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何でも屋ウタと喋る剣

作者: ぐるり

よろしくお願いします。

「だが断る」


このセリフ、一度言ってみたかったんだよねー。

だがしかし。


「そっ、そこを何とか!ウタ様にしかお願いできないんです!どうか、どうか!」


このザマである。

元ネタを知らない人たちに言ったところで何と虚しきことか。

あーつまんない、つまんない。


「お金なら、この通りあります!」


そう言って見せられた金貨銀貨の数々。

うん、まあ悪くない。


「仕方あるまい。私が引き取ってやろう」

「あっ、ありがとうございます!」


そう言うと若い女はそそくさと歩き去っていった。

なんだよぅ。もうちょっとお喋りしてくれたっていいじゃないかよぅ。

これだから最近の若者は……と思ったところで、私も人様のことを言えるほど年寄りではないのだと気がついた。


あーでも、


「やっぱりつまんないなあ……」


私の声に応えてくれるような人はいない。






さて、ここらで自己紹介といこうじゃないか。

我輩は猫である。名前はまだない。

……なんてことはなく。

我輩は偉大なる人間様であり名前はある。

名前は……名前は……なんだったか。

しばらく人に呼ばれていないと忘れてしまうものなのか。

本名は忘れてしまったが略称はウタである。


誰も近寄らないような「魔の森」と呼ばれるところに一人で住んでいる。

基本的に私は寂しがりである。

では何故こんなところに一人で住んでいるかと言うと。

早い話がここの人間社会に疲れたのである。


まあ、そんなつまらない話は置いておくとして。


私はここで所謂「何でも屋」というものを営んでいる。

王都にも何でも屋なる者がいるらしいが、私のところはそこに負けないほど「何でも」やっていると自負している。


先程来た客は「ある物」を引き取ってほしい、とのことだった。

その「ある物」というのが。


「へい嬢ちゃん!アンタが新しい俺の主かい?」


この喋る剣である。

長年何でも屋を営んでいるから、こういう類いのヘンテコな物も何回かは見てきた。

だから特別怖がったりはしないのだが。


「へい嬢ちゃーん!無視しないでくれよ!俺寂しくって死んじゃうよ!」


この異常なほどの煩さである。

とてつもなく煩い。

無理だと分かってはいるが剣を折りたい衝動に駆られる。


「いい加減にしやがれ!この無機物野郎!」


まあ、ね。

ちょっとばかし激おこプンプン丸になっても仕方のないことである。


「お前はそんなんだから私なんかのところに来るんだよ!だいたいなんだ、俺寂しくって死んじゃうだあ?お前は最初から生きてないだろ!無機物野郎が!あと私を呼ぶときに一昔前のナンパみたく喋りかけるのやめろ!」


よし。言ってやった。

これで少しは静かになるだろう。


「おー!嬢ちゃんスゲェな!いつ息吸ってんだ?肺活量スゲェな!あ、俺のことはクロって呼んでくれな!嬢ちゃんこれからよろしくなー!」


……全然静かにならない。

私は今リアルorzの状態である。

こんな物引き取るんじゃなかった……。






さて、あれから数ヵ月経った今。

なんとあの煩い剣が欲しいという変人……ではなく、珍しい客が現れた。

その男の話によると、あの煩い剣、実は「黒魔剣」と呼ばれるたいそうな代物だったらしい。

なんてこった。パンナコッタ。

煩すぎて何回か八つ当たり気味に剣を蹴ったりしていた。

バレたらヤバい。


「アンタの言う黒魔剣というのはこれのことだろう?」


まあ、バレなければいいだけの話である。


「はい、そうです。ではお譲り頂けますか?」


言いながら男が麻袋の中身を見せてきた。

……なんと金貨銀貨がジャブジャブ入ってる。

なんだこれ、なんだこれ。

こんな大金初めて見た。


あまりにも現実離れした金額を目にすると、人は時として固まってしまうものなのだろうか。

私は何秒かフリーズしてしまった。


「え、と。コイツすごく煩いんだが、本当にいいんだよな?」

「ええ。喋ることができるのが黒魔剣の特徴の一つですので」

「そうか……」


なんだろう、この気持ち。

ザコだと思ってたやつが実はとんでもない大物だった、みたいな。

自分より弱いと思ってた相手に負けたときのような。

悔しい、のか?


「ところで、あちらに飾ってある白い剣が気になるのですが」

「アレか?アレは……何年か前に知人に貰ったものだ」

「因みに今までに喋ったりしたことは……」

「無いな」

「そうですか……。黒魔剣には対になる白魔剣というものがあるのですが、その白魔剣かと思いまして」

「まあ、これからもこの商売をしていくからな。もしその白魔剣というのを手にしたらアンタに教えてやるよ」

「お願いします」

「ああ」


今来た客はどうやらとてつもない金持ちのようだからな。

もし白魔剣とやらが見つかってあの客に売ったら、またしてもとんでもない額の金が手にはいる……。

今回貰った分だけで一年は生活できそうな感じだし。


まあ、でも。

いつも煩いやつがいなくなるというのは、寂しいものだな……。





なんて思った過去の私を殴りたい。

何故だか知らないがこの黒魔剣、私のもとがいいとかなんとか言って戻ってきやがった。

夜寝て朝起きると枕の横のところに置いてあったのである。

全くもって意味不明である。

剣なのだから自分で移動できるわけない。

それなのにコイツは自分で移動したかのような口振りだ。


「なー嬢ちゃん!俺嬢ちゃんのこと気にいってんだよ!だからもう俺を他んとこやんねーでくれよー!まーいくら遠くにやられたって一発で嬢ちゃんとこ来れるんだけどな!」


なんだコイツ。なんなんだ。


「お前は、なんなんだ……?」

「……嬢ちゃん?俺のこと、気持ち悪いのか……?」

「気持ち悪い?……そんなことは、どうでもいい」

「えっ、じゃあ俺ここにいていいのか?!」

「それは駄目に決まってんだろ!」

「えっ?!」

「だってそうだろ!お前がここにあるって知られたらあの男に貰った金、全部おじゃんになる可能性だってあるだろ!」

「なんだよ!金かよ!」

「当たり前だ」


金は大事に決まってんだろ。


「なんだよ嬢ちゃん!俺と金、どっちが大事なんだよ!」

「金に決まってんだろ」


私と仕事、どっちが大事なの?みたいに聞くなよ。

お前は私の彼女……彼氏かよ。


「でもまー俺嬢ちゃんのことめっちゃ好きだから!何度売られたって、何度も嬢ちゃんとこ帰ってくるからな!」


なんだコイツ。なんという迷惑。


でもまあ。

正直なところ、クロが戻ってきてくれて嬉しいんだよなあ。

クロといると楽しいし。


なんて、絶対本人(本剣?)には言わないけど。


「あ、そういえば俺、人化できるんだぜ!」

「はあ?」

「見てろよ嬢ちゃん!俺・人バージョン!」

「って、お前!服着ろよ!」

「えー何で?」

「うわっこっち来んな!」


うん、まあ人バージョンのクロはたいそうなイケメンでしたよ。



ありがとうございました。


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