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≠ Unknown World Online  作者: 02
楽園という名の監獄へ
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第4話 決意

 ~ 第4話 決意 ~



 月が顔を出して、自由に起き上がれるようになった後、俺は何かないかと大樹の周辺を探っていた。

 するとすぐに人一人分が余裕で入れそうな大きな穴があるのを発見した。

 恐る恐るながらも、その穴を潜って進んでいく。


「……なんだこりゃ」


 そしたらなんと、小さな体育館ぐらいはありそうな空間に突き当たった。


「……そして明るい」


 外の月明かりよりも明るかった。光源はすぐ分かった、中央に堂々と存在する、高さ3メートルほどの巨大な蒼色のクリスタルからだ。惹きつけられるように、俺はクリスタルの傍まで歩みを進める。

 さらにそのクリスタルの下からは、水が湧き出ているらしく、透き通るような綺麗な泉を作っていた。

 その泉に触れ、水を手に少し汲んで口に運んでみる。

 ……ちょうどよく冷えていておいしい、苦味も何もなにので、十分飲料水として使えるようだった


 今度は泉の中に踏み入り、中央のクリスタルまで進んでみる。

 ナビといた空間を思い出させる、蒼に輝くクリスタルに、そっと触ってみる。


「っ? これは――?」


 するとクリスタルから俺の身体に、何かが流れてくるのを感じた。しかしそれは不快なものではなく、なぜかとても心地よいものだった。気のせいか、先ほどよりだいぶ体が軽くなったように感じる。

 ステータスを開いて確認する。すると、《HP》《SP》が全快しているのがわかった。なるほど、このクリスタルは回復施設か。とりあえずこれでポーションを節約することが出来る。


「ふぅ……」


 泉から出て、喉を潤し、ようやくゆっくりと横になることができた。

 俺はジーンにチャットを掛けることにした。


『――ルルルルル、ガチャ。 ――おう、生きてるか?』


 数秒も待たずにジーンはコールから出た。


「……ついさっき死にそうなはめになったよ」


『ハハハッ、そりゃ大変だったな。で、どうした?』


「ちょっと色々あってな、報告にきた。今大丈夫か?」


『ああ、夜になったから俺らも一旦今街に戻ってきたところだ。――と、妹さんも会話に参加したいらしいが、いいか?』


「あー。いいよ」


 ガチャッ


『……兄さん、なんで私をのけ者にしようとするんですか?』


 聞こえてきたのは、ちょっと不機嫌そうな沙耶の声だった。


「いやいや、そんな深い意味は無い。ジーンのほうが色々詳しいだろうと思ったからだ、こいつは筋金入りのゲーマーだからな」


『まあいいですけど、今度からちゃんとグループチャットで私もまぜてくださいね』


「ああ、そうするよ」


『オマエラ、ホントナカガイイナー』


「そんな褒めるなよ」


『別に褒めてねぇよ』


 ――とりあえず、さきほどまであったことを全て話した。


『……そんな大型モンスター見たことないぞ。よく生きてたな』


「ああ、買ってもらった【レザー装備セット】のおかげだ、あれが無ければたぶん即死だった」


『妖精さんもイジワルですね、そんなところに飛ばすなんて』


『そうだな、どこが『使用者を幸運の場所へ導くといわれている』だ、修羅の国もいいとこじゃねえか』


「楽園アルカディアどころか、現在の状況だと監獄アルカトラズだからな」


『なるほど、お上手ですね』


「まあな」


『別に上手くねぇよ』


 ――それから二人の状況も聞いた。二人は街にもどってきて、今は図書館にいるらしい。そしてそこからアルカディアについての本や地図がないか片っ端から調べてくれていたようだ。


