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手品で戦士で救世主  作者: 置きねこ
第1章 出会い
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第11話:もう誰も傷つけない

 もしもしこちら午後5時の駅前通り。行列のできるタイ焼き屋にテンション高い高校生組がやってきました。男性3人女性3人、でも、なぜかそのうち一人はすごくつらい顔をしています。そうです、僕です。


「んん、なかなかうまいな」

「ホント、おいしー」

「ね、美味しいでしょ」


 楽しそうですねあなたたち。まあ確かに僕の妹が認めるくらいには美味しいのだ。テンションが上がっても仕方ないか。


「ほらほら関ケ原も食べなよ」

「あ、ああ…」


 昨日も食べたんだけどなぁこのタイ焼き、って…


「うわ辛っ! おい水っ!」

「ふふ、もうギブアップかな?」

「ギブアップもクソもあるか!」

「あ、勘違いしないでね。それも里美の仕業だから」

「がはっ、おい大月! お前のそのお茶飲ませろ!」

「はいどうぞー」


 …死ぬかと思った。


「……僕に恨みでもあるのか?」


 すると大月と佐世保が困った顔をして言った。


「もー、関ケ原君ったらさっきから全然楽しそうな表情見せないんだからー」

「そうだぜヤマト。せっかくみんなで来たんだからもっと楽しめよな」


 …なんだこの感覚。

 続けて安曇野と香春が笑いながら言った。


「お前はいじりやすいんだよ関ケ原」

「アンタのツッコみのセンスだけはアタシが認めてやるからね」


 …なんだこの感覚。

 さらに茜が手を握って言ってくれた。


「ヤマトくん元気出してよ!」


 …なんだこの感覚。僕はどうしてつらかったんだろうか。僕はみんなの気持ちを踏みにじっていたような台無しにしていたようなひどく罪悪感にまみれた感情がひとえに悔しくなった。


「…ごめん、いや、ありがとうみんな。だから普通のタイ焼きをくれないか」


 僕はタイ焼きを受け取った。

 でも、このタイ焼きは違う。昨日食べたタイ焼きじゃない。大きさとか味とかそんなのじゃなくて、何かこう根本的に違う。言葉では言い表せない形にできない抽象的で曖昧な、さっき感じていたこの感覚だ。

 だけどそれは不快な感覚じゃない。身体が拒むことをしない。分からないことに恐怖を覚えない。むしろ心が歓迎しているのが奇妙で、それがまた心地よい。そんな感覚だ。


 すべてがそうだった――


 僕はみんなに振り回されていた日常のなかで、気が付けば中心でみんなを振り回していた事実にようやく気が付いた。今まで自分中心の考え方なんてしたことが無かった。いつだって客観的に、第三者の目で状況を平らに均して有耶無耶にする平和主義を通していたつもりでしかなかったのだ。

 そんな無責任な生き方のせいで優劣を無視して、決断力を欠いて、そのたび何度も後悔して、挙句の果てに被害妄想に浸っていた。


 馬鹿みたいだ――


 一番に何もかもを傷つけていたのは僕自身だったのだ。そして僕自身が僕自身をも傷つけ、その都度周りを傷つけ、傷を癒すために傍観者に立ち回って。


 僕は最低じゃないか――


 それに気が付いたとき、今までの言動がいかに残酷で無慈悲だったかを悟った。もはや何をどう謝罪していいかも分からないくらいに、僕の言葉は軽いものほど埋もれていた。


「美味しい、美味しいよこれ…」


 涙がこぼれた。味覚を通して伝わってくる仲間の温かさと、愚かだった自分に気付けなかった自分が、僕の目から流れ落ちてアスファルトを染めた。


「そっか、良かった」


 思いやり溢れる茜も、何かと背中を押してくれる佐世保も、馬鹿正直な香春も、しっかり者の大月も、物知りの安曇野も、ただそう言ってくれた。それだけで十分だった。


 ******


 僕は未だにリンカネイターとしてはっきりとした自覚がなかった。革新軍のことも別の次元だとしか思えなかった。だから今日もこうして、何も言わずに家に帰ってきた。


「ごちそうさま」


 今までみんなに散々迷惑をかけてきて、勝手な都合で振り回して、大事な場面で盾にして、そんな自分から転生したかった僕が、何度も何度も願ったのはただひとつ。


 もう誰も傷つけない。誰も傷つけさせない。そんな僕になりたい。


 仲間を守って大切にしていくことが、神が下した僕の転生の条件だ。

 だったら、僕はそれを実行しないといけない。いや、実行したいんだ。守りたいんだ。今まで僕を守ってくれた仲間に、僕のできることはそれくらいだ。それでも大切な仲間の助けになるなら、救いになるなら、僕は守るために戦う。そう決めたんだ。


「あ、ああ……いいんじゃないか?」

「なんだ、僕と同じだ…」

「はいはい」

「べ、別に、ただの友達だけどな」

「と、とぼけるなよ。目が覚めたら勝手に開いてたんだぞ。他に誰がいるんだ」

「え、だって外は大雨だよ。それになんで僕の家に…」

「あーいやいや何でもないよ。ホントに何もないから」

「そうかな…?」

「………それよりさ、雨の中わざわざウチに来たのはなんでだ?」

「…じゃあほかの用は?」

「違うよ。何を期待してるんだお前は」

「そうそう、これをみんなに食べて欲しくてね…」

「…協力しないと言ったら?」

「駅前通りに新しいタイ焼き屋さんが出来てたから買ってきたんだよ。お前も食うか?」

「うわ店長、なんでもないですよ別に」

「すみません、妹が荒れてました。早く帰らないと」

「…そうか、ごめんな飛鳥」

「ああ、馬鹿には丁度いい褒め言葉さ」

「なんでだよ、面倒だから嫌だ」

「ちょっと待て。なんで僕まで…」

「え、いや別にどうも思わないけど…」

「な、なんでもないよ…」

「いや、僕は今日バイトだから…」

「ちっ、これ以上隠しても仕方ないな。そうだよ、今日僕はバイトの予定なんて無い」

「ちょ、ちょっと待て! 嘘じゃない、冗談だ!」

「ち、誓う! 誓うから水をくれ」

「がはっ、おい大月! お前のそのお茶飲ませろ!」

「……僕に恨みでもあるのか?」


 今までの僕の苦言が何度も頭の中をかき乱す。こんなに痛々しい言葉を僕は平気で放っていたのか。これ以上誰かを傷つけるような言葉は言いたくない。だから僕は仲間を守れるリンカネイターになる。


 僕はこの夜、自分のリンカネイトに初めて名前を付けた。

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