1-20 類は友を呼ぶ……?
とりあえずわたし達は、リリエルさんの部屋の隅にあるテーブルセット……のような木のコブにそれぞれ腰掛け、自分のクエストタグをチェックする事にした。
わたしも一番小さなコブによじのぼり、肩からトトをおろして膝に乗せて、片手でモフモフを味わいながらクエストタブをチェックする。
トトをなでるとゴロゴロいいながら、ものすごい勢いで手に頭を擦り付けてきた。
……ちくしょう、かわいいやつめ。
膝の上のトトを両手でコロコロもふもふしながらクエスト品をチェックしてたら、手触りに違和感を感じた。あわてて手のなかを見ると、いつの間にかミニマムサイズに戻ったリリエルさんが、トトと一緒に膝の上でコロコロとじゃれあっている。
えっと……いいのかなこれ……、まぁ、可愛いからいいか、なんか和むし。
ふと見上げると、三人とも妙に生暖かい笑顔でこっちを見ていたので、笑い返したらあわてて視線をそらされてしまった……あれ? なんかまずいことでもしたのかな?
「〈古い香木の欠片〉二十個、〈新聖樹の若葉〉五枚、〈上級神霊薬〉五本に……〈炎華鳥の種〉五十個?」
カラスさんが読み上げるクエスト用の収集アイテムは、プレイを始めたばかりのわたしにはどれもこれも手持ちにないどころか、聞いたことも無いアイテムばっかりだ。
そして先輩プレイヤーのカラスさんたちは、当然のように手持ちのアイテムを照合して、足りないものをチェックしている。
「んー、上級神霊薬は俺が作れるけど、製作素材の〈上級 妖精の硝子瓶〉の手持ちがないな。」
「上級のレシピもってる、硝子瓶は作れるの。」
「ああ、硝子瓶製作は細工スキルか、じゃあ素材は提供するから予備も含めて十本ほど製作を頼む。」
「手持ちの素材で足りるから大丈夫なの。」
「了解。ええと香木はギルド倉庫に百本ほどあるし、若葉は俺の手持ちでたりるから問題ないな、あとはこの〈炎華鳥の種〉だけど……、このアイテム見たこと無いんだよなぁ。」
「鳥なのに種とか、よくわからないの。」
……ローゼさん、問題はそこじゃないと思います。
カラスさんがフロートディスプレイを開いて「クエスト品にも製作素材データベースにも無いか、じゃあドロップジャンクか……?」と呟きながらネット検索していると、今まで黙って座っていたガゼルさんが「種か……、手持ちにあるな。」と、ぼそりと呟いた。
とたんにカラスさんが目を輝かせ、「何個ある? どこで採れる?」と詰め寄る。
「落ち着けバカ。五十はない、せいぜい五個ぐらいだ。」
「ぜんぜん足らないな、だけどまぁ採れる場所がわかってるなら、取りにいけばいいか。それで? どこで採れるんだ?」
「ハゲ山の頂上にいる、単品エリートの赤い鳥がたまに落とす。」
「ハゲ山の鳥って、あのバカ鳥か! あいつドロップ品あったんだな。……てか、お前、あんなクソまずい狩場に行ってたのか?」
「まずくは無い、人もこないしソロで狩れるエリートだ、経験値がうまい。」
「いや、いくらソロ狩りできるエリートでも、ハゲ山はないだろう……。」
ハゲ山だのバ……いや赤い鳥だの、よくわからないので首をかしげていたら、それに気がついたカラスさんが丁寧に教えてくれた。
なんでも、シクルド村の近くにある高い岩山で、まともな道が無いので行くのが大変な上に、そこに唯一存在しているモンスターが赤い鳥で、これがけっこう高レベルのエリートモンスターなので、倒すのがめんどくさいのだそうだ。
かといってその鳥をPTで討伐するようなクエストがあるわけでもなく、辺りの採取物もドロップもわざわざ行くほどのものは何もない、美味しいところがなにもない、まったくの過疎地になっているらしい。
「おまなぁ、あんなクソまずいバカ鳥相手何やってるんだよ……。」
「だから、まずくは無い。そこそこ経験値がうまいといってる。」
「いや、そりゃ狩れればそうだろうけど、もっと他に楽で美味しい狩場はいろいろあるだろ?」
「経験値以外美味しくないから、誰も来ない。……そこがいい。」
「あんなとこに行く戦闘バカは、ガゼルくらいなの。」
戦闘バカといわれたガゼルさんは、相変わらずの目つきの悪さで黙っていたけど、どことなく楽しそうに見えるのは気のせいかなぁ。
うーん……、なんだかその戦闘バカといわれて喜ぶ、さらには不人気のエリートをソロ狩りしそうなバカな人物が知り合いにも若干名いる、ような気がする……と言うか間違いなくいるよね。
そしてそのうちの一人が、ついさっきログインしてる……場所はホーリーだからまだ街中だ。
わたしは「もしかしたら種を持ってるかもしれない知り合いに連絡取ってみる」と、みんなに言いつつ、個人通話をオンにした。
(おつかれー、ケンさん今ちょっと話して大丈夫?)
