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手品で戦士で救世主  作者: 置きねこ
第1章 出会い
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第06話:転生者・リンカネイター

 なんでこんな本買ったんだ? なんでこんなDVD買ったんだ? 今になって激しく後悔する。とにかく詰められるものは全て目立たない場所に詰め込んだ。


「ゼエ…ゼエ……これなら大丈夫だろ…」

「何が大丈夫なの?」

「おう、茜か。実はな……ってうわああああ!」


 振り返ると白いノースリーブに黒いニーハイソックスを着こなしている茜と、その後ろで手を合わせて頭を下げている飛鳥がいた。なるほど、タイムアップですか。


「…実は何?」

「あーいやいや何でもないよ。ホントに何もないから」

「ふーん、そうなの?」

「ああ元気元気」

「ヤマト、私コーヒー作ってくるね」

「あ、おい待て飛鳥!」


 …逃げやがったあの野郎。


「気の利く妹さんね。ヤマトくんが部屋を片付けている間に少しお話ししたけどお人好しの優しい子よね」

「そうかな…?」

「そうだよ、お茶も3杯出されたし、お菓子もいっぱい持ってきてくれたよ」それは全てあなたが原因ですよ茜さん。

「まあ、家事も全部アイツに任せっきりだからな。でも毎日早起きして朝食と弁当作ってくれて、家に帰ってからは洗濯と夕食の準備もしてくれてるし、トイレと風呂の掃除は僕と日替わりだけど、ほかの場所は全部飛鳥がやってくれてるんだぜ。学校の成績表を見る限りじゃ勉強も運動も上出来だし、顔も広いし人望も厚い。食べ物の好き嫌いも無いし、話し上手聞き上手だ。悪いやつじゃねえよな」

「飛鳥ちゃんが大好きなんだね」

「んなこと言ってねえだろ!」

「もう、ヤマトくんったら照れ屋さんね☆」


 こいつ、わざわざ僕をからかいに来たのか?


「……それよりさ、雨の中わざわざウチに来たのはなんでだ?」

「こないだの続きなんだけどさ…」

「ああ、そういえば昨日、僕達と同じ特異な体質の人がどうとかって言ってたけど、そのことか?」

「うん、あの後その人達と話してたら、みんなヤマトくんに興味があるって言い始めたの」

「僕は近い将来、そこに連行されるわけですね」

「別に強制じゃないよ。ただヤマトくんにも興味があるかなって思ったから来ただけ」

「…じゃあほかの用は?」

「え? 特にないけど?」きっぱり言われると傷つくなあ。

「みんなが集まるのは基本的には安曇野あづみのくんって人の家」

「安曇野! 安曇野あづみの両哉りょうやか!」

「ヤマトくん知ってるの?」

「知ってるも何も同じクラスだよ」


 出席番号1番、安曇野両哉。よく絡むってわけでもないけど、特に変わった奴でも無かった気がする。


「そいつも… 何か能力が?」

「ヤマトくんやわたしみたいに能力を持ってる人のことなんだけど、わたしたちは『リンカネイター』、そう呼んでる」

「リンカネイター?」

「生まれ変わり・転生を意味する『リンカネイト』、つまり危機に直面し、転生した存在。それがリンカネイター」

「転生って、そんな大袈裟な。僕はただ熊と闘って… まさか!」

「わたしやみんなも同じ。本来ならこの場にいないかもしれないのよ、わたしたちは」

「でも、能力のおかげで無事に済んだ。転生者・リンカネイターってわけか…」

「そういうこと。少しは興味が湧いてきた?」

「ああ、安曇野からも少し話が聞きたいな」

「じゃあ乗ってくれるんだね」

「まあな」

「ありがとうヤマトくん!」


 最高級のスマイルで茜が抱きついてきたからさすがに気絶しそうになった。もしもし消費生活センターですか? そういえば小5の時にもこういうことがあったような。守りたいなこの笑顔、とか脳内ラビリンス疾走中だったその時。


「ヤマトー、コーヒーできたよー」


 よくもまあこのタイミングで入って来たものだ。このカットを見てどうとも思わない人なんていないだろうな。「ミスリーディングシチュエーション 対処法」で検索したいのは僕だけじゃないはず。


「あ、飛鳥ちゃん。角砂糖2つちょうだい」お前空気読めよ。

「はいどうぞ。ヤマトハブラックデイイヨネ?」怖い怖い怖い怖い。

「うん、ありがとう飛鳥…」

「お大事に」


 バタンとドアを閉めて飛鳥は階段を降りて行った。お大事にってなんだよ。目を覚ませってことか?


「飛鳥ちゃん、やっぱり気が利くね」お前は大事なことに気付いてない。


 雨音を聴きながらコーヒーを飲み干したら丁度よく雨が止んだ。


「じゃ、わたしそろそろ帰るね。安曇野くんの家のことはまた連絡するから」

「分かった。気をつけて帰れよ」


 もう少し話したかったと思いながらも引き留めることのできない僕。でも、この何十分かだけでも新たなる事実を知った。リンカネイター、その存在、安曇野両哉のことも。だけどそれは、冒険の時のわくわくや遠足の時のうきうきとは正反対の、「不安」という感情なしでは説明できないものだった。

 人は何かを知ることで常に上へ上へと進化してきた。けれども、その進化の背景には、失敗し、犠牲となった人々が無数に存在する。失敗を踏み越えて新たなる可能性へと向かってゆく真実。すなわち、「人」としての定義はこうだ。


「人は、人を知ることで自らを知り、自らを知ることで人を知る」


 雨上がりの昼下がり。僕は不安をかき消すために2杯目のコーヒーを求めた。

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