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1-4 そしてわたしは空を飛ぶ

「おお、風が気持ちいいっ、見晴らしも最高だー。」


 ポータルをくぐった先は、中央広場を見下ろせる高台の公園だった。広場を中心にした都市の様子が手に取るように見える。


 精霊国エアルディルの首都ホーリーは、高台にある王城を基点に東に向けて扇形に広がる城塞都市だ。

 王城からやや東、市街地の真ん中にある中央広場は「神聖樹の神殿」「冒険者協会」「商業組合」などの重要施設が並んでいるため、これでもか! というくらい人の群れであふれている。

 露店で何かを売り買いしているNPCや、Oβ組だろうレベルの高いプレイヤーもチラホラ存在するが、ほとんどが初期装備の見習い徒弟で埋まっていた。


「わぁ、さすが正式サービス二日目。あのプレイヤーの群れは、どーみても冒険者協会の職業登録窓口の行列だよねー。」


 四葉世界のプレイヤーは「神聖大樹と魂の契約を交わし、精霊の国エアルディルに集まった新規の冒険者(見習い徒弟)」としてプレイを始めるので、職業選択を冒険者協会の職業登録窓口で行う必要がある。

 チュートリアルを終えて神殿から出てきた見習い徒弟たちが、そのまま冒険者協会の窓口に押しかけているために、広場を埋め尽くす大行列となっていた。

 フィールドに降り立った瞬間に自動取得するクエストが「職業登録をしよう!」なので、ある意味当然の光景だと思う。

 一応、臨時カウンターらしきテーブルが多数だされ、増員された臨時職員NPCが入り口横の広場でも業務を行っているらしいが、次々と神殿から現れる人数にまったく追いついているようには見えなかった。


「サービス開始直後に、初心者向けの狩場が新人プレイヤーで埋まるのは、MMOのお約束みたいなもんだが、冒険者協会がパンクするってのは四葉世界ぐらいだろうな。まぁ、Oβでも規模は小さいが似たような状況になったから、予想はしてたが。」


 そういえばサービス直後でなくても、新規フィールドが実装された後なんかは、新規のおいしいクエストモンスターが狩り尽くされて、モンスターより再湧き(リポップ)待ちのプレイヤーのほうが多くなったりしてたなぁ。


「それでだな。ここに来た理由はあの大行列が目的じゃない。」

「え、だってまず登録しないとだめでしょ。」

「まぁ、まて。んーっと、時間的にはそろそろのはずだが。……お、いたいた。」


 赤い服を着て走ってるNPCがいるのがわかるか? と、ケンさんが指差した先に、背の低い獣人で赤い服のNPCが、中央広場から市街へ向けて走り去るのが見える。


「まず、あいつをつかまえてクエストを受けて来い。」 

「でも、クエストフラグ立ってないよ?」


 クエストを持ってるNPCは、頭上に小さな逆三角の「クエストフラグ」と呼ばれるマークが浮いているのが普通で、青は受諾可能、白なら進行中、赤は報告NPC、オレンジのちょっと形が豪華なフラグは、ストーリー上必須なミッションクエストを示している。

 職レベルやミッションの進行度でクエストフラグは増えるが、今はまだオレンジのフラグが職業登録の職員NPC全員の頭上にあるだけだった。


「あいつは特殊なイベントクエスト持ちでな、話しかけるとフラグが発生するタイプなんだ。まぁ、つかまえて話してみればわかる、おら、早くしないと消えちまうぞ、ちゃっちゃと行って来い!」


 帽子の上から頭を鷲掴みにされて、広場へ下りる階段へと勢いよく押し出される。

 いや、つかみやすい位置にあるのはわかるけど、女の子の頭を鷲掴みってどうよ? と、文句を言ったら、バカ言ってないでさっさと行け! と怒られた。





「この、ちょっと、待ってって、言ってんでしょうが、少しは、反応しなさいよぉおおっ。」


 十分後、わたしははるか先の角を曲がって消えていく赤い服のNPCに、もはや何度目かわからない叫びを投げつけていた。

 でっかい眼鏡に赤いベストを着た兎耳の獣人は「忙しい忙しい」とつぶやきながら、街中をランダムに走り回っている。……なんだか、とある有名な童話のキャラクターを思い出すけど、突っ込んだら負けのような気がするので考えないほうがいいよね、うん。


「あー……すまん、Luck以外のステータスが初期値なのを忘れてたわ。あいつはプレイヤーが近くに来ると加速するんだ、そのまま後ろから追いまわしても追いつかんよな。」

