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手品で戦士で救世主  作者: 置きねこ
第3章 狂い
32/34

第32話:馬鹿正直なところも変わってない

 銘鐘商店街を抜けて、駅前を通り、信号待ちの人々で溢れ返る交差点の角へ。群衆の圧力に負けないようにしっかりと建つ進学塾のビルと、それに押されてひっそりと建つフラワーショップ。そのふたつの隙間の、人一人分ほどの小さい路地は迷路のようだった。右に左に、淡路さんの手書きの地図を見ながら奥に進むと、とうとう路地は突き当たり、聞いた通りの看板が頭上に姿を現した。


 「バラエティー雑貨 メロン」


 ガラスのドアから覗きこむと、淡路さんが商品棚の整理をしていた。どうやらここで間違いないようだ。僕の新しいバイト先。そして、革新軍の手掛かりが隠されている場所。

 僕は額の汗を拭ってドアを押し開けた。


「カランコロン」と金属のベルが鳴る。

「いらっしゃいませー! あ、ヤマトン!」

「どうも」


 淡路さんは足元の段ボールを棚の下に戻した。


「早かったね。迷わなかった?」

「少し迷いました。すごい場所にありますね」

「おばあちゃん、うるさい場所とか苦手だから。お客さんも最低限の人だけでいいとか言ってた」

「最低限……」


 大小様々な建物が点在する駅前通りが、複雑に入り組んだこの路地を作り出したのだろう。僕、無事に帰れるかな。


「そうですね。香焼書店に比べたら、こういう落ち着いた雰囲気の店の方が僕も好きです」

「へへ、わたしもー」


 香焼書店には無かったものがメロンにはあった。この場に来てこそ分かる雰囲気、まさに百聞は一見にしかずである。

 見渡せばキャラクターグッズや海外のお菓子、キラキラした文房具、パーティグッズにいたずら玩具、様々な物が棚に並んでいる。ガムのパチンのやつもある。見ているだけでも一日中暇をつぶせそうだ。


「ヤマトンのエプロン、このサイズでいいかな?」

「ちょっと着てみます」


 僕が淡路さんからエプロンを受け取ったとき、入口のベルが鳴る。


「あっ、いらっしゃいませー!」

「よお、関ケ原大和はいるか?」

「ヤマトン? いるけど?」

「あっ、僕ですけど……」

「久し振りだな、アホ面」


 入口まで来て目にした人物は、メロンを修羅場に変える存在だった。


「く……久々野久邦……!?」


 茜の情報の通りだ。久々野久邦がメロンに。

 しかも、淡路さんの態度から察するに、久々野はメロンの数少ない常連客なのだろう。


「……思ってたんだが、俺は2年だぜ? 先輩をつけろ、先輩を」

「え?」

「久々野先輩、ほら、繰り返す!」

「久々野……先輩?」

「なんで疑問形なんだよ」


 あれ? 久々野ってこんな奴だっけ?

 客として来てるからいつもの態度と違うのか?


「あれれ? ヤマトンとクグリンって知り合いだったんだ」


 クグリン……?


ゆいてめえ、いい加減その呼び方やめろ」

「いいでしょ、可愛いでしょ」


 唯……?


「あの、久々野先輩と淡路さんって、どんな関係?」

「わたしたちは従姉弟いとこで、幼なじみだよ。クグリンも昔はおとなしい子だったのさ」

「余計なこと言うな」


 この二人が従姉弟?

 血縁は裏切るのか、なるほど。


「それに比べてお前は、昔からなんでもできる奴だったよな」


 久々野が目を伏せて言う。


「わっはっは! わたしに出来ないことはないのだ!」

「馬鹿正直なところも変わってない」

「なに?」

「なんでもねえよ」


 仲が悪そうで、むしろ仲良しみたいだ。


「二人は〝ずっと一緒系〟なんですか?」と口が勝手に動いてしまった。

「はあ? なんだそれ?」

「えっと……二人は昔からずっと仲良くしてきたんですか?」

「仲良く……?」

「わたしとクグリンが?」


 二人は顔を見合わせて、一息、同時に腹を抱えて笑い始める。


「はははは、そんなわけねえだろ」

「そうだよ。わたしたち、相性最悪だよ」

「犬猿の仲ってやつ?」

「え……一応聞くけど、わたしが犬だよね……?」

「何言ってんだよ。俺が犬、お前が猿だよ」

「なんだとー!」


 ああ、どうやらこれは止められないな。鈍い僕が言いますけど、どう見てもあなたたち仲良しですよ。本当に相性最悪なら、言葉も交わさないと思うから。


「ヤマトン!」

「アホ面!」


 二人が同時に僕を睨みつけて叫ぶ。


「どっちが猿だと思う?!」

「いやあ、犬同士でもケンカはすると思いますよ」


 僕の意見は見事にスルーされ、その後30分以上、二人の論争は続いた。


 *******


 そうして、僕はアルバイトとしての仕事を何もしないまま、メロンは閉店時間になった。


「すみません、明日からはしっかり働きます」

「いやいや、悪いのはクグドンだよ」

「怪獣みたいに呼ぶな」

「悪いのはクルトンだよ」

「それはサイコロ状のパンだ」

「フルトンだよ」

「それは蒸気船を実用化したアメリカの技術者だ」

「ヒューストン」

「それはテキサス州南東部に位置する都市だ」

「クグリン」

「それは俺だ。いや、俺をそうやって呼ぶな!」


 やっぱり仲良し。

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