第5話 生命線の《アビリティ》
ここから本格的にアビリティを駆使していくことになります。
~ 第5話 生命線の《アビリティ》 ~
決意も新たにしたところだが、俺は一旦ログアウトすることにした。
夜は行動できないし、生き抜くためにも情報と飯が必要だ。
今の時刻は午後5時ごろ。俺は、飯を食べながら《アンノーン》攻略サイトの《アビリティ》についての調べていた。
因みに食べているのはペペロンチーノだ。鷹の爪のピリ辛さと、ニンニク香りと旨みが食欲を誘う、なかなかの仕上がりになった。
「なるほど。《上位アビリティ》とやらもあるのか」
攻略サイトには、《アビリティ》レベルが成長すると、その上の性能の《上位アビリティ》が現れると書いてあった。それを見越してのアビリティ設定例も書かれていた。といってもまだその情報は少ない、正式サービス開始となってアビリティ数も増えたため、どのアビリティがどのように成長するかはまだ未知数らしい。
「……といっても今の俺には関係がないか」
今俺に必要なのは「戦闘力」ではなく「生存力」であって、残念ながら参考になるような情報は少なかった。
そうして腹ごしらえと情報整理を済ませた俺は、再び《アンノーン》へログインした。
「……だがまさか、こっちでも食事をすることになるとはな」
ついさっき飯を食べたばかりなのに、ログインした俺の胃袋は食べ物を欲していた。しかたがないのでインベントリからパンを1つ取り出して、今もしゃもしゃと食べている。この世界ではちゃんと空腹値というのが設定されているらしく、空腹値が20%を切り始めると、自然回復量が減ったり、いろいろデメリットが現れ、最終的には餓死してしまうらしい。それだけはゴメンだ。そしてその空腹はクリスタルの力を借りてもまかなうことは出来なかった。
ちなみにパンの味は……パンだ。普通にパンだ。物足りない感じのする普通のパンだ。
(ジャムかなにか欲しいな……なんとかして作れないものか)
そんなことを考えながらも俺はジッとアビリティ選択ウインドウと向き合っていた。
そして長考の末、
《忍び足Lv1》
《鷹の目Lv1》
《目星Lv1》
《採取Lv1》
《持久力Lv1》
を新たに取得した。
どれもハンターに適正があるものだが、死にスキル、弱スキルと言われているものが多い。
しかし、《鷹の目》があれば探索にも便利だし、敵にもいち早く気づける。
《忍び足》があれば敵に見つかる辛くなるはずだ。
たとえ見つかったとしても、スタミナの消費を抑える《持久力》があればここまで逃げ込めるだろう。
そして《目星》と《採取》、《目星》はトラップやアイテムなどを見つけるのに役立つそうだ。そして《採取》は採取量やレア度にプラス補正が掛かるらしい。食料確保に不安がある今、この二つが役立つはず。
ステータスを確認する。
**********
ネーム:【ユウ】
クラス:【ハンターLv5】
セットアビリティ
《短剣術Lv6》
《弓術Lv2》
《ダッシュLv8》
《ステップLv10》
《忍び足Lv1》
《鷹の目Lv1》
《目星Lv1》
《採取Lv1》
《持久力Lv1》
残りAP=3
空腹値:60 状態:健康
**********
嫌になるほど使っていた《ダッシュ》と《ステップ》の伸びが凄い。それといつの間にかハンターレベルも1つ上がっている。アビリティレベルが上がるとクラスにも経験地が入るのだろうか。
とりあえずこれで準備はオッケー、あとはチャレンジするだけだ。
俺は覚悟を決め、外へと踏み出した。
「――おお」
大樹から抜け出た俺は、思わず感嘆の声を上げた。
大樹がある位置は小高い丘の一番上にある。ここに来たときは暗くなり始めていたので良くわからなかったが、日が昇り出した今、まわりの森がよく見渡せた。
そこは楽園といわれるだけあって、朝焼けが魅せる森林は、中々幻想的で美しい光景だった。
それと、見渡せる視野がやや広くなっているように感じた。《鷹の目》の効果だろう、Lvが上がればここからでももっと先を見渡せるかもしれない。
とりあえずまだ比較的安全な、大樹の周囲から探索を開始することにした。
――しばらく《忍び足》で探索していると、道具屋で見たのと似た草を見つけた。
「これは、『薬草』か?」
とりあえず摘み取ってじっと目を凝らすと、プレーヤーやモンスターの名前が見えるようになるのと同じ原理で、『治癒草』というネームが現れた。
(ん? 『治癒草』?)
インベントリに入れて説明文を読んでみる。効果を見て驚いた。
【治癒草:HP回復+60】
薬草の回復量が確か20で、ポーションが50だ、この草はそれ以上の効果があるという。
見渡してみると、採取できそうな物が近くにいくつもある。どうやらここは治癒草の群生地のようだ。
いや、これは《目星》の効果か?
「とにかくこれはラッキーだな」
HP回復がメインでも、口に入れれば空腹の足しになるだろう。俺はこれ幸いと治癒草を摘みまくった。
――そしてまたしばらく探索を続けた時のことだ、俺は果実の実る木を見つけた。しかも一つ一つがなかなかに大きい。これが手に入れば食料問題は解決しそうなのだが。
「……とどかないよな」
そう、かなり高い位置にあって、どうやっても手がとどきそうにない。
よじ登って取る事も出来るだろうが、実をつけている枝はそれほど太くない、俺の体重がかかれば折れてしまうだろう。別に折って回収してもいいが、それは最後の手段にしたい。なぜなら実や草などの自然アイテムは、時間とともにまた生えるらしい、だから枝を折ったりしたり木にダメージを与えることをしてしまうと、それを阻害してしまう。安定して回収するためには、枝を折らずに実を採る必要がある。
「ん~~。……あっ、もしかしたら、《弓》で落とせるんじゃないか?」
すっかり忘れていた【ハンターボウ】を装備して、木の矢でよーく狙いを定める。
“パシュッ!”
――スカッ
「……いきなり当たるとは思ってないさ」
それから2射、3射、4射……と矢を放つ、がなかなか当たらない。
もはや意地になって撃ちまくった。
そして12射目。
――ガシュッ
「命中!」
そして狙い通り、矢の刺さった衝撃で果実は落下を始めた。
落として痛めてしまってはいけないと、俺は《ダッシュ》で木の下まで駆け寄って実をキャッチする。
「――っと、なかなか重いな」
手に入れた果実は赤くて丸くて直径20cmほどの大きさをしていた。
大きなリンゴのようなそれは、『リーンの実』というらしい。
狙い通りにいったことに満足した俺は、他の実を回収するのはとりあえず後にして、外した矢を回収し、探索に戻ることにした。
――それからもいろんなものを発見した。インベントリに空きもあるし、何に役立つかもわからないのでも、拾える物はとにかくなんでも詰めた。
因みに割愛しているが、それでも10回ほど、昨日の大猪やオオトカゲや大兎やよくわからないモンスターに追い回され死ぬ思いをしている。この辺に生息しているモンスターは、全体的に大きくて早くて厄介だ。
……まぁセーフティエリアがあるし、《持久力》のおかげでだいぶ楽に逃げられるようになったがな。
――っと、まずい、そろそろ辺りが暗くなってきたな。