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不死鳥の目覚め

 予定では三話~五話で終わる作品にします。

      不死鳥の目覚め


 太陽がゆっくりと森を照らすと、大きな山火事があったのだろう。

草一本生えていない地面には灰が積もり、乾いた風が吹き抜ける度に、炭と化した木々がボロボロと崩れ、地面へと落ちていく。


 不自然に盛り上がっている小さな灰の山が、突如もぞもぞと動き出す。


「ん……寒いな」


 朝の森は気温が低く、目覚めたばかりの小さな体には耐えられないと、ぶるりと体を震わせる。


「ああ、もう起きる日なのか、まだ眠たいんだけどな」


 体に積もった灰をドサッと落としながら、ゆっくりと起きると億劫そうに呟く。


 まだ寝ていたいと訴える目を、無理矢理あけるも頭はボ

ーッとしたまま覚めそうもない。


「ふぁーっくしゅ! うう、粉が鼻に入った」


 欠伸をすると同時に、灰を吸ってしまい、盛大にくしゃみをする。


 身体にまだ残っていた灰が、雪のようにフワフワと舞い散り。その光景を綺麗だな、とどこかぼんやりとした表情で眺めてしまう。


「おっと、こんな事をしてる場合じゃない!」


 しばらく舞っている灰を眺めていたが、頭をフルフルと降って思考を切り替え。


「ん~~っ」


 背伸びをするように体を伸ばすと、猫が体についた体を振り、まだ残っている灰を振り落とし。


「ふぅ、さっぱりした!」


 灰が全て落ちきると、そこにはうっすらと黄金と深紅の混じった、雛鳥が姿を見せる


「何処にも灰はついていないな」


 何処にも灰が残っていないことを確認すれば、満足げに頷き。


 灰の積もった場所からヨチヨチと頼りない足取りで出て行く。


「さてと、まだ飛べそうもない、ここは……何処だったか」 


 灰の山を抜け出し、少し羽根を羽ばたかせた後、周りを見るも、何故か思い出せない事に困ったように眉間にしわが寄る。


「まだ寝ぼけてるのかな、思い出せない、しばらく周囲を探索するかな」


 周囲を見ながら歩いていたが、ふと自分の居た場所が気になり振り返る。


「ふむ、前はこう緑豊かな場所だったと思うのだが……って、そうか此処は霊山か、この焼けてるのも私のせいだな」


 以前の光景が浮かび、ようやく自分の居る場所と、森が焼けている原因を思い出し苦笑いを浮かべる。


「ふむ、いったい何処まで燃えてしまっているのか、確認しておこうか」


 燃えていない場所を探すという目的に変わり、再び歩き出す。


「お、燃えていない森があるじゃないか、良かった……ん?」


 しばらく歩いていると、川の向こう側に鬱蒼とした森が残っているのを見つけ安心する。


 ふと遠くの木に何かを見つけ、よく見ようと目を細め。


「あれは……果物か!」


 果物がなっているのが見えると、思い出したかのようにお腹の虫がクキューと可愛い音を出す。


「何も食べていないのを忘れていた、腹ごしらえをしたいし、渡る道を探すとしようかな」 


 キョロキョロと周りを探すも、目の前の川を渡れそうな橋はなく、向こうの森に渡れないことに気づく。


「んー、飛べれば一発なのだがなぁ」


 まだ未発達の自分の羽根を見て、無理だなと諦める。


 渡る場所はないかと、上流に向かって川沿いに歩きだす。


「倒れた大木とかないだろうか、大きな岩でもいいが」


 数時間ほど歩いていると、太陽は真上まで昇りきり。


 降り注ぐ陽を川が反射し、宝石を散りばめたかのようにキラキラと輝き始め。


「もう昼か……ほぉ、陽の光を反射して綺麗じゃないか、まぁ成鳥になった私ほどではないがな」


 キラキラと輝く川を覗き込み、自分の姿が映ると、自分の方が綺麗だなと勝ち誇ってみせ。


「うむ、風の音も、水の流れる音も、小鳥たちのさえずりもいいハーモニーだ」


 聞いていると、無性に歌を歌いたくなり。


「こほん、あー、あー、喉の調子よし!」


 息をゆっくり吸い、吐き出すと同時に歌いだす。


「森を潤す雨が降り、染み出て雨は川になる、川は海へと流れ込み、やがて森を潤す雨になる」


 その美しい声に誘われるように、森の小鳥達も歌に合わせてさえずり始める。


「~~♪~~♪……ふぅ、皆ありがとう」


 歌い終わるのを息を潜めて待っていたかのように、木々のさざめきが聞こえ始め、他の動物達の気配も、思い出したかのように動き出す。


 気分が良くなり、再び渡れる場所を探すため、足取り軽く歩き始め。


「お? あれなら渡れそうだな」


 しばらく歩き続けると、タイミングよく、川を跨いで大きな大木が倒れているのを見つけ駆け寄る。


「よっと!」


 大木の元へと到着するなり、端に乗っかると、壊れたりしないか何度も踏みつけて安全を確認する。


「うん、大丈夫そうだ、いざ向こう岸へ!」


 鼻歌交じりで進み、丁度真ん中まで歩いた所で、ふと興味本位で下を覗いてしまう。


「どれどれ、魚はいるかな?  なっ、ふふ、大丈夫、こ、怖くない、怖くない……」


 そこには、足を踏み外せば一瞬で流されることが容易に想像できる激流が見え、ぶるりと身震いする。


「早く渡ってしまお……」


 しっかりとした足場だった大木が、下を見てしまったことで、急に不安定な場所のように感じ。


 もし落ちたら、と怖い想像がよぎると、一刻も早く安全な場所へ行きたいと、無意識に進む速度が速くなる。


後5メートル。


じりじり……


後3メートル。


じりじり……


後1メートル。


「大丈夫、後少し、後少し……」


