1-22 バカ鳥の逆襲
こっそり更新・・・
「……ガゼルッ、後ろっ!」
「な、しまっ……」
一瞬で黒くなるガゼルさんのHPバー。
「このタイミングでかよっ、バカミウ!手を出すな!」
とっさに<蘇生>をかけた私と、焦ったケンさんの制止の声。
「ちぃっ、このゲームはリザのヘイト高いんだ! 気合で逃げろっ<フレアハウル>!」
ケンさんが敵を惹きつけるためのスキル<フレアハウル>のフラッシュ光をまといながら、私の前に駆け込む。
だけど、奴はそんな光にも目もくれない。猛禽類に似た鋭いくちばしからかん高い奇声を発し、はっきりと私に視線を向け、天高く舞い上がった……。
――――――
四葉世界に限らず、MMORPGのモンスターには名前つきと呼ばれるボスがいる。
たとえばPT毎に新規作成されるインスタンスダンジョンの生成と同時に、ダンジョンの奥深くに沸くダンジョンボス。
または、特定の沸き場所や隠された周期を持ち、フィールドに沸くフィールドボス。
四葉なら、スヴァーデル(スラニル)や、置いてけぼりの軍団長ウダンなどがフィールドボスにあたる。
彼らは特別な名前を個別に与えられ、通常のエリートモンスターより数段強く、かつ出会うのに苦労するけど、倒せばレアやレジェンド級のよいアイテムを落とす、いわゆるお宝モンスターでもある。
そして、四葉世界にはもう一種類の名前つきボスがいる。
特定の場所で、特定の種族モンスターを短時間で一定数以上狩ると確率で沸くボスで、プレイヤーからは『お仕置きボス』通称リベボスと呼ばれる嫌われモンスターだ。
何しろ通常のフィールドボスより強くて厄介なくせに、ドロップも経験値もまったくたいしたこと無く、かつ同じエリアで自分と同じ種族モンスターが狩られると、同族リンクして問答無用で襲い掛かってくる。
公式には『一定エリアでのPT占拠狩りや乱獲防止のためのボスモンスター』となっているけど、沸かせたPTやプレイヤーが死んだりログアウトしても、だれかが倒さない限り一定時間は消えない上に、同族リンク範囲がエリア単位なせいで、なにも知らずに近くで狩りを始めた他のプレイヤーが被害を受けるというという、理不尽なお仕置き仕様。
数を狩る必要のある討伐系のクエスト対象モンスターでも、ちゃっかり沸いたりするあたり謎の四葉世界仕様でもある。
あまりにも理不尽で嫌われ者な為に、掲示板で『お仕置きボス沸き報告スレ』が立っていて、狩りの前にチェック出来るようになっている。
そして今、わたしはそれをチェックしていなかった事を激しく後悔していた。
そう、まさに目の前に巨大な鳥の足が振りかざされ、巨大な爪の鋭くとがった先が、わたしに向かって今まさに振り下ろされようとしているから。
パキャァアアアンというよくわからない鳥の叫びと共に爪は振り下ろされ、踏み潰されて――わたしはあっけなく死んだ。
薄くぼやけ、灰色に反転する風景。
そして眼下には乙女にあるまじき体勢(!!)で潰れて横たわる私の体……そこから銀の鎖で繋がれた丸い鳥かごが浮遊し、そのなかに仮アバターが閉じ込められていく。
……いやぁー、死んだ死んだ、しかもあっさり一撃で。ちなみに今の状況はVRMMO特有の魂の風船と呼ばれる、蘇生待機状態だ。
前にやってたゲームのSTKでは、ただ丸いだけの光球だったけど、さすがに最新型VRMMOの四葉世界、閉じ込められるのも細かく装飾が施された銀の鳥かごになっていてとっても豪華。
こういう細かいところのこだわりはすごいとおもうけど、他人には見えないわけだし、というかもうこれ風船じゃないよね? とか思ってしまうあたり、VRMMOで死に慣れしてしまっている自分に気がつく……四葉では初の死亡だけど、STKは狩りもするけどどっちかといえば戦争とPVP寄りのゲームだったから、多少の慣はれしょうがないよね、うん。
そしていつものように、あ、いや四葉では初めてだけどお馴染みの……目の前に点滅する蘇生確認ダイアログ。
――「神聖樹ですぐに復活しますか? YES/NO ※10分間の蘇生待機時間後には自動的に神聖樹に戻ります」
これのYESを押せば即復活出来るけど、復活登録地点の神聖樹は遠く離れた首都ホーリーの中央神殿にある。
出来れば狩場で復活したいので当然コレは押せない。
眼下にある見事に潰れたヒキ○エル状態の自分に思わず押しそうになるけど、……うん、今押すわけにはいかないよね。
そうなると、誰かに蘇生してもらわないといけないわけだけど……。
残念ながらというか、やっぱりというか……視界の隅に浮かぶPTバーが全員ブラックアウト、つまり全滅したのが目に入った。
――さて現状を整理しよう。
現在地はシグルド村から走ること五分。
可哀想なウダン軍団長がいた洞窟がある山からみて、シクルド村をはさんでちょうど反対側にあるハギンス山……通称はげ山。
その見渡す限り岩と枯れ木の広がる荒涼とした地に着いたとたん、一匹のはぐれバカ鳥を見つけて真っ先に突っ込んだガゼルさん。
そして、どこからともなく現れた巨大なリベボス。
なんというか……狩場到着から一分たらずでのパーティ全滅でした。
「あー…、全滅……かな?」
「……ほっほっほ。」
「あの、ごめんなさい。」
「まぁ、あの状況じゃどっちにしろミウは逃げられんだろ。」
「そうなの、悪いのは回りを見ずに突っ込んだそこのバカなの。」
「……んな過疎エリアにお仕置きボスがわいてるなんて、おもわねーから。」
「さようでございますねぇ。一応、報告スレは確認いたしましたが、過疎エリアゆえ報告が上がっておらぬようで。」
「そもそも、バカ鳥にリベボスがいるなんて、聞いたことがないの。」
「……ふーん、じゃあ、あれをみたの俺達が初かもしれねぇな。」
「いや、アレを沸かせて死に戻りした奴が初じゃないかな。」
「そういやそうか。」
あたりに散らばるPTメンバー全員の死体、他人からは見えないけどその上にそれぞれ浮遊しているハズの鳥かごから、のんびりとした会話が届く。
もちろん全員が、ごつごつした岩場に見事に潰れた死体を晒したままだ。
なにしろ全滅の原因であるリベボスが、それぞれ横たわった死体を検分するようにうろつきまわっていて、復活しようにも出来ないのだ。
普通の狩りPTならここでいったんお開きにして全員神殿にもどり、ボスが消えた明日にでも出直すんだろうけど・・・。
「で? 何人復活できる?」と、当然のように始まるバカ鳥ボス討伐会議。
うん、ですよね! めったにみない……と言うか初討伐になるであろう、ボスに挑まない選択肢は彼らにはないよね!
