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1-21 ざ・ろーる・ぷれいんぐ・げーむ 

 リフレ落ちのついでに軽くシャワーを浴び、さっぱりしてから二十分後にログインすると、PT人数が五人に増えていた。

 落ちる前にカラスさんにPTリーダーを渡しておいたので、すでにケンさんが合流してるらしい。

 ふと見ると、PTバーのケンさんの表示が、重戦士レベル三十八になっていた。昨日会ったときは二十五だったような気がするんだけど……、いまはサブ職をのんびり上げてるって言ってたのになー。まぁあの銀嶺チーム(戦闘バカ)の一人だし、この程度のレベル上げ速度は気にしたら負けか。

 外に出ると、クロウ君が湖のほとりで待っていてくれたので、ありがたく背中にのって湖を渡った。うん、カラスさんてば気配りの人だなぁ。

 すでに他の四人はエリエルさんの小屋の前に全員集まって話し込んでいたので、名残惜しいけどクロウ君の背中から降りて近寄る。

 そういえばガゼルさん、十五分ぐらいでご飯食べちゃったのかな?


「……で、アンカーブレードで拘束すりゃ、ソルブレが入るからスタンから束縛コンボの二ターンで沈む。」

「アンブレか、アレが入れば確かに勝確(かちかく)だな、俺は吸込み盾でやってた……おっと、主役が登場したか。おい、何をぼーっとキノコみたいに突っ立ってるんだ、さっさとこっちに来い。」


 ガゼルさんと戦闘話で盛り上がっていたケンさんが、振り向いてわたしに手招きする。

 ケンさんに「キノコじゃないから」と言いながら近づくと「じゃあタケノコのほうがよかったか? だけどタケノコほど背丈が伸びないしなぁ」と言って笑ったのでとりあえず、「ウドの大木に言われたくない」といいつつ膝の裏側に蹴りを入れておいた。


「ずいぶんと、なかよしさんなの。」

「あ? ああ……んーと、俺とこいつの兄貴が大学のサークルで先輩後輩でね、リアルでもそれなりに付き合いがある、まぁ、妹分みたいなもんだ。」


 ケンさんは、わたしの頭を手のひらでわしわしとこね回しながらあっさりと言う。

 まぁ、大学の後輩なのがわかったのはSTKで知り合った後だったりするけど、リアルで付き合いがあるのは本当だし、嘘を言ってるわけじゃないからいいよね。ここはケンさんの気配りにあまえておくことにする。


「それはそれは、始めたばかりのMMOで知り合いがいるという事は、とても良き事でございますなぁ。」

「うはぅっ?」


 いきなり真横から声がして、驚いて飛び退いた。

 いやいやいやいやいや、いま絶対隣に誰もいなかったから! びっくりしすぎてまた変な声が出ちゃったじゃないか!


「カゲヤマ、子供をびびらせて遊ぶのはよくないの。」

「お嬢様、遊んでなどおりませんよ? ただご挨拶をと思っただけでございます。」


 ファンタジーの森の中にまったく似合わない、かっちりとしたダークグレーの三つ揃いスーツ、白髪交じりの髪に柔和な笑顔、好々爺と言うにはちょっと若い、あえていうならナイスミドルな執事風のおじさんが、ローゼさんの横に控えるように立っていた。

 ……いつの間にわたしの横から移動したんだろう?

 そしてネームタグは「人族(male) カゲヤマ 執事 LV30」……え、職業が執事?


「執事って職、あったんだ……。」

「あー、お前さんの貸出師(レンタルマスター)と同じ、プレミアジョブらしいぞ?」


 思わず呟いてしまったら、ケンさんがさくっと教えてくれた。

 ゲーム内の特殊クエストでゲットしたのか、ガチャでゲットしたのかどっちだろう?

 確かあのスーツはローゼさんの狐耳と同じでCβT(クローズベータテスト)の参加特典だったはずだし、すでにレベル三十ってことはゲーム内クエストのほうが可能性高いけど、Cβからやってるような廃……いや、高ランクプレイヤーはレベル三十ぐらい、三日もあれば上げられそうだしなー。


「ほほう、貸出師とはまた珍しい職をお持ちですなぁ。」

「いえあの、パッケガチャで当たっただけですし、それにまだ本職じゃなくて貸出師(見習い)なんで……。」


 そういえば、と今さらながらに思い出して、第三の職であるEXにセットしっぱなしの貸出師のレベルをチェックすると、いつの間にかレベル八になっていた。

 ちなみに療法士(クレリック)がレベル十一、調教士(テイマー)がレベル七だ。二十%しか経験値が入らないEX職なのにテイマーよりレベルが高いってことは、見習いはレベルアップの必要経験値が低いのかな。

 今のところスキルは「固有化したアイテムを他者に一定時間貸し与えることが出来る(ノーマル品以下限定)」という〈シェア(見習い)〉一個だけ。見習いのカンストはレベル十五らしいから、近いうちに本職になるだろう。けどまぁ……見習いが取れてもこれがレア以上も貸せるようになるだけで、スキルが一個なのは変わらないらしいけど。


「えっと、それでカゲヤマさんなんだけど、ローゼが狩りに行くなら自分も一緒に行くって言っててね。」

「ロゼお嬢様の狩りに、わたくしが同行しないわけにはまいりません。」


 うわぁお、お嬢様&ワタクシ発言きた、て言うか徹底した執事のRP(ロールプレイ)だなぁ、まさか本職じゃないよね? いや、まさかね?

 STK(前ゲー)でも「流れの傭兵」や「姫に仕える剣士」とか、なんちゃってRPしてる人がいたし、MMO()()()なんだからそういうプレイもありなのかなぁ。まぁ、本人が楽しんでてまわりが迷惑してなきゃいいよね。 


「こう見えてもカゲヤマさん、サブ職に『指揮者(コンダクター)』をもってる、それにローゼの相方やって長いから、ローゼが多少暴走してもフォローしてくれるし。ちょっと見た目と言動がいろいろ怪しいけど、腕は立つし意外といい人だよ。」


 カラスさんそれ、ぜんぜんフォローになってないと思う……。

 でもコンダクターか、これもめずらしい職だなー。たしかバードの派生職だから回復・支援も使えるけど、相手に状態異常を引き起こすCC(クラウドコントロール)に特化したおもしろい職だったはず。

 一応、カゲヤマさんにクエスト報酬はないですよ? と念を押すと「ほっほっほ、そのようなこと、些事でございます」と、笑って言われた。……うわぁ、リアルでほっほっほって笑う人はじめて見た! まったく違和感ないけど、それがまた逆にすごい。

 とりあえずPT枠も一人余ってるし、珍しい職の戦いも見てみたいし、……まあいっか。

 わたしはカゲヤマさんにむかって「よろしくお願いします」と、頭を下げた。


「おっしゃ、じゃあサクッとハゲ山に走るか!」


 ケンさんの言葉に、カラスさんがクロウ君をわたしの前によこしてくれる。

 申し訳ないと思いつつ、クロウ君の背中にのろうとしたら、ケンさんが「そいつが通り道のモンスターにリンクしたらやばいだろ」といって、わたしを米俵のように肩に担いで走り出した。

 つい、女の子を荷物扱いするな! と抗議したら「おう、荷物にならんくらいレベル上げてからいいな」と、性格の悪そうな笑顔で言われてしまった。

 ……ぬぅ、悔しいけど事実だもんなぁ、早くレベル上げて荷物扱いから脱してやる!


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