 亀も勝てるのではないかと言うほどにゆっくりとした歩みの為、数分しか経っていないにも関わらず、何時間も歩いているような錯覚を覚える。


 ピンと糸を張り詰めたような緊張感も、向こう岸に後数歩という所まで近付いたことで、無意識に緩む。


「ふぅ……」


 その瞬間、激しい突風に身体をさらわれ、大木を踏み外してしまった。


「うわ!?」 


 まるでスローモーションを見ているかのように、離れていく大木。


「くっ、落ちてたまるか!」


 足の爪を木に食い込ませようと、グッと力を入れ木を掴むが

、炭となっている木は他と同様に脆くなっていたのか、簡単に崩れてしまう。


「な!?」


抵抗もできず、刻一刻と近付いてくる激流。


「くっ、ここまでか……」


 恐怖が限界に達し、流されていく姿を想像してギュッと目を閉じる。


 一秒、二秒と時間が流れていく。


「…………?」


 ”ポスン”という軽い音と共に、まるでフワフワのソファに落ちたかのような感触が体を包む。


「あれ?」


 想像した結果と違うことに、恐る恐る目を開けると。白い大きなふくろうが自分を背に乗せて飛んでいた。


「大丈夫っかな? 怪我っとかない?」

「た、助かった……ありがとう」


 奇妙な発音にも意識が向かないほど、助かったと言う事実に安心すると。骨がなくなってしまったのではないかと思うほどに、ぐったりとしてしまう。


「うんうん、間に合ったみったいで、良かったな、木の上っから見てて、ビックリしたっぞ」

「はは、私も落ちるとは思わなかった、改めて礼を言う」


 ふくろうの言葉に、疲れ切った笑みを浮かべ、落ちる瞬間を思い出し、少し身震いする。


「あー、名前を言ってなかった、オラは”フック”ってんだ、よろっしくな」

「私に名前はない、すまない。 あえて言うなら不死鳥、もしくはフェニックスとでも呼ぶといい」

「おっけ、よろっしくな、フェニ」

「いや、フェニックスって……まぁいい、よろしくフック」


 フックはふわりと音もなく地面に着地すると、私を地面へと降ろす。


「っで、向こうの森から来たっけど、こっちの森さ、なんっか用なのか?」


 私が来た方向の森を見た後、不思議そうに首を傾げ。


「用というか、お腹が空いてね、果物を探すためにこっちへ」

「あー、なる程なる程、そう言うことなら、ちょっと待ってな」


 納得したようにコクコクと頷きそう言うと、バサリと羽を羽ばたかせ、すぐに音もなく飛び去っていく。


「おっ、おい・・・って、行ってしまった、気が早いな」


 初対面にも関わらず、フックの優しさに苦笑いを浮かべ、身体も疲れて動かないため、言葉に甘えて木に寄りかかり待つことに。


「おまったせ」


 風に揺らされサワサワと葉の擦れる音を聞きながら、うとうとしだした頃、特徴的な喋り方が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。


「ん、フックか……おかえり」

「おー、色々果物持ってきてやったぞー、たんっと食べな」


 そう言われて、羽で示された場所を見ると、少し大きめの葉っぱの上に様々な果物が置かれている。


「おお! こんなに沢山、集めるの大変だったのでは?」

「ほっほっほぅ、そんなっことねぇよ、リス達にいったらよ、喜んで手伝ってくれたかんな」

「感謝する」

「ええって、ええって! ま、たんっと食べて元気だしな」


 もう一度深く頭を下げお礼を言った後、盛られた果物をパクパクと食べ始める。

 

「ごちそうさまでした」

「おそまつっさん」


 夢中で食べ、数分ほどで全てを完食すると、フックが孫を見るような優しい目を向けながら応えてくれる。 


「そっいや、フェニはコレっからどうすんだ?」

「どうするとは?」

「んや、この森に住むのかどうかって事だな、向こうの森さ、赤い鳥が燃やしちまったからな」

「あー、そう言えばそうだった」


 言われた意味を理解して、苦笑いを浮かべ、これからどうしようかと思案を巡らせる。


「まぁ、向っこうは500年に一度、赤い鳥が帰ってきて燃やしちまうからなぁ」

「ああ、確かに、怒ったりはしないのか?」


 ふと、森を燃やされ怒っているのではないかと気になり、フックを見て問いかける。


「怒る?そんなっことしねぇよ、赤い鳥は生まれった場所へ帰る、そんで燃やされた森は、燃えた木達を栄養にして再び森を作る、まった燃やされてってな、自然の摂理っだ、赤い鳥が見えたら、皆こっちへ避難すりゃ安全だってわかってる、もう何千年も続いてるって話だしな、気にしてねぇよ」

「そうか、自然の摂理か……」

「そうそう、自然の摂理っさ」


 諦めているわけでもなく、無理にそう思い込もうとしてるのでもない。本当に自然の摂理なんだと思っているのだろう。


 静かな笑みを浮かべ森を見るフックに釣られ、燃え尽きてしまった森を眺めてしまう。


「んじゃ、オラはもう行くっぞ、もともと夜行性なもんっでな、眠くてたまらん」

「そうか、悪いことをしたな、私ももう少しこの森に世話になることにするよ」

「そうかそうか、まっ、怪我しないように気を付けっなよ」


 そう言うなり、一度大きく羽ばたいたかと思うと、静かに飛び去っていく。


「ああ、ありがとう」


 離れていく背中に、お礼の言葉を言うと、聞こえていたのかホーッと言う鳴き声を発し、森の方へと消えていく。


 完全に姿が見えなくなり、ようやくフックの飛び去った方角から目を離し、これからどうするかを考え始めた。

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