第6話 ああ、愛しのマイホ――むぅ?
3/18 勢いで始めたこの物語ですが、いつの間にか多くの方に見ていただけているようで感謝感激です!
ご意見ご感想ご指摘は、私の大きな活力となっています!
拙い作品ですが、これからもよろしくお願いします。
~第6話 ああ、愛しのマイホ――むぅ? ~
「美味い。……だが、少し物足りないな」
俺はクリスタルの間でリーンの実にかぶりつきながら独り言を呟いた。
サービス開始二日目、今は《アンノーン》内で朝食の真っ最中だ。
リーンの実は、やはりリンゴのような味で美味しかった。だが大きさに反してそれほど腹には溜まらないようだった。
パンと一緒に食べてしまいたかったが、パンはもう手に入りそうにないので残しておく。
仕方がないので昨日拾った『薬草』を口に入れてみる。
「ぐっ……苦い」
HPポーションよりも、断然苦い。先にリーンの実を食べてしまったのを後悔した、これなら交互に食べて味を紛らわすべきだった。
『つーか口に入れないで握って使えよ』と思われるかもしれないが、どうやらそのやり方では『外傷に薬草を当てて回復する』という扱いになるようで、空腹値に+されないのだ。面倒で美味しくなくても口から摂取する必要がある。
「ッ――ふぅ」
なんとか薬草4つを飲み込んで、ステータスを確認する。
【空腹値:58 状態:MP回復+】
「これならとりあえず夜まで――ん、【MP回復+】?」
いつの間にか、先ほどまでは無かった状態になっていた。
(食事の影響なのは間違いない。ということは、リーンの実の効果か?)
それしか思いつかなかった。どうやらこの実には、食べた者のMP自然回復量を増やす働きがあるようだ。思ったりよ空腹値が+されなかった理由はこれなのだろう。
正直今の俺には無用の長物だが、そういう効果がある食材があるのを知れただけでも良かった。きっとアルカディアにはSP回復効果があるものも存在するのだろう。これは報告することが増えたな。
「さて、ではまた気合を入れて探索してきますか」
――パシュッ ――パシュッ
――スカッ ――バシッ
「命中」
すかさず落ちてくるリーンの実をキャッチする。
探索開始といっても、とりあえず食料確保が優先のため、まずは昨日のリーンの木の元まできていた。
昨日の練習の成果もあって、矢は2,3発に一回は命中するようになっていた。
それでも止まってる的に百発百中で当てられるようにならなけりゃ、戦闘では使えそうにない。
「よし、これで六個目――っと、矢がダメになったか……まずいな」
矢は回収すれば何度でも使えるのだが、刺さった衝撃で折れたりやじりが曲がったりすると使えなくなる。そんなことに気づかず昨日練習しすぎたせいもあって、最初50本あった矢は今では半分以下に数を減らし、もう20本ちょっとしか残っていない。
矢が無くなってしまうということは、現在生命線となっているリーンの実が取れなくなってしまうことを意味している。そうなれば、何か別の食料を見つけなければならないのだが――
「――いや? 矢ぐらいなら作れるんじゃないか?」
確か生産アビリティに、《クラフト》というものがあったはずだ。《クラフト》とは、木材や金属、動物の皮などの材料に加工を施し、手作りの工芸品などを作り出すアビリティだ。専用の工具は無いが、木を削るには丁度よさそうな『ダガー』がある。それなりの大きさの木材さえ手に入れば、矢の生産も可能ではないだろうか?
