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番外編:1-6.5 ブラッセル氏の災難

6話の番外編、プリムラ嬢視点の話になります。

イベントのバックストーリー的に読んでもらえたらありがたいです。

 リンゴーンと壁の大時計が鳴り、もうすぐ約束の時間なのを教えてくれます。


 わたくしは作りかけのアクセサリーを作業箱に戻し、オーブンの様子を見に行きました。

 久しぶりに焼いたミートパイは、なかなかよい出来のようです。先に焼いておいたアップルパイと一緒にテーブルに並べて、夕食のセッティングに不備がないかテーブルを眺め、花かごの位置をちょっと直して満足します。

 今日は婚約者のブラッセルが2ヶ月ぶりに夕食にやってくる日です。

 あの方はとても忙しいので、今年に入ってから4回も連続で訪問の約束をキャンセルされましたが、今回は絶対来ると言ってくださいました。

 2年に一度、それも一晩だけしか咲かない「満月夜花(ムーンライト)」という花を手に入れたので、その花が咲くのを一緒に見ながら食事をしよう、とメッセージをくださったのです。

 わたくしは姿見でお気に入りのドレスにおかしなところがないかチェックし、ブラッセルの到着を待ちました。


 玄関のチャイムに駆け寄り、扉を開けるとそこにはブラッセルの姿はなく、小さな冒険者の少女が立っていました。なにやら大きな箱を両手に抱えています。


「まぁ、冒険者のお嬢さん。何かごようかしら?」


「ブラッセル氏が仕事で来れないそうなので、代理で荷物を届けにきました。」


 なんということでしょう。少女が手に持っている箱の中身は満月夜花(ムーンライト)でした。

 わたくしは呆然としました、そして少女が差し出す箱を見据えて心を決めます。 


「これは・・・おしおきがひつようですわね。」


 驚く少女に「少々お待ちくださいませ」と声をかけ、わたくしは手早く身支度を整えて、とっておきの転送石を二つ取り出します。ああ、手土産に切り分けておいたパイも、忘れずにもっていきましょう。

 二つの転送石を手に持って、少女の肩に手をおいて声をかけます。


「さあ、まいりましょう、ブラスのところへ。」


 転送石を使い、わたくしたち二人はブラッセルの仕事部屋へと飛びました。



------------



「だから、仕事で、しょうがなかったと、いっでえええ。」


「あらあら、動かないでと申し上げましたのに、抵抗なさるから痛い目を見るのですよ?」


 わたくしは床に座り込むブラッセルの身体ぎりぎりに、細く絞った雷撃の柱を落とし続けながら言いました。

 今は引退し、アクセサリーを作る商売をさせて頂いておりますが、かつては魔王軍と戦ったダンバリー守護軍で主任魔法師の名をいただいていた身、この程度のことはたいして苦でもございません。


「ブラスが忙しいのは存じておりますので、仕事なのは致し方ございません。そんな事で怒っているのではないと何度申し上げたらおわかりいただけますの?」


 雷撃を少々強くしてらさに数を増やします。身体ぎりぎりかすめるように落としているので、怪我をすることはありませんが、衝撃波はそれなりにあるはずです。

 ああ、少々強くしすぎて絨毯を少し焦がしてしまいました。いけませんね、この程度のことでコントロールを乱すとは。あの絨毯の焦げは後で修復しておきましょう。


「5回連続でデートをキャンセルしたことを、どうでもよいとは申しませんが、理由が正当ならおしおきなどいたしませんわ。」


「じゃ、じゃあ、なんで、ぃでっ、そ、そんなに怒ってるんだ・・・ですか。うわちゃぁあっ」


 本気でわかっていらっしゃらないようなので、つい怒りに任せて一本当ててしまいました。


「わたくしが怒っているのは代理人をよこしたことですわ、わざわざ転送石を渡して荷物の配達と伝言を頼む時間があるのなら、その転送石でご自身が来ればよいではないですか。」


「・・・いでで・・・、い、いやほら、さすがに5回目だと、ね?」


「それをわたくしに直接告げるのが怖くて敵前逃亡した、とおっしゃるのですね? そんなことで、わたくしが怒るとお思いになっていらっしゃったと。」


「いや、悪かった、悪かったから、プリムラっ、耳を、耳を雷撃で狙うのはやめなさいっ。っでえええっ。」


 怪我をしないように極々弱めた細い雷撃を、立て続けに耳に直撃させるのはなかなか技術がいりますが、それなりに効果はあったようです。


「わかった! すまなかった! こんどは代理人を行かせるようなことはしないから、君の目を見て謝罪するために飛んで行くから!」


 涙目で謝罪するブラッセルの言葉は少々引っかかるものがありますが、まあ今回はよしとすることにしましょう。


「6回目のデートが潰れないほうがわたくしはうれしいのですが、お仕事が入った場合はいたしかたございません。ですがそのときは、きちんと元気な顔を見せにいらっしゃってくださいね?」


 雷撃でほんのりと焦げ臭くなった耳をさすりながら立ち上ががったブラッセルは、苦笑まじりの笑顔で「会いたくなかったわけじゃないから」とおっしゃってくださいました。

 少々乱暴な手段となってしまいましたが、まぁ、よしといたしましょう。


 ああ、そういえばおつかいの冒険者さんを放置してしまっていました。

 ブラッセルの為に焼いたパイですが、今回はおあずけにすることにします。それにちょうど良い出来のアクセサリーもありました、これとパイとブラッセルのテーブルにのっている転送石を一緒にお詫びに差し上げることにしましょう。


「冒険者のお嬢さんを変なことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした・・・。」


 わたくしは振り返り、箱を抱えたままの少女ににっこりと微笑みかけました。

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