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オチなし奇妙な物語  作者: 活動寫眞
10/12

アナザー:容疑者

「登場人物も団体も架空の物語です。」

容疑者が亡くなってから半年が過ぎ様としていた。

その頃、自宅に事件を担当していた刑事さんが訪ねてきた。

「容疑者」に関する情報と「妹」に関する情報を携えて...。


その話を聞かされ「おじさん」が「容疑者」になるとは夢にも思わなかった。


その日は、無理を言って仕事先を早退させてもらった。

そして刑事さんとの待ち合わせに駅前の喫茶店へと向かった。

飲み物は要るかどうか訪ねられ断ると歩きながら話そうと言われ

半分残っていたアイスコーヒーを一気に刑事さんは飲み干し店を出た。


昼下がりの駅前の公園は空模様の悪さとは逆に

子供たちのはしゃぐ声、走っている人、ベンチでくつろぐ背広の男性や、

犬の散歩にと賑わっていた。刑事さんはまずは「容疑者」について

順に話していくからと注意を促した。

「容疑者」つまり僕らの育ての親でもある「おじさん」である。

刑事さんの話では、ある情報筋から「おじさんの日記」を手にいてたそうだ。



幼い頃に両親を事故で亡くし、親戚をたらい回しされた挙句に施設へと保護された。

無口で大人しい反面、些細な事でキレる子供だったとか。

施設での数回目のクリスマスの夜、子供がいない老夫婦の元へと引き取られた。

その老夫婦は幼い子供を亡くした経験があり、親を亡くした子供を

引き取っては養子縁組をして育て、社会へと送り出していた。


何の不自由のない生活の中で無難に大学まで進学した。

大学卒業を間近に控えた頃、夜中に自宅が燃え上がり老夫婦は帰らぬ人となった。

1度ならず2度までも親を亡くした彼は悲しみに打ちひしがれた。


それでも老夫婦の愛情の賜物か、彼は大学を卒業し会社を興した。

10年かけてスポンサーと資金を調達したそうだ。

老夫婦の残した遺産はすべて寄付し、1円も手をつけなかった。

その会社は海外から需要に見合った品を輸入する貿易商。


時バブル経済は訪れた。

業績は伸び、一気に事業を拡大することに成功した。

これも両親や老夫婦のお陰と心に思ったことだろう。


そんな時だった。彼の元に施設時代の幼馴染がやってきた。

その男は儲かったのは俺のお陰なのでお金を払えと言ったそうだ。

しかし、いくら幼馴染とは言え会社のお金を簡単に渡すことは出来ない。

増してや努力の結晶なのだから。


すると男は言った。

「老夫婦の遺産で会社を作ったのだろ?そうなるように火をつけたのは俺だよ」

男は勝ち誇ったように笑った。さっさと褒美を遣せ!と・・・。



刑事

「彼は思わず相手を突き飛ばした。その弾みで打ち所の悪かった相手は死んだ。」



「そんな...で、おじさんは?」



実はここからがややこしい話である。

施設で育ち老夫婦と養子縁組をした人間が5人、そのうち一人がおじさん、

もう一人は殺された相手。あとの3人は、大手の新聞社社長、

この県警の署長、現役国会議員...


