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手品で戦士で救世主  作者: 置きねこ
第1章 出会い
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第18話:僕たちが知らない何か

 安曇野あづみの両哉りょうやは物知りだ。

 僕が彼に投げかけた質問はすべて、しっかり答えとして返ってくる。


 ――――――――――――


「明日は晴れるかな?」

「明日は午前11時まで雲量5で晴天、それ以降は雲量1で快晴。午後2時から一時的に強い風が吹くので注意するように」

「はい」


 そこまで詳しくは聞いてないよ。


「バナナはおやつに入るのかな?」

「では、まずおやつの定義から述べなければならないな。おやつとは何か。オレの考えるおやつは朝食・昼食・夕食とは別の時間帯、特に昼食と夕食の間の軽い食事のことなのだが」

「うん」

「つまり、人間の活動が活発な時間帯で、かつ、不十分な量の昼食だとエネルギーが不足し、これを補うための食事がおやつ」

「うん」

「よって、エネルギー不足を解消できるおやつであれば、それはおやつであり、それが解消できないおやつである場合、それはおやつではない。そもそも、おやつと言えないおやつはおやつではない。昼食での栄養価の摂取バランスにも左右されるが、安定した栄養価を持つバナナであれば、おやつと言えるおやつとしてみなすことができるだろう。したがって、バナナはおやつと言え、おやつと言えるおやつに入るだろう」

「おやつがゲシュタルト崩壊してきたよ」


 ――――――――――――


 物知りというか、行き過ぎ博識評論家だ。

 だけど、久々野久邦のことだってそうだ。ペイを真っ先に発見し、警戒していたのは安曇野だった。

 僕が香春や大月たちに冗談を言ったときだってそうだ。僕のバイト先の店休日はおろか、聞いてもいない店長の名前や商品の種類や間取りをも事細かに述べて見せた。

 もしかすると安曇野は、まだ僕たちが知らない何かを隠しているのかもしれない。僕をやや強引に本部へ連れて行こうとしたのも、それが機密情報だからだと考えれば辻褄つじつまが合う。

 それに、さっきの例の暗号文らしきものも、安曇野が仕組んだものだという可能性がないとは言えない。

 だが、もし僕の考える通りあの暗号文を安曇野が仕組んでいたとしたら、何か別のメッセージが隠されているのではないか。


「佐世保、さっきの紙は?」

「ああ、これか」

「ちょっと見せてくれない?」


 何か別のメッセージが必ずあるはずなんだ。

 本部へと歩いていく2人の足音が、外に逃げ出すことが出来ずに地下道の壁を跳ね返っては響く。


「そういえばさ…」


 佐世保が前を向いたまま口を開く。


「何?」

「昨日さ、変な夢見たんだよ」


 佐世保の足は一定のスピードで道を開いていく。


「変な夢って、そりゃいつもの事なんじゃないの?」

「いつもの事ってなんだよ。いつもの夢は、もっとこう、俺の望んでいるままの夢なんだ。パフェ食べる夢とか、水族館に行く夢とか、茜ちゃんとデートする夢とか…」

「で、デート…!?」

「だけど、昨日見た夢はそういうのじゃないんだ」


 佐世保がぴたっと、急に足を止める。


「じゃあ、どういう夢なの?」

「囲碁をする夢だ」

「囲碁……!!」


 思い出したぞ。僕が引っ掛かっていた、忘れていたこと。そうだ、囲碁だ。真っ白の部屋の中心に、ぽつんと碁盤と僕がいたあの夢。じっと碁盤の目を見つめていたのを思い出す。


「ん? 碁盤の目…?」


 僕はもう一度紙を見る。


 シアワセノコトバノ

 ツヅキヲウタウ

 カミヤアクマヤ

 ソノフシギガ

 カリニイダイナ

 ショウライノユメナラ

 モウサガスノハヤメテ

 イヤシダケヲモトメヨ


「これはまさか…!!」

「どうした? ヤマト?」


 まさか、いや、もしそうだとして、そんなことが…


「…頭を使わなくても解ける。これはそのままの意味なんじゃないかな」

「ほら鉛筆」


 頭、そうアタマ。そのままだった。


「まず、こうやって『アタマ』を消す」


 シ ワセノコトバノ

 ツヅキヲウ ウ

 カミヤ ク ヤ

 ソノフシギガ

 カリニイダイナ

 ショウライノユメナラ

 モウサガスノハヤメテ

 イヤシダケヲモトメヨ


「次に、空白の部分を左詰めにする」


 シワセノコトバノ

 ツヅキヲウウ

 カミヤクヤ

 ソノフシギガ

 カリニイダイナ

 ショウライノユメナラ

 モウサガスノハヤメテ

 イヤシダケヲモトメヨ


「そして、佐世保が見たっていう夢なんだけど、実は僕も見たんだ。同じような夢を」

「えっ、あの白い部屋も?」

「うん、やっぱりまったく同じだ。それで、多分、その夢の中の部屋の中心に碁盤が置いてあったよね」

「ああ、俺も同じだ」

「囲碁、つまり『1』と『5』。一行目にはアヅミノリョウヤが出てきた。でも、夢の中じゃ碁石は無かったよね」

「言われてみれば、碁盤しか無かったな。なぜだ?」

「僕たちが本当に見ていたのは碁盤の目、つまり『5番目』にこそ、真実が隠されているんじゃないか。そう思って見ると、案の定、人の名前が浮かび上がって来たよ」


 シワセノ コ トバノ

 ツヅキヲ ウ ウ

 カミヤク ヤ

 ソノフシ ギ ガ

 カリニイ ダ イナ

 ショウラ イ ノユメナラ

 モウサガ ス ノハヤメテ

 イヤシダ ケ ヲモトメヨ


「なっ……!! 香焼大介……!!」

「佐世保も知ってるよね。僕のバイト先の店長。この前、安曇野が僕のバイト先の事を、なんでこんなに細かく調べているんだろうって思ったけど、これが理由なら…」

「…説明がつくな」


 一体なぜ店長の名前が? なぜ安曇野はマークしていた? なぜこんな暗号文を? 僕と佐世保が見た夢って?

 挙げればキリがないほどの疑問のせいで頭が重い。

 でも、そんなことは気にしなくていい。だって、僕の仲間には、なんでも知ってる物知り博士がいるのだから。


「とりあえず両哉に話を聞かねえとな。いくぞヤマト!」

「ああ!」

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