1-3 無職じゃないよ、見習いだよ
昨日はカズ兄のホームでログアウトしたので、そのままホームにログイン。すると、カズ兄からのメールが届いていた。
なんでも「今日は忙しくてログインが遅くなる、フレンドに代わりを頼んでおくので勝手に一人で動かないように」とのこと。
うーん、カズ兄は心配性すぎるんじゃないかと思う。VRMMO初心者じゃないし、小学生の子供じゃないんだから。……いやまぁ、確かに今の外見はどう見ても小学生だけど!
VRMMOのゲーム歴で言えば、わたしのほうが長いんだけどな。むしろ過保護な兄の将来が心配かもしれない。
カズ兄のホームはプライベート設定がされてるので、ここに好きに入れるのはカズ兄にフレンド登録した人だけ。つまりここに動かずにいればフレの人は来るはずなので、待ってればいいんだけど、誰が来るのかせめて名前ぐらいメールに書いといてほしかったなぁ。
部屋を見回すと片隅に小さなバーカウンターがあり、背の高いカウンターチェアが二個仲良く並んでいた。そのひとつによじ登って、足をぶらぶらさせる……むぅ、本来ならこれっくらい届く背丈なのに。
ホームを勝手に探索するのも悪い気がしたので、暇つぶしにハイエルフの種族スキルをチェックする事にした。
さすがに全属性とレアな光属性持ちなので、スキルリストにはこれでもか!というぐらい大量のスキルが並んでいる。ただし、全部グレーアウトしていて使えないけど。
レベルが上がると自動取得する職業のスキルと違って、種族のスキルはスキルポイントを消費して取得するようになっていて、その種族スキルポイントは職レベルが上がったときに増える。
当然だけど、高レベルのスキルは消費ポイントが高くなかなか取れないし、職レベルが低いと貰えるスキルポイントも低い。
そもそもわたしは、まだチュートリアルを終わらせたばかりの「見習い徒弟」で、職についてないからポイントは当然ない。
低ポイントでも取れる基本スキルを眺めていたら、スキルウィンドウの上にタブが3つある事に気がついた。どうやら2ページ3ページがあるらしい。
しかし、タブをクリックしてもページは開かず「ページ1のスキル取得が50%を越すと開放されます」と説明チップが表示された。ためしにページ3のタブをクリックすると同じように「ページ1のスキル取得が80%を越すと開放されます」と表示される。
つまり、ページ1の基本スキルをある程度こなさないと高レベルは開放されないよー、って事なんだろう……けど……、全属性の基本スキルの50%ってどれだけポイントが必要になると思ってるんだっ。
チートのようで、まったくチートじゃない! というかむしろ修羅の道のような気がしてきた。このハイエルフ(光)をガチャに入れた運営の性格の悪さがにじみ出てると思う。
……ちょっとだけ、泣いてもいいよね?
「よぅ、なーにへこんでるんだ?」
――ブロッケンさんからフレンド登録の申請がきました、承認しますか? YES/NO
明るい声とフレンド申請のダイアログに驚いて振り返ると、二十代後半ぐらいの大盾持ち重戦士が立っていた。
ネームタグは「人族(male) ブロッケン 重戦士 LV25」そして、にやりと笑うその顔は。
「ケンさん! 四葉世界始めたの?! ていうか、カズ兄のフレンドってケンさんだったんだ。」
ゲームごとに微妙に違いはするけど、アバターの顔はVRワールド共通の「パーソナルアバター」のアレンジだ。体型や髪型が変わっても、逞しい顔と笑顔は以前のままだった。
ケンさんは私が以前やっていたVRMMOゲーム「ストライカーオンライン(STK)」で一緒だった人だ。名前は格闘ゲームっぽいけど、内容はわりと古典的な洋物ファンタジー系のMMORPGで、「チーム」というギルドみたいな集団で戦争や狩りをする。
わたしがいたお姉ちゃんのチーム「銀嶺」はたった五人のチームで、ケンさんはそこのサブリーダー、鉄壁の壁ナイトだった。
口は悪いけどプレイも人柄もしっかりした頼れる人なので、ケンさんがいなければチームはあっという間に暴走して崩壊してたと思う。
「半年振りだなぁ、ちょっと見ない間にこーんなに小さくなっちゃって。」
笑いながら大きな手でわたしの頭をくしゃくしゃとなでる。
重戦士のパワーで遠慮なくやられたせいで、チェアから落ちそうになった。いろんな意味で容赦のないところも変わってない。
「おお、悪りぃな、ちっちゃくなっちまったのに加減するのを忘れた。」
「ゲームが違うんだから前のサイズは関係ないし! ……ちょっとクジ運が悪かっただけだから。」
「ん、まぁその辺の事情はカズ先輩から聞いてるよ、んで、俺のフレンド申請はスルーされちまうのか?」
「あ、ごめん……ん、OKしたよ。で、STKのほうははどうしたの?」
「あー、そうか、知らんのか。あれから変なアップデートが実装されてな、古参のプレイヤーの大反発を食らって、あっという間に過疎っちまった。」
なんとわたしが休止したここ半年の間に、ゲームとして成り立たないくらい人が減ったので、サービス終了寸前って言われているらしい。戦争も人がいないとワンサイドゲームで終わりだし、あまりにも面白くなくなったんで、チーム全員(といっても四人だけど)で四葉世界に移住することにしたのだそうだ。
というか、チームで移住って事は?
