旅立ち~眠れる不死鳥
翌朝、太陽が少しだけ顔を見せ始めた頃、私は慣れ親しんだ森から、ミミは信頼しているフックから、しばしの別れを告げて、旅立った。
「ねぇ、きれいな鳥さん、これからどこへ行くの?」
「ん? 特に決まっていない、何処か見てみたいところはあるか?」
背中から少し身を乗り出すようにして、私の顔を見ながら聞いてくる、預かっている身としは危ないから止めて欲しいのだが、何回言ってもすぐにこうしてくる。
「えっとね、オアシス? って言うのを見てみたい! おいちゃん達がいつもオアシスはさいこうだーって、言ってたからいつか見てみたいなって思ってたの」
「ふむ、オアシスか。 分かった、そこを目指すとしよう」
どうも話を聞いていると、そのキャラバンの男達が言っているオアシスと、ミミの想像しているオアシスが違うようだ、何せ女が飲み物を提供くれる時点で、砂漠ではなくどこぞの店と言うのが分かる。
分かるのだが、ミミの楽しそうに話す声を聞いていると、わざわざ本当の事を教えなくてもいいだろうと思う。
「さてと、もうそろそろ砂漠に入る、暑いから覚悟しておくといい」
「う、うん、かくご? する!」
力強く頷いているが、きっと言葉の意味を理解していないだろう表情をしているな。
森と砂漠の境界を抜け、砂漠へと入った途端、肌を焼くような暑さが身体へと襲いかかってくる。
「と、とと、鳥さん! 暑いよ! 思ってたより凄く暑い!!」
「だから、覚悟しておけと言っただろう? もう少しの我慢だ、暑さは感じると思うが、私の加護で倒れたりはしないから安心するといい」
「あれ、暑いだけでなんともない? コレも不思議な力?」
「そうだ、っと、見えてきたぞ、あれがオアシスだ」
眼下には学校のプール程の大きさの湖と、小さな森が見えて来たため、速度を落とし、ゆっくりとオアシスへと、降り立つ。
湖のおかげだろう、吹き抜ける風は冷やされ暑さが和らぐオアシスには、色鮮やかな鳥が羽を休め降り立ち、森の木には美味しそうな果物がたわわに実っている。
「ここがオアシス、すっごくきれい……」
「だろう? 今日はここで休んでいくとしようか、お腹が空いたなら好きな果物を食べるといい」
広大な砂漠にポツンと存在するオアシスは、神秘的な雰囲気を纏っていて、ミミは私の言葉に反応することなく、しばしオアシスに見とれているようだった。
オアシスで数日過ごした後、私達は再び別の場所を目指して飛び立った。
● そして……
旅を始めてから8年もの月日が流れミミは18になっているだろう。
オアシスから旅立った後、近いと言うこともあり、探検隊でさえ入ったことの無いだろう、ピラミッドの再奥を探索したり。
オーロラを見るため、雪の降る土地に向かう途中、ミミが風邪を引いたときはとても焦った
、と言っても、風邪が発覚した後すぐに私の羽を使い治したから問題なかったがな。
すぐに治った事に不思議そうな表情をしていた時は面白かったよ。
その後は、暖かな無人島でしばらく過ごしたな。
何度も飛んでいるときに見たと思うのだが、ミミはそれでも海で楽しそうにはしゃいでいたよ、その光景を眺めたものだ。
不思議なものだな、私は何度も転生しては、あちこちを旅しているというのに、こんなに満たされていたのは少ないように思う。
そうそう、無人島からこの森に戻って来たとき、ミミはフックに早く会いたいと言って勝手に走っていってね、迷子になったものだからとても焦ったよ……怪我もなく見つかったからよかったものの、とこの話はまぁいいか。
ジャングルの秘境を求めて探検した事もあったな、結局何も見つからなかったが。
そこの原住民に崇められた時は驚いたものだ、ミミもお姫様のように扱われて悪い気はしてなかったようだが、原住民の出してくれた食事の生きた芋虫には泣きそうな表情を浮かべていたな。
ん? 芋虫はどうしたかって? ミミは申し訳無さそうに返してたな、もちろん私は戴いたよ。
「ほぉ……楽しそっで何よりだなぁ……最初の方はミミから聞かせて貰った話もあったか、懐かしいもんっだ……」
私は楽しそうに話を聞く、年老いた大きなフクロウへと目を向ける。
旅立った日から見ると、いつ息を引き取ってもおかしくないほどに弱々しくなっている。
「ああ、旅をしている時は、いつも楽しそうだったよ、フックに色々と話すんだって言っていたな。」
「ほっほっほっ……嬉しいことを言ってくれる」
本当に嬉しいのだろう、すでに見えないはずの目は、とても優しい光をたたえている。
