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1-1 チートというには微妙すぎる

 初の国産VRMMO 【フォー リーヴス オンライン ~四葉世界~】

『精霊界・獣人界・魔界・人界と、美しく広大な4つのワールド』

『自然な会話と、進化するフレシキブルAIのNPC』

『100を超える職業からメイン・サブ・EXと、3つまで選択可能な職業レベル制』

 1つを厳選し専門職として大きく伸ばすもよし、2つのジョブで魔法剣士として生きるもよし、3つのジョブを駆使して万能戦士となるもよし! あなただけの自由なキャラクターで、新しい世界におりたとう! 

 



      -------------------------



 

「わぁ、ブラウン社製の最新型じゃない、カズ(にい)がんばっちゃったなぁ。」

 

 新品を箱から取り出す瞬間って、なんかわくわくするよねーと思いつつ、箱から小さなヘルメット風の機械……最新のVRギアを取り出した。

 VRゲーム特化のハイスペックギアとして超人気なため、ブラウン社の新製品は品薄が続いてるはず。業界につてのある兄でも手に入れるのに苦労したんじゃないだろうか。

 高校入学のお祝いとしてはちょっと高すぎる気もするけど、合格発表の帰りに事故にあってせっかく受かった高校を休学し、二年間の療養生活の果てにようやくいけることになったお祝いだし、VR塾の人気講師である兄ならではのつてで、それなりに安く手に入ったらしいので気にしないことにしよう。


 古いVRギアから基本アバターのパーソナルデータと細かいオプション設定を移し、ネットから最新のOSアップデートと、目的である新作VRMMOのゲームクライアントをインストールする。

 第二の世界といわれるヴァーチャルリアル(VR)技術、視覚のみの時代から聴覚・触覚と開発が進み、ついに全感覚投影型(フルダイブ)VRが実用一般化されてから5年、開発に時間がかかるためか数は少ないものの、オンラインゲーム世界でもすでに複数のフルダイブ型VRMMOタイトルが世界各国で順調に開発され、もちろん日本にも海外製のゲームがローカライズされてサービス展開しているものがいくつもある。。

 そして今回、初の日本国産VRMMOがいよいよリリースされ、今日はその正式サービス開始の日なのだ。

 高校入学を控えた春休み、本来ならゲームに手を出す気はなかったけど、クローズド()ベータ(β)テスト()に参加したカズ兄が送ってくれた一枚のスクリーンショットと、壮大なプロモーションムービーにわたしは釘付けになり、その日のうちにプレイチケット付のゲームパッケージを予約した。

 それはポニーサイズの巨大ペルシャ猫のスクリーンショット(SS)と、キャラクターを乗せて大空を舞う羽付巨大ブチ猫、ファンタジーの世界観なにそれなモッフモフ達。

 犬も猫も大好きなのに、リアルで毛アレルギーなためにまともに触れ合えないが、VRならそれが出来る! しかも何匹もはべらせてうずもれる……いや、一緒に戦うことも出来るのだ!! 

 わくわくしながらベッドに横たわる準備をすませ、VRギアのヘッドセットをゆっくり装着すると、新品のヘッドセットはすんなり頭になじんだ。

 

「ようこそ、VRMMO Four Leaves Online 四葉世界へ」 

 ゲームクライアントを起動させると、いつもの何もない基本VRフィールドに、柔らかな音声とオープニングロゴがながれた。

 タイトルが消えると同時に小さな妖精が現れてチュートリアルの開始を告げる。

 まずはキャラクターアバターの設定、名前は本名の絵美をもじった「エミィ」を入力。


 ――その名前はすでに使用されています。使用できる候補はこちら「エミィ017」「エミィ549」「エミィ3828」 候補を選択するか、新しい名前を入力してください。


 くっ、これがウワサの"名前取り合戦"か!

 まぁ、データがリセットされたCβTはともかく、プレイデータがそのまま移行された二十日間のオープンベータ(O・β)を二回行ってるから、合計するとすで一ヶ月以上プレイしてる人がいる大人気ゲーム、コレくらいは予想の範囲内!

 気を取り直して用意していた別の名前を入力……、さらに別の名前を入力、もっと入力……。

 ええぃ、世の中のエミさんがそんなに遊んでるゲームなんかいっ!

 と、叫びだしたいのをこらえつつ新たに「エ・ミュウ」と入力。


 ――お名前を「エ・ミュウ」で登録します。 よろしいですか? YES/NO


 YESだよ、もちろんYES!