「お姉ちゃんも?」
「おう、お前には内緒にしてたみたいだが、オープンベータから参加して暴れてたぞ。今日も来たがってたんだけど、自分のバカのせいで来れなくってな。」
笑いながらケンさんが説明してくれた話によると、Oβでキャラを育成していたら突然ゲームが起動しなくなり、クライアントの再インストールしたら、インストールが途中でエラー落ちする、調べたらVRギアの不具合とわかったので、どうせなら、と、新しい高スペックギアを買うことにしたらしい。
そこで廃ゲーマーなお姉ちゃんは、こだわりにこだわって最新型の超カスタムバージョンを注文したら納期が大変なことになって、正式サービスに間に合わなかったのだそうだ。
カスタムにしなきゃ間に合ったのにな、とケンさんがニヤニヤ笑いながら教えてくれた。うん、お姉ちゃんそれは自業自得だね。
「それでだな、……ついでにこいつはどうだ?」
――ブロッケンさんから、ギルド「シルバーホーン」への加入要請が来ました。承認しますか? YES/NO
ケンさんは珍しく遠慮がちな表情でわたしを見下ろす。
申し訳ないと思いながら、首を横に振ってNOをクリックした。
元銀嶺のメンバーが揃っているなら、いやでも最前線の攻略プレイヤー集団になるだろう。当然だけどSTKからの移住組みは他にもいるはずで、わたしのキャラ「銀嶺のミューレ」を記憶してる人もいると思う。STKのチーム銀嶺はよくも悪くも目立つ集団だったので、わたしの名前もとんでもなく一人歩きしててかなり困った。
STK時代の事を特に隠すつもりはないけど、こんどは目立たずのんびりゲームを楽しみたいと思う。なにより目的が、攻略じゃなくてモフモフ達との戯れだしね!
「こっちでは攻略より、のんびり育成をメインにするつもりだから。」
「そうか、残念だな……まぁ、お前さんならいつでも歓迎するから、うちに入りたいときは言えよ?」
目立ちたくないし、当分はソロでまったりやる予定だと言うと、ケンさんは難しい顔で考え込んだ。
「ソロでやるなら、ハイエルフなのはともかく『Luck1000』は、人には話さないほうがいいな、言うとしても俺達ぐらい信頼できる仲間にしか言わないほうがいい。」
「え、なんで?」
「わかってないのか……カズ先輩が心配するわけだ。」
ケンさんは頭をガリガリかきむしりると、指をわたしに突きつけた。
「いいか、Luckはレアドロップ率に直接関係するんだ、そのLuckが1000なんだろ? ミュウがPTにいるだけでレア率が確実に増える、それが知れ渡ってみろ、ログインした瞬間にPT要請が飛んでくるし、狩りの誘い個人通話がひっきりなしになるだろうし、なによりギルドで囲い込みたいって狩りギルド連中は真っ先に考える。へたすると争奪戦になるぞ? ……フレンド申請も受けない設定にしたほうがいいな、信頼できると思える相手だけ、自分から申請するようにすればいい。」
おおう、またしても無駄に高いLuckのデメリットがここに!
ショックのあまりカウンターに突っ伏す。ああ、大理石っぽいカウンターが冷たくて気持ちいい、四葉世界ってほんとによく出来てるなぁ。
現実逃避気味にカウンターの冷たさを味わっていると、ぽむっと頭に何かがのる感触がする。顔をあげると、そのままつば広のシンプルな帽子を深くかぶせられた。
「ハイエルフはOβからやってて転身してるやつもいるし、ガチャで引いたやつもそこそこいるから、帽子を目深にかぶってれば紫の瞳なのはそうそうわからんだろ。アバターを小さく作るのはPVやる奴なら普通にいるし、ステータスも言わなきゃ人には見えんしな。カズ先輩からこいつとマントを預かってきた。おら、トレードするから装備するんだな。」
装備品はアイテムメニューから装備しないと、アバターに重なってるだけで装備したことにはならない。トレードで受け取って装備メニューを操作し、膝丈ぐらいの小さめのマントを羽織り、つば広の帽子を深くかぶった。
「よし、じゃあ行くぞ?」
どこに? と聞くと、バカか、お前まだ見習い徒弟だろうが、そのまま無職でいいのか? と、あきれられた。
よくない、絶対によくない。色々ありすぎて忘れそうになってたけど、四葉世界を始めたのはテイマーになってモフモフするためなんだから!
PTを組み、ケンさんが手馴れたしぐさでワープポータルを作る。
とりあえず冒険者協会の職業受付だな、といいながらポータルに消えるケンさんのあとに続いて、わたしもポータルをくぐった。