿がここには含まれているそうで、元々はこの署の裏金帳簿だけの筈が
多分、おじさんの屋敷から押収したデータを誰かがその裏帳簿に
コピーしたのだろうとのこと。つまり何かの保険に使おうと、
その人物はこの帳簿を管理している人物であると。
僕
「それって犯罪の証拠ですよね?だけど妹につながるのでしょうか?」
刑事
「この件とは直接つながりません。ですが情報を引き出す情報ではありますよ」
その後、刑事さんとは別れた。
何でも殺人事件で女性が容疑者として連行されて着たが不可解なので
しばらくここに残るとの事。あと帳簿に関してもやることがあるから情報を得たら
教えてくれるとだけ言ってそそくさと歩き去った。
拘留期限が明けた朝、釈放され出てきた僕を門の外で探偵さんが待っていた。
その間に得た情報を歩きながら話した。
刑事さんの情報では、帳簿をちらつかせて情報を得たらしいが
そこには正義があるのかと少し考えたのは僕だけだろうか?
その情報は、以前の担当刑事さんが言っていたことの裏づけだった。
やはりおじさんは表と裏の顔を持ち犯罪に加担していたこと。
それを圧力をかけ有耶無耶に偉い大人たちがしていたこと。
だが僕にはそれはどうでも良いことだった。
探偵
「浮かない顔だよな。でも無駄に話しているわけじゃない。」
僕
「ええ、でも拘留中に聞いた話は以上です。」
探偵
「ご苦労さま。ではこちらの情報だが...ここだ!」
僕
「...病院ですか?」
探偵
「ん?見れば分かるだろ?来たこと見たことないのか?」
僕
「いえ、そうではなく...むしろ良く知っている病院です。」
探偵
「そうか。なら入るぞ!」
以前、夢で見た場所だった。
そして探偵さんは病院内を奥へと奥へと進み、突き当りの階段を下りた。
地下1階には、レントゲン室、リハビリ室、売店、職員の更衣室などがあった。
それらを通り過ぎ、さらに扉を開けて地下へと階段を下る。
扉を開け中に入ると廊下の先にナースステーションがあり、警備員が数人いた。
そこで探偵さんが警備員と少し話すと、警備員を先頭に先へと進む。
-地下3階-
上の階と違いより抗菌率が高そうな雰囲気をかもし出している。
鉄の扉の鍵を警備員は開けた。表で待つので終われば声をかけるように言われ、
受付の女性看護士と少し話し男性看護士と共に奥へと廊下を進む。
床も壁も天井も白に統一されピカピカである。
病院というよりは何処か製薬会社の工場か研究所といった雰囲気がある。
看護士が立ち止まった扉には「427」と書かれている。
病院やホテルなどでは死を連想させたり縁起が悪いという理由から
「4」や「9」を省くことが多い。なのに使われているのか不思議に思っていると、
扉が開き、中にどうぞと誘導された。
部屋の中もすべて白一色で統一されており蛍光灯の白が床に反射して少し眩しい。
入院患者の部屋には相部屋と個室があるが、
この部屋はどちらの部屋を足してでも足りないくらい無駄に広い部屋で、
その端の真ん中にベットがあり、その周りに機械がいくつも並べられ、
何かしら音を立てながら動いている。
看護士
「何かありましたら及びください。」
探偵
「どうもありがとう。
...ところで君、誰だかわかるか?」
僕
「え?...さぁ?顔中に包帯ですし」
探偵
「お前の父親だ。」
僕
「え?まさか!?なんで??」
探偵
「おじさんにハメられて巨額の負債を抱えて失踪した。
それが表向き。本当は君らの身を守るために消えたんだよ。
知っての通り、汚れた仕事に手を染めてしまった。
お陰で生きていては家族に害が及ぶ。 だが消えたところで家族への
安全は確保できるとは思っていなかった君の父親は取引をした。」
僕
「取引?どんな取引を?」
探偵
「おじさんのことを何でも言うことを聞く代わりに家族は守ってくれ!と
そしておじさんは"自分の影武者となれ”と命令したそうだ。
体格、骨格から全てを整形手術を施し、おじさんの影となった。」
僕
「なんで?」
探偵
「おじさんは君らを手に入れるには、良いおじさんでなくてはならない。
それに表の生活など黒く染まった人間には難しい。
そこで父親なら何の問題もない。ただ自分が父親であることは明かさない。
実験は行って貰うとね。」
僕
「じゃ、あの優しかったおじさんは、父親だった!?」
探偵
「そういうことだ。本来ならそのおじさんが亡くなればお役御免のはずだったが、
おじさんのポストが突然空席では困る自体になった。
そこで影武者の君の父親が晴れて裏社会の権力者へとなった...