「そっだ、ミミは今は元気っかな?」
「ふむ、1年ほど会っていないが、そろそろ子供が産まれる時期だろうな、子供にあって祝福をしてやらないといかんかな」
「そっだなぁ、フェニの祝福なら元気に育ってくれそっだわ」
「ははは、だと嬉しいものだ、転生してからもやる事が出来ると言うものだな」
お互いに笑いあったが、途中からフックの笑い声が止まってしまう、もう朝日が見えている頃だからな、眠りについたのだろう。
「ゆっくりと休むといい、娘より先に眠るのは悪い事じゃないだろうからな」
静かに眠るフックへと一粒の涙を別れの合図に、森を後にした。
● 珍獣ハンター
「もうそろそろ見えてくるはずだが……あそこだな」
数時間飛び続け、ようやくミミのいる集落が見えてくる。
「あっ、不死鳥様……僕は僕はどうしたら!!」
彼はミミの夫のユージだな、赤子を抱いたまま何を焦っているのか。
「どうしたんだ? その子はミミの子か?」
「は、はい……この子は僕達の子でユミと申します」
ユージに抱かれた赤子は女の子のようだ、あの子に似て優しい雰囲気を纏っているな。
「そうか、無事生まれたこと祝福する」
「ありがとうございます……しかし、それどころではないのです!」
「そう言えば、先程からミミの姿が見えないようだが」
焦った様子のユージから、ふと周りを見渡し、ミミの姿が見えないことに疑問が浮かぶ。
「じ、実はそのことなのですが、僕の妻が……妻が珍獣ハンターに捕まってしまったのです!」
「どう言うことだ、珍獣ハンターが人間狩りをするなど聞いたことがない、詳しく話せ!」
どうやら、何処かから私と繋がりがあるという事を知ったのだろう珍獣ハンター共が、ミミを餌に私を誘き出そうとしているらしい。
私を捕獲するためだけに、我が娘に手を出すとは、怒りでどうにかなりそうだ!
「ユージよ、場所は何処だ……ミミを連れ去ったこと、後悔させてくれる!」
「ぼ、僕もともに向かいます!」
「来るな! 誰が赤子の面倒を見るんだ、なに、すぐに連れて戻る」
危険な場所には変わりがないだろう、珍獣ハンターは違法な乱獲と売買を生業にする危険な奴らだ、ユージが怪我を負えばミミが悲しむ結果となると着いてくることを許さないと告げる。
「しかし! 僕の妻でもあるのです!」
「分かった……だが決して命を粗末にするなよ、帰る場所が無くなってしまっては意味がないからな」
「はい!!」
何を言っても決意が揺るぐことはないだろう、結局私は着いてくることを許し、ユージの知り合いへと赤子を預け、その足ですぐにアジトへと向かった。
「ここか?」
開けた場所に降り立つと、目の前には人が数百人は入れそうな屋敷が建っている。
「はい、奴らが言っていた場所はここに間違いないと思われます」
「いったいどれだけの珍獣達を捕まえればこんな屋敷になるのか……ユージ! 私が彼らを引きつけている間にミミを救い出すんだ、しくじるなよ」
力強く頷いた後、ユージは建物の入り口とは正反対の勝手口付近の森へと移動し、準備できたことを知らせる合図を私に送ってくる。
準備が出来たことを確認し、私は建物に向かって来たことを知らせた。
「愚かな人間共! お望み通り来たぞ、攫った娘を返して貰おうか!」
建物の扉が開くと、軍服のような出で立ちの男達が警棒を手にぞろぞろと現れ、私をあっと言う間に取り囲んでしまう。
「はははは! 威勢のいい鳥だな! 娘? 珍しい鳥風情が偉そうに、お前も娘も俺達に売られて終いなのになぁ」
集団の中から、巨体と顔に大きな傷が如何にもリーダー格ですと言っているような男が現れ、下卑た笑い声を上げながら喋っている。
「はぁ、おつむの悪い人間は、言ってることも馬鹿っぽいな……1から人生をやり直すことをオススメしてやろう、生まれ変われたらな?」
軽い挑発にも簡単に乗り、怒りが頂点に達しているのが分かるほどに、怒気を発している。
まだ助けられないのか? 言っておくが口は達者でも、集団に勝てるほど私は強くないからな。
早く助けて離脱してくれることを信じながら、男達を挑発し続ける。
「売り物にするから傷を付けないでいてやろうと思ったが、もう我慢ならねぇ!! てめぇら、動けなくなるまでやっちまえ!」
「っ! 全員動けなくしてやろう!」
男の声を合図に、囲んでいる男達が警棒を構え何時でも飛び出せる体制に入る。
全員の動きを警戒するも、視線を外した後ろの男に背中を強打されるも、後ろ蹴りを当て吹き飛ばす。
その隙をついた男達が、砂糖に群がる蟻のように私に密着し殴りかかってくる。