材料確保も問題ないだろう。なぜなら大猪が薙ぎ倒した木が、あちこちにあるからだからだ。重量があったのでインベントリには入れていなかったが、回収してみることにしよう。
――食材を確保した俺は、今度こそ探索エリアを広げることにした。向かう先は、比較的木々が深くない大樹の『西側』に決定。見通しがよければいつでも大樹の姿を確認することができるので、迷う心配がないし、敵の発見もしやすい。だがそれは同時に自分も敵に見つかりやすいということなので、《忍び足》と《鷹の目》で用心しながらも進んでいく。
――しばらく歩き続けると、治癒草に続いて、今度は滋養草の群生地を見つけることが出来た。SP回復関係は俺にとって重要なので、さっそく採取を始める。
「……お? これは滋養草の上位版か?」
するとその中で、『強壮草』という草を見つけた。インベントリに入れて効果を確認する。
【強壮草:SP回復+60】
思った通りだ。
(……これは《調合》してSPハイポーションを作りたいな。SPに余裕があれば《ダッシュ》で探索範囲も広げることができるはずだ。 ……いや、ポーション作成には『調合キッド』が必要なんだっけ? まぁそれは後で調べてみることにして――)
――ヒゥゥ――
「ん?」
風を切る音……上から?
――ヒュゥゥゥウウウ
「――《ステップ》」
バッ ――シュザンッ!!
「ッ!?」
間一髪だった、振り返ると直前まで自分がいた地面が、大きく抉られていた。
俺は自分の第六感に感謝した。
「何が起きた? 攻撃? 一体どこから」
確か、一瞬大きな影のようなものが見えた気がし――
――ビゥゥゥウウウ
「ッ!」
今度は背後から風を切る音。
再び《ステップ》で右方向へ、前転するように回避行動を行う。
――シュザン!
そして今度ははっきりと見えた。さっきと同じように、俺のいた場所を巨大な爪で抉る者の姿を。
「――大鷲!?」
『クェェエエエッ!』
俺の声に反応するように、もしくは獲物を逃がして悔しがるように、翼を広げた状態ならば4メートルは超えるであろう、ありえないほどでかい大鷲が鳴いた。
【??? Lv??】
そしてやはり名前は見えない。コイツも格上のモンスターなのだろう。
まさか空にも敵がいるとは……。 まぁどちらにしろ、俺の取れる対策は一つだ。
「三十六計逃げるにしかず」
《ダッシュ》を発動、木の間を縫うようにして逃走を開始する。
俺も伊達にこのフィールドで生き残っちゃいない。
今では《ダッシュ》、《ステップ》、《持久力》のレベルもそこそこ上がり、大猪からも余裕とまではいかないが、安定して逃げられるようになっていた。今回も地形を上手く利用すれば逃げられる。
――とでも思っていたか?
「ああ思ってたよ、こんちきしょうッ!」
俺は八つ当たりするように叫んだ。
逃走は、難航していた。理由は三つある。
一つ目、大鷲のスピードが大猪よりも格段に早かったこと。
二つ目、あの巨体にも関わらず大鷲は木々の間を器用に飛び回ることができるので、隠れて逃げることができなかったこと。
そして三つ目、――こいつ、恐ろしく頭がいいのだ。
「チッ! またか」
俺は何度目かになる舌打ちをした。
進行方向の先には、大鷲が待ち構えている。
――こいつは俺が逃げに徹したと見るや、自慢のスピードを生かして先回りし、待ち伏せするようになった。初めてその待ち伏せを受けた時、反応するのが遅れ、《ステップ》を発動させるも間に合わず、肩を浅く裂くことになった。
……かすっただけなのに、HPが半分以下に減った。直撃すればきっと『即死』だ
「どうする? どうすればあいつから逃げることができる……?」
必死に打開策を探す。が、相手は待ってくれない。
羽ばたきながら、じりじりと距離を詰めてくる。
「くそッ!」
とりあえず俺は数歩離れて距離をとる。
……さっきからずっとこの一進一退を繰り返しだ、フェイクをかけて逃げようとしても、かかってくれない。
(――こいつは俺が逃げたい方向を、良く分かっているんだ)
そしてがむしゃらに攻撃してこず、隙なく虎視眈々と俺の《SP》が切れるのを待っている。
(――こいつは俺が長くは持たないのを、見抜いているんだ)
本当に頭がいい。というか、『狩り』というものをわかっていやがる。
狩られる側の絶望感を肌で感じ、嫌な汗が流れる。
(……こいつに下手な小細工は通用しない。そしてこのままではジリ貧確定。 なら――)
俺も、覚悟を決めた。
(持てる力の全てをもって、押し通るしかない!)