たしかに私もこのまま引き返すつもりはなかったけど!
取りあえず、さっき全員でリフレ落ちしたから時間はたっぷりある事だし、やるだけやってみるのも冒険だよね、と言うわけで私も討伐会議に参加する事にした。
固有名ドン・バガード・リーという、運営絶対狙っただろう! と言いたくなる様な名前のバカ鳥のボスは、巨大な大鷲に似た体の片方に猛禽類に似たりりしい頭と、その反対側にどこのふざけたアニメのキャラクターかって言いたくなるような、ぶちゃいくなバカ鳥面の、二つの頭部を持っている。
ちなみに、本来狩る予定だった通称バカ鳥のほうは正式には「バガード」と言いうらしく、頭は二つではなく、ぶちゃいくなバカ面のほうだけを持っている。
そのバカ鳥ボスの猛禽類風の頭は戦闘専用なのか、今は目を閉じてうつむいたまま、バカ面のほうが「ぬうぅっふっふぅ」っとわけのわからない声で鳴きながら、まわりを見回しながら歩き回っていた。
双頭の鳥……といえばかっこよさげなんだけど、背中に生えている翼の着き具合の方向からみて、どう考えてもバカ面はお尻にあるように見える。エリマキ状に首周りに広がる翼は尾羽が広がってるっぽいし。
猛禽類風の頭がほんとうの頭、バカ面がお尻だとすると排泄物はどう………………。
………。
………………。
………………………………。
ダメだ! 考えちゃダメだ!
コレはファンタジー、そうファンタジーワールドの不思議生き物、いやモンスターなんだから別の排出口があるに違いない! じゃなくて、排泄そのものをしないんだから!
……と、いう事にしておこう、うん。
やっぱり世の中には、気にしちゃだめだって事もあるよね?
さて、問題はそこじゃなくてどうやって奴から復活即死を食らわずに、PT全員が蘇生するかだ。
取りあえず、初心者交じりの即席PTなんだし、一人二人が考えなしに起きても、まず戦闘にすらならないのは目に見えているんだよね。
基本的にパーティ戦闘っていうのは壁役がモンスターのターゲットを維持し、火力役が攻撃し、回復役がそれらを支えるもので、誰か一人かけても戦闘は維持できない……いやまぁ、回復何それ美味しいの? 痛い攻撃食らう前に倒せばいいのだ! で火力ごり押しPTとかもあるけど……特に銀嶺チームにいた戦闘バカ達とか、余裕でやりそうだけど。
…………あれ?
よく考えたらこのPT、メイン職が回復系なのは私だけど、低レベルの初心者だから焼け石に水だろうし、サブ職にバード派生職をもってるカゲヤマさんは基本エンチャンター、つまり強化魔法使いに近いスキル構成のはずだから、瞬間の回復能力は高くないはず。つまり、回復何それ美味しいの状態……?
えっと、いやまぁ、いないよりましなハズだし、足りない分はきっとPOTでみんななんとかしてくれるよね! そう信じよう! よし。
「……で、起きれるのは予約蘇生持ちのカゲヤマさんと、カゲヤマさんのリザが入ってるローゼさん。後は蘇生結晶があるオレの三人か。一応、オレは2回は起きれるがそれ以上は手持ちがない。」
「ほぉお、蘇生結晶とは……ケン様はずいぶんと珍しい物をお持ちですなぁ。最近出回り始めた極レア品ではないですか。」
「まぁ、知り合いから……いろいろあってな。」
「ふむ、その辺のお話をじっくり伺いたいところですが、今はやめておきましょう。」
ほっほっほ、とカゲヤマさんの余裕の笑み。ケンさんは小さな声で「様呼ばわりされるような柄じゃねぇんだが……」と呟いていた。
ちなみに真っ先に死んで、わたしのリザをもらったはずのガゼルさんは、すぐに蘇生して復活即死を食らった後でした。
そのことでローゼさんが「考えなしに即起き? バカなのアホなの初心者なの?」等、妙に楽しそうにつっこんでたけど、取りあえず聞こえないふりをしておいた。南無。