だが、それは長くは続かなかった。所詮は本物ではない。抗争に巻き込まれてね。
そう意識がまだある間に話してくれたよ。それと妹さんの話もね。」
僕
「何か知ってるんですか?」
探偵
「...実はすでにこの世にいないそうだ。」
僕
「え...それ...ほんとですか!?」
探偵
「君には伝えてなかったが、拘留中に屋敷の庭から白骨した遺体が2体出てね。
1体は死後1年前の女性、妹さんだ。DNA鑑定で結果が出た。
もう1体は死後半年前で男性、DNA鑑定で例の担当刑事さんだ。」
僕
「刑事さんまで!?...でも1年っておじさんが死んで
1年経ってないないのにそれ以前。じゃあ、監視カメラにあった女性は?
僕あての手紙は誰が!?」
・
・
・
女
「お目覚めかしら?」
僕
「ここは...病院ですよね?」
女
「ふふふっ。そうよ、病院よ。」
僕
「あれ?幼馴染の...あれ?先生???」
女
「少し混乱しているようね、この薬を飲んだら楽になるわよ。」
僕
「ありがとう...でも何で僕は??」
女
「あなたは悪い夢を見ていたのよ。だから私が良くなる様に手助けしていたのよ?」
僕
「妹は?父は?探偵さん?あれ?」
女
「良い?落ち着いて思い出してね。あなたは事故で記憶を亡くしたのよ。
でも長い間、リハビリとカウンセリングで良くなって着てるところなの」
僕
「思い出した!そうだ。そうだよね、先生!」
女
「良かった。思い出したのね。
じゃぁ先生は次の患者さんを診ない行けないからまた明日ね」
・
・
・
研究員
「先生、彼女は良くなるんですか?」
女
「そうね、自分が男だと思い込んでいるのもいまだに抜けないし。
兄、両親、おじさん、刑事に探偵、その他と多重人格だった。
でもこちらの作ったストーリーのお陰で一人一人の人格が消えていったわ」
研究員
「でも彼女が言っていた事って本当に夢物語なんでしょうか?」
女
「私が作ったシナリオ通りよ、なぜ?」
研究員
「いや...なんでも」
・
・
・
研究員
「データをお持ちしました。」
初老
「うむ、どうやら目処は立ちそうだな。」
研究員
「はい、彼女は自分が医者だと思っています。
キーワードを言ってみましたが何も疑いを持ちませんでした。」
初老
「そうか。なら続けてくれ。」
研究員
「はい。」
初老
「目の前で話している男性を多重人格の女性患者と認識させ、
男性も患者で治療を受けていると認識させている。
私の研究は成功だ。あんな事件させなければ全てうまくいっていた。
あの兄妹に目がくらまなければ...。」
【-現在-】
「全ての事件は解決した」
それは警視庁の刑事さんによって僕は病院から解放された。
病院に入院していたのは父は生前のおじさんから
自分の身に何かあった時に自分の身代わりになるようにと暗示をかけられていた。
だが実際その暗示は発動せずに時は進んだ。
皮肉な事におじさんの危機的状況では発動しなかったのに襲われて入院し、
昏睡状態から目覚めたときに発動するとは...。
そのお陰で僕と探偵さんは、自分がおじさんと勘違いした父親によって
元々はおじさんの息のかかった病院に軟禁されたのだった。
僕は記憶がないが、その間にいろいろと実験をされたようだ。
だから今が本当に現実なのか夢なのか分からない。
妹が生きているなら夢でも良い...そんな風に思うこともある。
だが、以前みた夢で妹が扉を開放してくれたのは
”暗示"からの"開放”だったのだと今はわかる。
あの事件以来、探偵さんとはたまに会っている。
警視庁の刑事さんは、所轄の事件と帳簿を切欠にこの国をひっくり返そうとしている。
僕も小さな抵抗だが、今回の事件が起こらない様にフリーの記者として
世の中に提唱していきたい。"ペンは剣より強し”
・
・
・
気がつくと僕は万年筆を赤い鮮血に染め開け放たれた部屋の扉の前に立っていた。
先ほどまで立っていた若い女性は眼下に倒れている。
-完-