「ぐっ、その程度!」
胸を殴ってきた男を嘴で貫き、羽を殴った男を蹴り飛ばし、足元にいた男2人を足で掴み、空中から叩き落とし、何人倒したか分からなくなる頃、ようやくリーダー格1人を残し倒しきるも、殴られすぎたのか満身創痍の体は言うことを聞かず横へと倒れてしまう。
「はぁ、はぁ……後は愚かな人間、お前1人だ……」
身体は動かなくとも、目だけはリーダー格の男を睨み続ける。
「おお、怖い怖い。 だが、残念だったな、その体ではもう動けまい、どうなろうとお前は売れるからな、安心して捕まるといい!」
「自分の仲間の心配すらしないとは、とんだ愚か者だな……だが、私の勝ちだ」
周囲に倒れた人間を見やり、呆れた声で馬鹿にしてやる。
ふと男の後ろを見て、成功した事を知り、ニヤリと笑ってみせる。
「はっ、こいつらが仲間? んなわけねぇだろ、ただの駒だよ ”こ・ま” それと鳥頭大丈夫か? お前の勝ち? 俺のか……っぐ!?」
勝ちを確信している男は、私の言葉に人差し指をこめかみに当て、馬鹿にしてくるも、突如目を見開いたかと思うと、前へと倒れ込む。
「大丈夫ですか、不死鳥様!」
「ありがとう、大丈夫だ……成功したんだな」
「は、はい……大成功です、不死鳥様のおかげでミミを無事に救い出せました」
ユージが後ろから、男を警棒で殴り倒してくれたのだ、すぐに警棒を捨てると私に駆け寄り、ボロボロの姿を見てオロオロとし始めるも、私の言葉にしっかりと頷き、建物の方を見ている。
「鳥さん! ごめんなさい、こんなボロボロになって」
様子を窺っていたのだろう、ユージが建物を見ていることに気付いたミミは小走りで駆け寄ってくると、すぐそばに膝をつき私に抱きついてくる。
「迷惑を掛けてしまったようで、すまなかったな……無事でよかった」
「そんな、鳥さんのせいじゃないよ、助けてくれてありがとう」
よほど怖かったのだろう、泣きながら抱きしめてくるミミが小刻みに震えているのが分かった。
「ぼ、僕も助けたんだけど……」
「当たり前でしょ! 助けてくれてなかったら別れてる」
「それは、ごもっともで」
蚊帳の外だったのが寂しかったのか、おずおずと口にするも、ミミにピシャリと言い返され、困ったような表情を浮かべ、頬を掻いている。
「仲が良さそうで良かった、孫の姿も見れた、後はユージに任せるとしようか」
「鳥さん、そんな言い方しないで、まるでもう会えないみたい……」
「ミミ……不死鳥様を困らせてないであげよう」
私が長くないのを感じたのだろう、ユージがミミの肩へ手を置き首を振ると、自分の方へゆっくりと引き寄せている。
「ありがとう……ミミに出会えてとても楽しかった、もうミミとは会えないかもしれないが、私は再び転生をする、君の子孫をまた私に見せてくれ」
「分かった……鳥さんさようなら」
「不死鳥様、ありがとうございました……」
二人は深くお辞儀をすると、去る私に泣き顔を見せまいと、くしゃくしゃの笑顔を向けてくる。
ボロボロの体をゆっくりと起こし、二人を背に私は飛び去った、眠る場所はあの森と決めているから。
● 目覚めた森
「やっと着いた」
フラフラの体に鞭を打ちながら、ようやく目覚めた森へと戻ってきた。
燃え尽きていた森は、霊力の高い土地のおかげか、すでに元通りに近い状態まで再生しており、私は一際大きな木に降り立つと、体をゆっくりと横たえる。
「はぁ……思ったより疲れた、もう体も動きそうにないな」
ぐったりとした私は、目を開けているのすら億劫になり、目を閉じると、目覚めてからの事が走馬灯のように思い出される。
「今回の転生は、濃い時間を過ごせた、とても楽しかった……ああ眠いな、またしばしの眠りにつくとするか……」
その言葉を最後に、私はゆっくりと息を吐き出し、眠りについた。
私が息を引き取ったからと言って、別に森が燃えるわけではない。
森は約500年周期で山火事が起きる、その時に丁度私も寿命が来るから、体を燃やしに戻ってくると言うだけの話だ。
なら、山火事が起きる前に寿命が尽きたらどうなるかって?
どうもしない、ただ山火事が起きるまで体は朽ちず、そこに残り続ける、そして燃えて再び目を覚ますのだ、次の転生は何時になるのか……
ここまで読んでくれた方はありがとうございます。
なんとも、下手くそで稚拙だったとは思いますが、もっとこうした方が良かったなど、感想をいただければ、新しい小説を書く力に出来るので、どうぞよろしくお願いします。