(お、ミウか。どうした?)
(んと、ハゲ山の赤い鳥が落とす種って、わかる?)
(あのバカ鳥か? ああ、たしかよくわからん種をたまに落とすが。)
(あ、やっぱり知ってた。それいくつか持ってたりするかな。)
(あるぜ、たしか二十ぐらい……って、お前、現在地がシクルド村? そんなとこで何やってんだ?)
あ、そういえばここは低レベルで来れるところじゃないんだっけ……。
クリアしたチェーンクエストのおかげで、いつのまにかクレリックがレベル十一になってたりするけど、それでもここにいるには無理があるレベルだ。
取りあえずケンさんに今日の事と、未発見のクエストを進行中でその種がクエスト品として五十個必要なのを簡単に説明した。
(ふーん、スヴァーデルの卵クエストか、たしかに聞いたことねぇな。……よし、わかった、種はタダでくれてやるから、俺もそのPTにまぜろ。)
(はぁっ? いやでも、チェーンクエストの途中だから、来ても報酬は入らないよ?)
(ばかか、ハゲ山はレベル三十のフルPTでもキツイところだぞ、PT人数は多いほうがいいだろうが。それにカラスとガゼルなら野良PTで組んだ事がある、顔見知りだから問題ねぇよ。)
(いやいやそういう問題じゃなくて。このクエストの報酬次第では、その種はすごく高価なアイテムになるかもしれないんだよ? クエ報酬も無いのにタダでもらうとか……。)
(ばーか、いまさらお前から儲けようなんざおもわねぇよ。それにだな……。)
(それに?)
(未発見クエストとか、そんな面白そうなもん見逃すわけないだろうが?)
音声のみの個人通話なので顔は見えないけど、ケンさんが獲物を見つけたような目で笑っているのが見えたようなきがする。
(シクルド村なら十分もあれば付くから持ってろ。それより、お前さんそろそろタイムが赤くなりそうになってるぞ?)
(え? あ、ほんとだ。)
ケンさんの指摘にはっとしてタイムカウンターを見ると、すでに残り二十分を切っている。
ウィスをいったん保留にして、カラスさんたちに事情を話すと、全員でいったんリフレ落ちすることになった。
「じゃあお嬢が戻るまでの間に、俺達は他の必要なものを製作してそろえておくよ。」
「俺は飯を食ってくる、二十分くれ。」
「了解。じゃあ二十分後に、エリエルの小屋の前で集合で、ってブロッケンさんにも……」
「伝えておきます。」
うなずいて保留したウィスをつなぎなおし、二十分後にエリエルさんの小屋の前集合なのを伝えて通話を閉じる。
そして妙にキラキラした目で「落ちるなら私の部屋に」と、せまるローゼさんに拉致られそうになったけど、カラスさんが「まて、それはやばい」と全力で止めてくれたおかげで、さっき借りたままになってた宿の部屋へと逃げ出して、何とか普通にログアウト出来た。
けど……ローゼさんの部屋って何がそんなにやばいんだろう……?