 ――登録されました。アバターの詳細を設定してください。


 やっと現れた新しい登録メニューを操作する。

 性別は基本的に本来の性別から変更不可なので女性のまま、年齢の設定も実際と変わらぬ十八才。

 基本種族は、エルフ(魔法職向け)・人(バランス型)・獣人(戦士職向け)の三択か。

 うん……せっかくのファンタジーワールドだし、魔法職にする予定なのでここは魔法に有利なエルフを選択。種族の属性は攻撃職なら火、支援職なら水がおすすめと公式にあったので、もふもふ達を支援しやすいように水を選択。

 髪の色はエルフらしく派手な色が結構あったけど、目立ちたくないので茶に近いブロンドにして、お約束のとんがり耳も控えめに設定する、瞳の色ブラウンからは変更不可だった。

 容姿はVRワールド共通の「基本パーソナルアバター」からランダムにアレンジされるので、いくつかのフェイスパターンを試して、そこそこかわいいと思えるエルフの女の子を選択。

 なかなか満足いく出来になったので、キャラクター作成の決定をクリック。すると、システムからの作成確認のダイアログの後に、新たなメッセージダイアログが現れた。


 ――作成したアバターに、ゲーム(ポイント)を使用してランダム能力を付与することが出来ます。付与すると、ステータスが上昇したり、レアな種族属性がアバターに付与されることがあります。1チャンス10Pです。あなたのゲームPは1300Pあります。チャレンジしますか? YES/NO


 そういえば、療養中にやっていたVRMMOゲームと同じ運営だったっけ。

 前にやってたゲームで溜まったゲームPがそのまま残っていたらしい。前ゲーは姉に引っ張り込まれた初のVRゲームで、いろいろ楽しくはあったけど……廃ゲーマーな姉に始終引っ張りまわされ、妙に目立ってしまったために面倒になって休止した。

 こういう前ゲーの遺産なんかパーッと使い切っちゃったほうがいいよね、と、ポイント設定を1300Pと全部入力してYESをクリック。


 派手なファンファーレとゲームのテーマソングが鳴り響き、風景が柔らかな日差しと風の舞う庭園へと変化した。

 

 神殿風の建物の中庭にある簡素な祭壇のような場所で、足元に魔方陣が点滅している。

 正面には神官服を着たイケメンエルフのNPCが一人立っていて、にこやかにこちらに手を差し伸べていた。


「妖精女王の統治する国、エアルディルへようこそ。ちいさな冒険者のお嬢さん。」


 いや、ちいさいってもう十八才だし、神官さんが大きいのであって、自分はそれなりに身長もある……って、あれ? なんか変だ、NPCの神官さんだけでなく周りの建物とか、扉とかが妙に大きいような気がする。というか、わたしが小さいんじゃないだろうか、うん、どう見ても子供の手だよねこれ……って、ちょっとまてぇい! 

 あわててマルチモードの視点で外見をチェックすると、そこには茶色がかったブロンドに鮮やかな紫の瞳(パープルアイズ)の、どう見ても十才程度にしか見えない小柄なエルフの少女がいた。

 



  


「うーん……それ、バグじゃないかもしれないなぁ」

 

 暖かいマグカップを差し出したカズ兄は、いつもと変わらぬ癒し系の声と柔らかな表情で、ゆっくりと白銀の狐耳を動かしながら首をかしげた。

 

「ええええ? だって、どう見ても十八才の外見じゃないよこれ。ステータスの年齢は十八才だし、設定間違ってないよ?」

 

 ふかふかのソファーにすわり、この新作VRゲーム四葉世界の売りである、生活感にあふれた空間とリアルなホットコーヒーの香りに感動しつつ、コーヒーに似た飲み物を受けとる。

 外見のおかしさに気づいた後、神官NPCさんからの精霊国エアルディルの説明や、基本操作チュートリアルを猛烈な勢いで消化(すっとば)し、晴れて見習い徒弟として通常フィールドの神殿前に降り立ってすぐ、アバターを作り直すためにメニューから外見のリセットを選択した。

 しかし「外見のリセットにはゲームPを300P使用します、あなたの現在のゲームPは0Pです。」と、無常なシステムメッセージが流れるだけだった。……そういえば、全ポイント使い切っちゃったんだっけ。

 基本ステータスの年齢設定は十八才になってるし、これは運営にバグ報告して修正してもらうしかないかなぁ……と、いろいろ絶望しているところにカズ兄から個人通話(ウィスパー)が来て、そのままカズ兄が所有しているホームへと案内されたのだった。

 

「ちょっとまってね、掲示板情報チェックとか、フレに色々聞いてみたりしてるから。」

 

 そういうと、カズ兄は中空に視線をさまよわせたり、小さく口を動かしたりしている。WEB画面を呼び出して検索したり、フレンドの人にウィスパーを飛ばしたりしてくれてるんだろう。

 さすがにCβから参加してるだけあって、四葉世界に馴染んでいるなぁ。ちなみにカズ兄のゲームアバターは狐耳の獣人で、Cβの参加特典の特殊レアアバター「銀の白狐」の獣人、白銀に近い銀の髪でほっそりした体型のかなりイケメン兄ちゃんだ。

 

「うん……うん、ああ、やっぱりね……なるほど……ミウ、基本ステータスをちょっと見て、おかしな表示がないか確認してくれるかな?」

 

 おかしいといわれてもわからないので、ステータスウィンドウを開いて詳細の数字を表示させ、上から順に読み上げていく。INT10・DEX10・STR10など、MMORPGではお馴染みのステータスが見習い徒弟らしく10できれいに揃っている、が、あれ?