「そういう、ことは、スタミナが、切れる前に、言ってよ!」


 VRなので息が切れたり疲れたりはしないが、スタミナ値が下がると身体の動きが鈍くなってしゃべるのも大変になるのだ。

 道路にへたり込みそうになるわたしを、しょうがないな、とケンさんは荷物のように片手で脇に抱えて走り出した。……そこそこ長い付き合いなので、今さら女の子扱いしろとは思わないからいいけど。


「ゲーム内の奇数時間にだけあいつは現れる。街中を走るルートはランダムだが、五分おきに必ず中央広場に戻るんだ。つまりだな、広場近くに行きさえすれば……、お、いた。」


 二つほど先の角に、赤いベストを着たウサ耳が現れた。


「最初からこうすれば早かったな。おーら、いってこーい!」

「にぎゃぁあああああっ。」


 ケンさんはすがすがしい笑顔で、ウサ耳NPCに向かってわたしをオーバースローで投げつけた。やっぱり荷物扱いかーっ。


 わたしとほぼ同じくらいの小柄なNPCに、フライングボディアタック気味にぶち当たり、もつれ合うようにして道端に倒れこむ。逃がさないように、目の前のウサ耳をとっさに右手でつかんだ。

 あ、ふわふわのモッフモフだー。


「なにするんですか、いきなり飛び掛るなんてっ。あと、耳っ、耳をつかまないで!」


 NPCが叫んだ瞬間にポーンと音がして、ウサ耳の間に逆三角の青いクエストフラグが発生する。同時に視界の隅に「クエストワード:何か『お手伝いする』ことはありませんか」と表示された。

 この表示をクリックしてもクエストは受けられるが、ここはあえて四葉世界の売りであるフレキシブルAIを試してみることにしよう。


「えと、忙しそうなので、何かお手伝いすることが出来たらなーと思って。」

「ああ! 新しく来た冒険者の方なのですね。」


 クエスト【緊急! ブラッセル氏のおつかい】を受けました。と、ログが表示され、インベントリに「ブラッセル氏の大事な箱」「ダンバリー転送石」「プリムラの家のメモ」というアイテムが現れた。


「実は今日、砦町ダンバリーに行く予定だったんですが、急な仕事でいけなくなったのです。でも、今日中に届けないとだめになる荷物があるので、どうしようかと思っていました。その荷物をわたしの代わりに届けてください。……それと、いいかげん耳を離していただけませんか。」


 おっと、握り心地があまりにもよかったので、つい両手でモフモフを楽しんでしまった。獣人族といっても服は着てるし、顔も姿もほぼ人と変わらないので、耳しかモフモフじゃないんだよねー。

 ウサ耳のブラッセル氏が立ち上がったので、名残惜しいがわたしも手を離して立ち上がる。


「何でそんなに残念そうなんですか……。もって行って欲しいのはその箱です、ダンバリーまでは転送石を渡しておくのでそれを使ってください、届けるのはプリムラという女性で、場所はメモを使えばマップに表示されます。」


 転送石を使えるのは一回だけです、かならず今日中に届けてくださいね。とブラッセル氏は言い残して、また「忙しい、忙しい」と走り去っていった。 

 一瞬で行ける転送石があるのなら自分で飛んですぐ戻ればいいのに、とか某童話のように変な穴には落ちなかったなー、とかいろいろ突っ込みどころは満載だけど、気にしたらやっぱり負けだよね。


「よしよし、無事に受けられたか、そのクエストの転送石でダンバリーまでいくんだ。あっちの冒険者協会は空いてるはずだからな、受付は冒険者協会の窓口ならどこでやっても一緒だ。」

「なるほど、そういうことかー。じゃあ行ってくるね。」


 インベントリから取り出した転送石は一個しかないので、一人で行くつもりでそういったら「バカか、最後まで面倒見るにきまってるだろう、俺はダンバリーにはマーキングポイントがあるから、都市間ポータルで先に行ってるよ。」と、中央広場にある都市間ポータルにさっさと行ってしまった。

 むぅ、過保護なのか親切なのか微妙なところだけど、ま、いっか。手伝ってくれるのは素直にありがたい。このクエストも知らなかったらまだあの大行列の中だったろうし。


 ふと見ると、ウサ耳のブラッセル氏を追いかけてる男性プレイヤーの姿があった。

 初期装備なので目的は同じらしい。なるほど、あのクエストは知る人ぞ知る、初期の裏技って所なんだろうな。

 わたしは小声で「がんばってねー」と声援を送りつつ、転送石を使ってダンバリーへと飛んだ。

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