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赤坂 沖「研修日記」

 六月二十日


 今日も遅くまで宿直を任された。日記なんてつけていられない程の忙しさだ。食えるうちに食い、寝られるうちに寝ておきたい。だけど、主任からは日記を書くようにきつく言われている。まったく、いつまでも新人扱いは困るな……。

 日記に書くことはほとんどない。今日も代わり映えのしない一日だ。毎日毎日夜遅くまで病院で仕事、病院で寝て、明日は病院で起きる。自分で望んだ道だけど、たまに辛くなる。

 そういえば、主任はいつも疲れた様子もなく頑張っている。本当に尊敬するな。主任も毎日疲れているはずなのに……あ、別に胡麻擦ってる訳ではないですよ。



 六月二十一日


 担当患者の佐々木さんはいつも笑っているけれど、辛くはないのだろうか。こんな狭苦しい病院に押し込められて、僕ですら息が詰まるっていうのに。病人というのは僕達とはまた別種のしなやかな強さがある。

 佐々木さんの病室は檻で囲まれているけど、診察はさせて貰える。なんでも佐々木さんは重病人だそうだ。

 主任は今日も美人でしたよ。



 六月二十二日


 病院の構造はあらかた把握しているはずなのに、いざ外に出ると道が何もわからなくなっていることがある。どういうわけかそこで僕は冷静さを失って泣いてしまうのだ。しばらくしていると看護師さんに案内してもらう。

 僕はどうかしているのだろうか。最近情緒が安定しない気がする。辛い生活で体にガタが来ているのか。

 佐々木さんは今日も元気そうだった。今日はなんだか看護師さんにはやく宿直室に帰るよう言われたので主任との面談は今日はできなかった。



 六月二十三日


 今日は一日中雨で、来院者は少なかったけど急患は多かったみたいだ。二人ほど自主的に手術した。

 体の不調を主任に訴えたら、随分親身になって話してくれた。理由を聞いたけどはぐらかされてしまった。多分、主任の若い頃と僕が重なっているんじゃないだろうか。

 今日は佐々木さんの元気がない、というかよくわからない事をブツブツと言い続けていた。大丈夫だろうか。病気が重くなったのだろうか。



 六月二十四日


 この病院は受け入れ患者数が少ない気がする。それどころか医師はもっと少ない。主任と僕の二人しかいないなんて、よく病院が回るものだ。他にもたくさんいるはずなのに。

 今日も主任と面談をした。疲れがたまっているから寝るように言われた。でも、寝る訳にはいかない。明日もきっと、何人か急患が来るはずだ。



 六月二十五日


 手術をしていたら、手術室に押し入られた。せっかく作った手術台と手術器具を没収されてしまった。僕が何をしたというのだろう。何より、患者は手術を終わらせることなく取り上げられてしまった。あのままでは患者が死んでしまうというのに。


 ――主任も訳の判らないことばかり言っていた。佐々木さんと同じことを。漠然と何かを言っていることは理解できても、靄がかかったように彼らが何を言っていたのか思い出せない。聞こえない。

 何なんだよ、何なんだよ何なんだよ。僕は医者で、研修医で、ここは大学病院で……そうじゃないのか?


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