 

「Luckが、えーっと、1000あるんだけどなにこれ?」

 

 カズ兄はわたしを凝視したまま、見事にフリーズした。




 

「で、何をやらかしたのかしら? カズ君のかわいい妹ちゃんは」

 

 小さめの銀の狐耳をかしげながら、やさしげな美女が笑いをこらえて言う。

 腰まである青みががった銀髪の女性は、カズ兄の相方(リアル彼女)さんでエリーンさんといい、同じく銀の白狐アバター、細身なのに出るとこはちゃんとある美人さんだ。

 狐耳をピンッと勢いよく振り立てかなり怖い笑顔で立つカズ兄と、その横に立っている困ったような笑顔のエリーンさんに見下ろされて、わたしはソファーにうずもれるように小さい体をさらに小さく縮こまらせた。

 

「オープニングイベントで、ステータス付与のゲームPガチャがあっただろう。1ゲーム10Pのあれに、1300Pも突っ込んだらしい。」

「……なんで1300Pもあったのかは聞かないでおくけど、でもあれって、はずれのほうが多くて当たりでもステータス1だし、大当たりでも5上昇とかでしょう? 130回分大当たりを引いたとしてもLuck値1000はおかしくないかしら。」

「普通はそうだけど、どうもこいつは特殊レア種族アバター、それもシークレットのSレアを引き当てたらしくてね。」

 

 ぽん、とわたしの頭に手をおいて、苦笑するカズ兄。

 そもそも、このゲームPは千円の課金で10Pしか増えない。基本月額四千円で三ヶ月一万円のこのゲームだったら初期では100Pしか持ってなくて、たいていは10回ガチャするのが普通なのだそうだ。

 重課金者なら1000Pぐらいは普通に持ってると思っていたけど、ゲームPで交換できるレアなアイテムがあったり、期間限定なプレミアゲームPガチャが定期的にある上に、一年で期限が切れるため、たとえ前ゲームの繰越分があったとしても、200~300P程度しか普通は所持していないものらしかった。

 ちなみに、たかが高校生がなんで1300Pも持っていたのかというと、廃ゲーマーの姉がわたしを前のゲームに引っ張り込んだ時、有名商社OLの高給料に物を言わせて、わたしに課金ガチャを大量にやらせた所為だった。


「シークレットのSレアねぇ、それって公式でも『謎の上位種族』としか紹介されてない、普通の種族ランクアップでは取得できないタイプの”特異転身”って奴よね? 公式のガチャイベントページには目立たないところに【さらにシークレットな当りが?】ってしか書いてないけど、まさか特異転身の上位種族が入ってるとはおもわなかったわ。」

「噂だが、こいつの他にも竜の獣人というSSレアを引き当てた人が一人いるようだな。それにそのページの下のほうに小さくSSレアの注意書きがあるだろう?」

「……SSレアの当選時には、すべてのステータス上昇値が上書きされる場合があります?」

「そう、130回もステータスガチャ引いたはずなのに値が均一すぎるだろ? 僕たちのように外見だけの特殊アバターじゃない、種族としての特殊能力が強制的に上書き付加されているってことだな。ステータスメニューの種族ネームが紫表記になってるらしいし、なによりこいつの瞳の色からして、たぶん間違いないだろう。」


 四葉世界は職業レベル制なので、キャラクターのレベルはない。

 その代わり種族ごとに上位種族に転身できるシステムになっていて、たとえばエルフ族の風属性を選ぶと、単属性エルフ(風)>複属性エルフ(風・水)>ハイエルフ(四属性)と、種族転身クエストで上位種族になっていき、ステータスメニューの種族名と瞳の色が、それぞれブラウン>グリーン>ブルーと変化するらしい。

 ステータスメニューは他のプレイヤーには非公開だし、プレイヤーをフォーカスすると表示されるネームタグは、基本の種族名『エルフ』としか表示されないので、瞳の色で最低限種族クラスがわかるようになっているとか。

 そしてわたしの瞳はブルーから紫に光の加減で変化する青紫の瞳、ステータスメニューの種族は『ハイエルフ(光)』と紫でしっかり記載されていた。


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