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「赤松良平治療レポート」

 今回の患者赤松良平氏の病名は、統合失調症である。氏は重度の統合失調症を患い、思考力、判断力の低下が著しく見られ、また最も顕著な症状が記憶の乱れである。

 極度の自己嫌悪から発したと思われるその症状は、自分を自分以外の誰かだと思い込むというものだ。彼はある時は医者、ある時はお笑い芸人、教師、小説家、囚人として振る舞い、その都度赤松良平としての過去の記憶から都合の良い内容だけをピックアップして、あとの記憶は捏造しているようだ。そして、その記憶に無理が生じると一旦意識を失い、しばらくして再び別の誰かに成り代わる。

 その成り代わった対象の職業は、恐らく彼が何かしらの憧れを抱きつつ、現実的な厳しさから捨てた夢のようなものではないかと推測される。


 彼が医者として振舞っている間、私は主任として認識された。また、職員が尖った石で猫を切り開く赤松氏を目撃している。この問題行動から赤松氏は一旦別の病室に移されることとなった。


 病室が移転すると、今度はお笑い芸人として振る舞い始め、職員に絡み始める。その際、経験の浅い職員がカッとなり、彼に彼自身が病人であることを告げる。この事がきっかけとなりその人格との、ある種離人症とも言える赤松良平としての目覚めが起きたため、一旦彼は意識を失った。


 次に彼は教師として振る舞い始めた。授業と称して誰もいない場所でブツブツと何かを言っていたと思えば、休憩で運動している別の患者をジッと見つめ続けるなどの奇行を働いた。

 この時、私は保健医のカウンセラーのようなものとして扱われていた。彼自身はやはり病状を認識できていないため、会話は成立せずにすぐに暴れてしまっていた。


 それが終わると今度は小説家になったらしい。その上ここは病院ではなく監獄で、犯罪者が押し込められた場所なのだという設定になっていた。

 私は言外に少しでも彼に症状を認識してもらおうと考えたが、ほとんど話を聞いていない彼は曲解して理解してしまう。やはりほとんど会話は不可能であった。

 また、しばらく小説家として振る舞うと、今度は唐突に暴れ始め隣室の患者を殺そうとした。咄嗟に職員が止めに入ったが、彼の隔離は防げなかった。


 隔離病棟に移ると、彼は人殺しの囚人という記憶を持った。実際には誰も殺していないが、彼は殺したつもりなのだろうか。

 また、度重なる記憶の作り変えのためか、彼の意識も限界に近づいているのだろうか。段々と設定に無理が生じ、挙句私は神として扱われていた。

 また、囚人としての日記の中で、氏はこれまでの投薬すべてをきちんと服用していなかったことが判明している。今後、無理にでも薬を摂取させ、陽性症状だけでも抑え込まなければならない。



 追記

 ここからは彼のレポートではなく、単純に私の言葉に過ぎない。

 なぜ、彼は現実から逃げた先で、また苦しむのだろうか。自分で作り出した妄想の世界で、なおも苦しむ必要はどこにあるのだろう?

 また、彼の症状を見ると度々私自身にも一抹の不安が過るのだ。――私ももしかしたら、医者であると思い込んでいるだけの統合失調症患者なのではないか、と。

 バカバカしい話だ。そんな訳はない。そう言って笑うことは実に簡単だ。


 だが。現実の苦しみすらも再現されてしまう妄想の世界で、果たして自分が異常だと気付く人間などいるだろうか?

 ――自分の存在が、「今さっき捏造された記録の積み重ね」ではなく「今まで生きてきた記憶の積み重ね」であると、確実に証明する手段はあるのだろうか?


いかがだったでしょうか。いささか珍しいタイプの形式に挑戦してみました。どうやら私はどうもホラーに関しては、どうしても素直なものは書きたくないようです。


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