第07話:協力してくれないか?
昨日とは打って変わって雲一つ無い快晴となった日曜日。カーテンが無力化されるほどに鋭い熱と光の槍に麦茶が進む進む。夏を感じさせる灼熱の太陽を受けて、「太陽サンサン! 熱血パワー!」なんて言ってたらメール受信。
「ん、茜か。なんだろう」
『今日バイト休みかな? かな?』
なんか見覚えのある文章のような…。
「バイトは18時からです、と」送信。
「ピロン」早っ!
『じゃあ14時に安曇野くんの家にいらっしゃい☆』
いやいや、ちょっと待てよって返そうかと思ったが丁度暇してたところだったからやめた。
「了解、駅で待ち合わせしよう」
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暑くない格好に着替えて麦茶とグラスをキッチンに持っていくと飛鳥がアイスバーをくわえたままやってきた。
「あれ? ヤマトどっか行くの?」
「ああ、ちょっと友達の家にな」
「もしかして茜さんの家?」
「違うよ。何を期待してるんだお前は」
「バイトは?」
「18時から。間に合うように帰ってくるよ」
「ふーん、残念だったね」
「何がだよ」
「別に何も」
そう言い残して飛鳥は部屋に戻った。何なんだあいつ。
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これから起こる出来事に不安を隠せなかった僕は、いつもは通らない人通りの多いルートを選んだ。何か非日常的なことが起こりそうで恐かった。
商店街を抜けて駅前通りをまっすぐ、待ち合わせの駅に向かって歩いていると新しくタイ焼き屋がオープンしていたから行列に並んで買った。
「おーい、こっちこっちー」
黒いハットを被った茜が両手を振って大声で場所を示す。その横には男が2人。右側、吊り目のバンダナ野郎は安曇野だと思うが、もう一人の金髪の人には見覚えがない。知らない人だろうか。
「遅かったねヤマトくん。何かあったの?」
「そうそう、これをみんなに食べて欲しくてね…」
さっき買ったタイ焼きを袋から取り出して3人に配った。
「ありがとうヤマトくん」
「サンキュー関ケ原」
「いただきます…」
人見知りな僕は、初対面の人には食べ物をあげてその反応を見て評価する癖があった。どうやら金髪の人も悪い人ではなさそうだ。
「もぐもぐ、じゃあみんなヤマトくんに自己紹介しよう。まずはわたしから」
そういって茜はタイ焼きを飲み込んだ。
「赤羽根茜です。好きな食べ物はタイ焼きです。ヤマトくんありがとね」あ、好きだったんだタイ焼き。
「言うまでもねえが、オレは安曇野両哉。こんな形でお前と行動することになるとは思わなかったぜ、関ケ原」なんか引っかかる言い方だな。
「西淡明…。こう見えて赤羽根と同じ高校だ。よろしく…」別にどうとも見えんがな。
「僕はまあ、知ってのとおり関ケ原大和です。よ、よろしく」
とりあえず基本的な自己紹介が終わったところでみんなタイ焼きを食べ終わった。ところで安曇野と西淡、この2人はどんなリンカネイターなんだろうか。
「なあ安曇野、お前はどんな能力を得たんだ?」
「ん、赤羽根から聞かされてなかったのか?」
「ヤマトくんには見せた方が早いかなって思ってね」
「どういう意味だ」
「オレのリンカネイトはな…」
安曇野は持っていたお茶のペットボトルを飲み干してから手で地面に投げつけた。
「お前、なにしてんだよ」
「よく見ろ」
「ん?」
ペットボトルはきれいに真っ二つになっていた。しかもその切れ口は真っ直ぐに切断されていてコップのようになってしまっている。
「な、ななな…」
「これがオレのリンカネイト・紙芝居。体の至る所を、硬度をそのままに紙状に変形できるのさ。応用次第では空も飛べるぜ」
「すごい能力だな…」
本当に他のリンカネイターもいたとは。
「そういえば関ケ原、お前のリンカネイトも見せてくれよ」
「ん、ああ」
紅い剣と蒼い盾。僕が一番気に入ってる組み合わせを出して見せた。
「おお、こりゃすげえな」
「素晴らしい…」
「でしょ? でしょ?」
無駄に盛り上がるもんだから調子に乗って他にも一通り、即席マジックショーを披露した。
「これならかなりの戦力になるんじゃないか?」
「ああ、戦闘向きだな…」
「でしょ? でしょ?」
「おい、何の話だ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
茜が被っていたハットの中から薔薇の花を取り出して言った。
「わたしたちリンカネイターには対抗勢力がいるんだよ」
「た、対抗勢力? 初耳だな…」
「革新軍・イノベイター…。新しい世界を作ろうとしている集団で、革新の為なら手段を選ばない要注意集団だ…」
「関ケ原、お前のリンカネイトはイノベイターを抑えるために役に立つんだ。協力してくれないか?」
「…協力しないと言ったら?」
「別にオレは引き留めないが、イノベイターは既に日本にも侵攻してきている。お前の日常は間違いなくあいつらにぶっ壊されるぞ」
「…少し考えさせてくれ」
まさかのアポイントメントセールス。すぐに答えが出せないまま17時になってしまった。答えは保留にして僕は帰宅した。
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汗を抑えながらもふらふら帰ると、飛鳥がリビングのソファに寝転んでテレビを見ていた。
「ただいまー」
「おかえりー、どうだった?」
「どうって、すごかったよ」
「すごいって何が?」
「実はな…」
いや、ここでむやみにリンカネイトの話を持ち出すべきではないな。
「駅前通りに新しいタイ焼き屋さんが出来てたから買ってきたんだよ。お前も食うか?」
「いるいる!」
なんとかごまかせたみたいだ。
「ん、なかなか美味しいじゃん。ヤマトも食べたの?」
「ああ、また買ってくるよ」
「うん、ありがとー」
なんて会話をしてたら17時半になっていた。
「やべっ、僕もう行ってくるぞ!」
「いってらー」
ひぐらしの鳴き声が一日の終わりを告げようとしている夏の交差点。相変わらずの渋滞で車の波が壁を作り、横断歩道を遮っている。隙間を縫ってなんとか向こう岸にたどり着いた僕は、脇目も振らず夕方の空を駆け抜けた。