同じ境遇のもの同士が兄弟以上のつながりを持っていた。

それぞれが裏工作を行い事件をもみ消した。


犯罪行為とは言え、仲間を庇う姿勢はお涙モノなのかも知れない。

だが、彼はそうではなかった。


まともな精神で耐えれるほど強い男ではなかったのだ。

人を殺めたのに平然と生きることなど......そしてしばらくして彼は消息を絶った。

数年が経ち、仲間が見つけたときには豹変していたそうだ。



刑事

「つまり、君らの見ていたおじさんが本来の彼だとすると

 事件以降、豹変していたという部分が容疑者と言っても過言ではない。

 というのも、その後の彼は貿易商の利点を生かし、危ない品も運ぶようになった。

 武器、弾薬、麻薬など。そして裏では知らないものは居ないほどの

 地位と金を手に入れた。」


「...憤りを感じて自我崩壊してしまったのでしょうか?」



刑事

「人は苦しい立場でも、その中で適応しようとするらしい。

 その中で僅かでも光をみつければそれだけで生きている動物なんだ。

 彼の場合は間違った方向に進んでしまったがね。」



そんな頃、会社の取引先に僕らの父親が経営する会社があった。

そして会社を乗っ取るために圧をかけ、莫大な借金を抱えて倒産させられた。

海外で使用するダミー会社がどうしても必要で潰してでも手に入れたかったらしい。

そのダミーとして使う理由、それは“人身売買”だった。



日本のみならず海外でも臓器移植はドナーが圧倒的に少なく

患者が手術を受ける前に亡くなってしまうケースが非常に多い。

そこで人体を売ろうという考えた。まともな人間がやることではないが

残念ながら買う人間がいるからこそ成り立つ商売。

道徳など関係ない。お金で命を売り買い出来る時代となってしまった。


しばらくして需要が大人だけではなく子供へと移行しつつあった。

だが、どんなに残虐非道なことをしようとも子供にだけは手を出さなかった彼は

ダミー会社の個人情報から浮かび上がった僕らが標的となっていることを知ると

近所に住み監視していたそうだ。そして母が倒れ、孤独となった僕らを

標的から守るべく引き取った...。



刑事

「それからの彼は真面目な頃の性格だったようだ。

 つまり君の知る良いおじさんだ。」


「そんな怖い過去を持つ人だったなんて...」


刑事

「過去の罪は拭えない。だが君らを守るために彼なりに動いた。」



一度浸かったら抜け出せるほど裏の世界は甘くはなかった。

平和で暮らしているようで僕らには分からない所でギリギリの戦いを

強いられていた様だ。そして事件は起こった。妹の失踪事件だ。



刑事

「実は、彼と君らが住んでいた屋敷だが、元々は老夫婦の屋敷だった。

 彼は君らを監視するために家を建てた。そして最後もあの屋敷...皮肉な運命だ。」


「......」


刑事

「あの屋敷だが誰かに監視されていたようだ。」


「どうしてわかるんです?」


刑事

「これは署内の隠し端末から掘り起こしたデータなんだが

 24時間、屋敷内を盗撮していたようだ。つまり監視していた。」


「それは警察がですか?」


刑事

「裏切り者を見張るためなんだろうけど...

 結構映像があってな。そこから君の妹の情報を得た。」


「ホントですか!妹はいま?どこに?」


刑事

「結論から言うと、期待するような結末ではないことだけは言っておく。

 ただ望みがないわけではない。まぁ、話を聞いてくれ。」



監視モニターの映像で日にちを遡り調べた結果。

あの失踪した日、妹は屋敷内に映っていた。それも彼と会話していたそうだ。

その裏づけとして日記にもあり、どうやら一時的に記憶を失ったとある。

それは既に自分と関わってしまい、場合によっては命の危険性を孕んでいる。

ならば自分と関わったことを全ての記憶を消し、別の人生を歩ませる計画の

フライングであったと。


本来はもう少しあとに新たな人生を歩ませるため段階を経て行うつもりだったが、

予め“暗示”をかけており、それはあの日の午後の雨でどういうわけは

発動してしまった。なので一時的に記憶が失われた。

そして急遽、用意したアパートに住まわすことになった。


安全を期してから全てを話し、妹の無事な姿をと思っていたが

記憶の無い妹がビデオを僕の元に送ったそうだ。

それも刺されている筈なのに...。


それから妹は植物状態になった。

そして医療の力も及ばず、妹は亡くなったとある。



刑事

「本当にここまでするなら日記などに真実を書くか?

 それに裏世界が本気になればいつでも証拠など残さずにいろいろ出来ただろう」


「日記は嘘ってことですか?」


刑事

「半分くらいに考えた方が良いだろう。

 ただ監視モニターには、彼が死んだ日の映像もあってな。」


「やはり心臓麻痺でしたか?」


刑事

「多分な。ただその時に引き金になった人物がいるんだよ。」


「誰ですか?」


刑事

「妹さんだ。彼女が映っていた。彼は妹さんのビデオを見ていた。

 すると何処からとも無く現れた妹さんが出てきた。

 そして次の瞬間、彼はもがき苦しみ絶命した。」


「妹が犯人だと?」


刑事

「仮にそうだとしても証拠もない。触れてもないし、ただ見つめているだけだしな。

 その後は妹さんは庭の方へと出て行った絵で終わっている。」


「じゃあ、何処かに妹は生きているってことですね?」


刑事

「日記とは相反するがそうなる。

 問題はなぜ上層部はこのテープもだが全て隠滅にかかっているのかだ」


「おじさんの存在が死んでいても危ないからとか?」


刑事

「それもあるのかも知れないが、死人にくちなし...」


「気になってることが他にも...暗示って催眠術みたいなものでしょ?

 それで記憶消したからって裏世界が見逃しますか?

 それこと人ごと消しに来そうですけど...。」


刑事

「だから半分くらいに思えと言う所だ。」



...そして屋敷へと向かう事となった。

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