「いくぞッ!」
自身に気合を入れるように叫んで、俺は大鷲に突進した。
――その間にインベントリを開き、右手に『滋養草』を、左手に『治癒草』をつかみ出す。
『クェェェエエエッ!』
俺の挑戦を受けて立つかのように、大鷲も大きく一声鳴きし、向かってきた!
そして鋭い爪が、俺を引き裂こうと大きく開かれる!
「《ステップ》! で、もういっちょ《ステップ》ッ!」
それに対して俺は、左へ、前へと二段階の《ステップ》を使って回避する。
そして《ダッシュ》発動、がむしゃらに大樹を目指す。
――ビュォォオオッ!
「ッ! 《ステップ》!
後ろからの不吉な風切り音に、今度は右前方に跳んで回避する。
――が、その行動も予測されていたのだろうか、完全に回避することは出来ず、また浅く背中を裂くことになった。
HPが再び5割以下になる。
「『治癒草』!」
だが、すかさず左手を強く握り、『治癒草』を使用!
レベルの低い俺にとっては+60でもたいした回復量であり、《HP》は8割まで持ち直した。これでまた一撃かすっても耐えられる。
『クエエエエッ!』
そして再び前方に立ち塞がった大鷲からの攻撃。
同じように二段ステップを使って回避――と見せかけてフェイクを織り交ぜた三段階ステップ!
左、右、右前方!
――このフェイクは鮮やかに決まった! 大鷲の爪は、俺から大きく離れたところで空を切る!
と、ここで無茶な回避運動から《SP》の残量が危険域に。
「『滋養草』!」
三度目のステップの着地と同時に、今度は右手を握って『滋養草』を使用。
《ダッシュ》を切らす事無く木々の間を駆け抜ける。
さらにインベントリを開き、再び二種類の草を掴み直す。
(俺が大樹まで逃げ込むのが先か、どちらかの草が無くなって死ぬかのが先か、まともに一撃くらって即死するのが先か、勝負といこうじゃないか!)
生きるか死ぬかの、デスレースが始まった。
**********
「――はぁ、はぁ、はぁ」
そしてその結果、俺は辛くも生を掴み取ることに成功したのだった。
「こんなのもう二度とゴメンだぞ……」
俺は大樹の上を、獲物を取り逃がして口惜しそうに旋回する大鷲を見上げながら、憎憎しく呟いた。
実際限界に近かった。治癒草にはまだ余裕があったが、滋養草は全て使い切ったし、最後の手段の強壮草も収穫したのは3つしかなく、ガス欠寸前だった。
それにいつ即死していてもおかしくなかった。瀕死になりかけたのは一度や二度ではない。大鷲の爪が身体をかすめる度に、寿命が縮む思いをした。
(……まぁともかくだ、俺は生き残った、危機は去ったッ)
とりあえずおとなしく休もう。まだ日は落ちてないが、もう今日は探索を続ける気力はなかった。
「……ああただいま、俺の愛しのマイホーム(?)よ」
俺は大樹の太い根に触れながら声を掛ける。
……どうやら自分は死線を越えて、だいぶおかしなテンションになっているらしい。だがあれだけのことがあった後なのだ、許してほしい。
とりあえずこの頭を落ち着かせるためにも、さっさか大樹の中に入って休むとしよう。
中に入るとすぐに、クリスタルが放つ淡い蒼の光が、優しく俺を包んでくれた。
「やはりこの場所は落ち着く。疲れきった俺の心を癒し、安心させてくれ――
――――る?」
おや? なんだこれは?
どうやら俺の疲労は想像以上のものだったらしい。
いやー、これは参ったなー、幻覚が見えるなんて。
HAHAHA。
ゴシゴシ。
「………………うん。」
ゴシゴシゴシ。
「……………うん?」
あれ? 幻覚が消えないんだが?
というより、よりハッキリ見えるようになっているのだが?
――もしかして、幻覚じゃない?
「……どちらさまで?」
クリスタルの前に、いっちにーいっちにーといった感じで体操をしている、見かけぬ少女の背中があった。