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手品で戦士で救世主  作者: 置きねこ
第3章 狂い
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第33話:僕が話せるだけの全て

 閉店時間になったメロンのシャッターが、僕と久々野を路地裏に投げ捨てた。全身の空気を抜くように溜め息を吐き、腰を下ろす。日光を拒む迷宮の地面がひやりと冷たい。


「おい」


 背後からはさらに冷たい声が聞こえてくる。なるべく聞きたくなかった、刃物をイメージさせるような鋭さが宿った声だ。


「な、なん、ですか、久々野、先輩」


 唇が震える。メロンにいたときはこんなに怖くなかったのに。


「いいか。メロンには二度と近づくな」


 暗く歪んだような、血が乾いたような色の乱れた髪の毛。その間から覗く眼は深く渦を巻いている。だがその渦は、こちらを吸い込むのではなく、眼の奥の何かを吐き出しているように思えた。


「近づくなって……今日からバイトとして」

「そんなことは分かってるよ。だから今日をもって辞めろって言ってんだ」

「は? どうして。どうしてだ」

「どうしてもだ! どうしてもこうしても仕方がないからだ! 関わった以上、お前にも火の粉が飛ぶだろうが! それでも今のうちに、被害が最小限で収まるうちに辞めろ! そう言ってんだ! お前は今まで革新軍の何を見てきた!」


 ――なんだ? どういう事だ?

 久々野の言葉が僕に向かっているのは確かだ。だけど、なぜ辞めろと言われているのか。それが分からない。何に関わったのかも分からない。被害についても分からない。今まで革新軍の何を見てきた――唐突すぎて分からない。

 久々野の吐いた言葉のすべてが分からなかった。


「唯は俺が守る。大丈夫だ。お前はもうこれ以上関わるな」


 この言葉に引っかかった。


「メロンに……何か起こるのか……?」

「…………」


 久々野が首を振り、目を伏せる。あの時と同じ表情でゆっくりと口を開く。


「引っ越しだ」

「引っ越し?」

「革新軍は明日からメロン――だったこの場所で活動する」

「…………!?」


 なんだよそれ。なんだよ、どういうことだよ。メロンは、淡路さんが祖母から継いだ店じゃないのか。

 それなのに、どうして革新軍が勝手にそこで活動するんだ。メロンはどうなる。バラエティー雑貨メロンはどうなるんだよ。頭おかしいんじゃないのか。


「そうだ」


 革新軍とは、アーカイブが敵に回してきた革新軍とはそういう組織だ。


「僕はこれでもアーカイブの一員なんだけど、そんな情報漏らして大丈夫なのか?」と、僕は気になって訊いた。

「もういいんだ。俺はもう革新軍じゃないからな。一人で生きていける年齢にもなった。革新軍に用はない」久々野は目を合わせようともせず、続けた。「それに、唯を悲しませることはさせない。させたくない。メロンだけは勘弁してくれと頼みこんでも聞きやしない。もううんざりなんだよ、俺は」


 もう一言二言考える目をしながらも、「唯には俺から言っておく。お前はもう二度とここに来るな」とだけ言って、久々野は立ち去った。

 狭い空だけを三十分ほど眺めて、僕もその場を立ち去った。


 ******


 窮屈で複雑な陰の迷路からようやく抜け出すと、途端に夕日が僕の両目を焦がす。人の波が荒れる交差点を見なかったことにして、駅前通りを抜けていると携帯電話が鳴り響く。

 慌てて取り出すと、安曇野からの電話だった。


「関ケ原、バイト終わったか?」

「ちょうど今ね」

「……何かあったか?」


 安曇野の表情、何か掴んだのか。


「ああ、メロンはやっぱり〝当たり〟だったよ」


 そうだ、当たりでいいんだ。


「そうか、やはりな」

「安曇野、お前も何か見つけたのか?」

「俺もかなりの魚を釣った。まずはメロンの事から聞こう」

「分かった」


 僕は、今日のメロンで起こった出来事を全て話した。ほんの少しの良い事と、溢れだした悪い事。僕が話せるだけの全てを。




「なるほど、久々野がそう言ってたんだな?」

「うん。どうやら革新軍とは考えが違っていたみたい」

「分かった。次は、オレの仕入れた情報だ」


 安曇野が仕入れた情報。それは、全てが事実ではないとしても、事実である可能性は高い。物事をよく知っているからこそ手に入れられる情報だ。


「聞かせて、すごい情報」

「久々野の言っていた事。そして、オレの仕入れた情報。両方が正しければ、この2つは完全に、あるひとつの事実を結んで一致する」

「……つまり?」

「メロンを別の施設へと工事する計画は以前からあったらしく、とあるひとつの財閥の管理下での計画らしい。いわゆる買収だ。そして、買収元の企業グループの名が、雲母グループだった」

「雲母グループ……!?」


 雲母グループ。もちろん知っている。この駅前通りを見渡せば、それはいくつも目に飛び込んでくる。現代の日本を支える大手の企業グループだ。

 そして、銘鐘学園生徒会役員会会長である雲母恋恋愛も、その流れを汲んでいる人物だ。


「ここからは、久々野の情報を踏まえてのオレの推察だが、雲母会長は革新軍のメンバーなのではないか?」


 雲母会長が革新軍のメンバー?

 いや、可能性はある。久々野が抜けた空白を埋める新メンバーには、リンカネイターであるほうが都合がいい。はっきりと確認してはいないが、雲母会長のあの能力は十中八九リンカネイトだ。

 いつから? いつから革新軍のメンバーだった? 僕が、今日の昼休みに声を掛けておけば。会長は、革新軍に協力することについて納得できていなかったのではないか。

 会長は、僕たちに何かを訴えかけるサインを送っていたのだろうか。


「深く考えるな。あくまでオレの考察だ。詳しいことは明日、学校で話そう」

「分かった」


 電話を切った瞬間に、手が震えはじめた。全身に鳥肌が立つ感覚がはっきりと伝わってくる。

 まだ震えているのか。

 僕は何をすればいい?


「答えは出ている。できるか、ヤマト」


 自問自答は声に出すことも無く、表情に出すことも無く、肯定でも否定でもなく、ただ曖昧で。夕日が沈んでいくことに、なぜか焦りを覚えた。

 もう遅いのか?

 まだ間に合う?


「違うだろ。可能か不可能か、じゃないだろ」


 拳を強く握りしめる。役立たずの拳だ。

 リンカネイトがなかったら何もできない拳だ。

 リンカネイトがあっても、久々野にはとどめを刺せず、店長にも一撃すら与えられず、雲母会長を引き留めることもできなかった。

 行動として残すのは、ただ震えることだけ。


「そんなことで、革新軍は倒せない」


 悪いな、久々野。

 メロンに行かなきゃ、何も始まらないんだ。

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