第01話:普通だとは言えない僕
「………ヤマト君聞いてる?」
いつも通り無表情な店長が本を片手に問いかけてくる。
「え? あ、はい聞いてますけど…」
「じゃあ、僕が最後になんて言ったか覚えてる?」
なんか疑われてるんですが。
「ええっと、ま、万引きとかってダメですよねえ…」
僕は僕で何言ってんの?
「あれ? ちゃんと聞いてたんだ?」
あれ? 本当にそう言ったんだ?
「ええ、そりゃそうですよ…」
「…ふーん、まあいいや」いいのかよ。
「じゃ、ヤマト君。今日のバイトは終わり。さっきも言ったように車に気をつけなよ」
さっきと言ってること違いますよ、店長。
「お疲れでーす」
「お疲れ様ー」
「お疲れさーん」
ほかのバイト仲間に見送られて僕は自動ドアをまたぐ。
「あ、ヤマト君」
もう少しのところで店長に呼び止められた。
「なんですか店長?」
「売り上げの計算がまだだよ」
「あんたの仕事だろうが!」
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なんだかんだで店長の仕事を手伝わされていつもより帰るのが遅れてしまった。もともと読書が趣味で家の近くということもあって選んだバイト先なのだが、どうも変な人が多い(特に店長)。そういう僕も普通だとは言えないんだけど。
僕の言う「バイト先の変な人」というのは、性格上ひねくれている人や異常な性癖を持った人たちのことを指しているのだが、「普通だとは言えない僕」というのはそこには属さない。
では、僕のどこが普通だとは言えないのかといえば、右手から武器が出る。
………は?
大丈夫、それで正しい。その反応で正しい。ついでに言うと左手からは防具が出る。何故かは自分でも分からない。ただ思い浮かべた武器防具が手元に現れるものだから、将来は手品師になろうかと思ってる。
ちなみに、この手品も生まれつき産声が連れてきたものではない。
それは去年の夏、家族でキャンプに行ったときのことである。暇だった僕は、素手とサンダルで草木をかき分けてのしのしと森の中を散策して回っていた。5分ぐらいして、カラフルなキノコたちに睨みつけられているかのようなアウェー感に襲われていたとき、妙なことに気が付いた。
「足音が2つ」
原因はすぐに分かった。僕の後ろに真っ黒で息の荒い森のくまさんがいるではないか。
「ぐるるるるる…」
無駄にリアルな鳴き声を腹の底からストリーミング再生する兄貴。死んだふりをすればいいとかよくないとかそんな話を聞いたことはあったものの、いざ兄貴を目の前にしてみればできるかそんなこと!
焦る僕を知ってか知らずか雲に届きそうな勢いで腕を振り上げる兄貴。「もうダメだ…!」とかベターなワードが頭をよぎったその時、心地よい金属音とともに頭をかばっていた左手に重みがのしかかる。
「な、なんだ…?」
ゆっくりと目を開けると、兄貴を目前に萎縮し固まった左手がしっかりとそれを握っていた。
「なんだこれ、盾…?」
これが最初のファースト手品だった。