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手品で戦士で救世主  作者: 置きねこ
第2章 誓い
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第24話:戦いの目

 気が付けば、辺りに夜の帳が下りていた。姿の無いコウモリが、セミからバトンを受け取ってぱたぱたと鳴いている。電柱に貼られたビラが不気味に映り、その捻じ曲げられた空間に寒ささえ覚えた。


「悪いが、3人まとめて牢屋にぶち込んでやる」

「手伝うか、両哉?」

「一人じゃさすがに大変でしょ?」

「ああ、頼む」


 安曇野たち3人は、既に戦闘モードに入っていた。


「じゃあな、ヤマト」


 えっ?


「お前、家で妹が待ってんだろ? もう時間も遅いしな」

「だって……」

「大丈夫だって! 両哉と茜ちゃんがいるんだから! なあ?」

「まあな」

「ヤマトくん、今日はもう疲れてるでしょ? 家でゆっくり休んでていいよ」


 そうだな。たくさん汗かいたからシャワーでも浴びて……違う。違う違う違う。違うだろ。

 妹が待ってる? ああ、待ってるだろうさ。いつまでも。

 両哉と茜ちゃんがいる? 疲れてる? ゆっくり休んでていい?


「冗談じゃない」


 安曇野だって、久々野と戦って疲れてるんじゃないのか? 佐世保だってそうだ。

 そうなれば、まともに戦えるのは茜だけじゃないか。店長が手を出してこない保証もないのに。そうなったら、3対1。劣勢も劣勢だ。

 それなのに、僕の事だけ気遣って。それは嬉しい事なのかもしれない。

 でも、僕は、僕もアーカイブじゃないのか? そうだろ?


「なんだよ……」


 また守られてるじゃないか。また足がすくんで、怖気づいて、臆病風に吹かれて。

 このまま帰って、怒られて、美味しい晩御飯を食べて、ゲームして、マンガ読んで、宿題は後回しにして、夜食を食べて、寝て。それはそれは、楽しい1日だね。

 でも、その楽しさの犠牲に、大切なものを失ってしまったら。

 そうすれば僕は。また、あの時みたいに。


「なんでみんな、僕を置いて行くんだよ」


 飛鳥だって、そのうち家を出ていくに違いない。みんなと同じように。だけど……


「僕もアーカイブだよ。同じアーカイブなんだよ。そう決めたんだ。仲間を見捨てて帰るのはアーカイブじゃない。ただの馴れ合いだ。そうならない為に、みんなを守るためにアーカイブに入ったんだ。帰れるか」

「ヤマト、お前……」


 やっとだ。

 やっとこうしてみんなに本心をぶつけることが出来た。


「どうやら本心のようだね」


 店長が不気味に笑む。


「目で分かるよ。戦いの目をしている。尤も、その戦ってる敵は自分自身なんだろうけど」

「心を読むのはやめて下さい。いい気分じゃないです」

「読まれないようにすればいい。そこの安曇野君みたいにね」


 指差された安曇野は店長を睨みつける。


「上等だ、関ケ原。実は、お前をアーカイブに置いておくのはやめようと思っていたんだ」

「え……」

「正直、アーカイブには向いてないと。あのとき、久々野にとどめを刺さなかったのは、恐怖があったから。そうだろう?」


 そうだ。デッド・オア・アライブ――生死を問わないアーカイブのやり方に則れば、とどめを刺しておけば確実に捕らえられるのだから、そうすればいいに違いない。

 僕は無意識に寸止めをして、とどめを刺さなかった。それでも運よく久々野が気絶したからよかったけど、あれが逆に隙になっていたら、今頃どうなっていたか分からない。

 でも、あの寸止めは……


「……多分、恐怖だと思う」

「その恐怖を前に、今回も尻尾を巻いて家に帰ると、そう思っていたが、違ったな。逃げなかった」

「そうだよ。僕はもう、その僕とは違う」


 ありがとう。リンカネイト。


「おい、あんたら。いつまでごちゃごちゃ喋ってんのさ」


 長髪の女、湯布院と名乗る女が、唾を吐いてぐるりと首を回す。


「そろそろやるよ、常呂」

「分かりました」


 途端に、湯布院は水のように液状化し、こちらへ一直線に飛んでくる。


「リンカネイター……!!」

「私もですよ」


 手袋をはめた男、常呂は、一瞬で佐世保の背後に回り込んでいた。


「こいつ、いつの間に……!!」

「失礼」


 バキッという音とともに、常呂の拳が佐世保の懐を衝く。だが、佐世保は平気な顔で常呂を押しのける。


「ふーん、なかなか。36弱といったところか」


 なにかを計算する佐世保。


「36弱? なにをおっしゃられて……」

「お返しだ、常呂」


 今度は佐世保が拳を投げるが、常呂は瞬間移動するように回避。


「あなたは……」

「他人の力が俺の力になる。『棚から力持ち(ラッキーラック)』はそういうリンカネイトだ」


 沸騰する勢いで繰り出される湯布院の蹴りが茜を貫こうとするが、茜がハットを手に取るとピタッと脚を止めて一歩退く。


「あーあ、すごく電気を通しそうだったのになあ」


 残念そうにスタンガンを見る茜。


「アタシが不純だとでも言いたいのか」

「いや、神経の話なんだけど」


 茜がにっこり微笑む。悪気は……無くても一緒か。


「てめえ……」

「『放恣な帽子』(ハットトリック)、おひとついかがですか。湯布院さん」

「帽子を被る以前に、髪型かぶってんだよ馬鹿野郎。その色々被る頭、失くしてやんよ」


 一方、僕はといえば、


「当たってくださいよ、店長」

「嫌だよ」

「次、右腕斬るんで」

「そう思わせて左なんでしょ?」


 鮮緑の打刀(エメラルドブレード)の斬撃を全部読まれていた。

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