『だが結果はさっぱりだ。今も探しながらチャットしてるんだけど、それらしいのは見つからない』


「【忘れられた】とあるくらいだから、もしかしたら載ってないのかもしれないな」


『そうですね……もっと大きい図書館があるところなら見つかるかもしれませんが』


「とりあえず、俺のことはそんなに考えなくていい。二人はそのまま普通に冒険を続けてくれ」


 俺の為に二人の足を引っ張ってしまうのはいやだ。


『わかった、ただ新しい街に着いたりしたら調べるようにしてみるよ』


「すまないな」


『いいってことよ』


 本当に頼もしい。


「――ああそれから、出来たら冒険をするにも人数を増やしてやってほしい、できれば女性で」


『ん? 冒険するなら少なくとも3,4人パーティでやるのが普通だからな、もとより増やす予定だったが……なぜ女性?』


 そりゃ決まってるじゃないか。


「ジーンと沙耶が二人きりになるのを防ぐのと、沙耶に悪い虫が付かないようにするためだ」


『……お前もうシスコン隠す気ないだろ』


 ジーンの声は心底呆れていた。


「何を言っている。親父もいない今、妹の身を案じるのは兄の務めだ」


『あー、さいですか』


『兄さん、そこまでしてもらわなくても私ももう大人ですよ?』


「いや、沙耶は男の下心と自身の容姿の高さをあなどっている。出来る限りは手を打っておくほうがいい」


 実際の容姿が反映されるこの世界で、沙耶に声を掛けようとする男は多いはずだ。


『アーハイハイ、ソウシマスヨー。けど元からMMOは男のほうが多いから、上手くいかなかったら普通に男でもパーティにいれるぞ?』


「そこら辺の判断はまかせるよ。というよりこれは命令でもなんでもない、俺個人のお願いだ。だから無視してもらってもかまわない」


『まあ親友からの願いだ、出来る限り叶えるよ。というか無視したら後が怖いし』


 さすが俺のこと良く分かってるじゃないか。だが俺もお前のことを良く知っているぞ。


「ありがとう、助かる。で、沙耶」


『はい?』


「こいつ内心では『うへへ美女揃いパーティ作って俺ハーレム状態にしてやるぜヒャッフー』とか思ってるから気をつけるように」


『はい』


『勝手に俺の考えを捏造しないでくれるかな?!』


「ほう? では一瞬でもそんなことは考えなかったと、言い切れるのだな?」


『……まぁ……一瞬でもといわれれば絶対とは言いきr』


「というわけだ」


『はい、気をつけます』


『ちょっと待ってくだださいなーッ?!』


「大丈夫だ、変態だからといってお前の親友をやめるつもりはない」


『シスコンのお前に言われたかねぇよ!』


 閑話休題。


「とりあえず、日が昇ってから探索を再開する予定だ」


『諦める気はないんだな』


「ああ、絶対にな」


『となると、しばらくはユウと冒険は出来なくなるか、残念だな』


「……ああ、俺もだ。せっかくこの素晴らしい世界に誘ってもらったのに、申し訳ないな」


 チャット越しだが俺は頭を下げた。


『謝る必要なんかないさ、ここではどうやって生きるのも自由だ。ただ、妹さんを寂しくさせないようにな』


「すまないな、沙耶」


『いえ、私は大丈夫です。……ですが、無理はしないでくださいね。正直に言えば、その厳しい状況でがんばるより、素直に街に戻って、私たちと一緒に冒険をしたほうが、兄さんも《アンノーン》を楽しめるかな、と思いますし』


「心配してくれてありがとな、だが俺は諦めるつもりもないし、このギリギリの状況もけっこう楽しんでるぜ?」


『それならいいんですけど……』


「それにな、この程度俺が死ぬわけがないだろう? 必ず生きて帰ってやるから」


『兄さん……』


『だからそれ傍から聞いてると死亡フラグだから!』





「……さて、状況を整理しようか」


 通話を切った俺は、まずは持ち物の確認からすることにした。インベントリを開いて所持品を確認する。


【HPポーション×11】

【MPポーション×5】

【パン×3】

【木の矢×43】

【空きビン×1】


 その他には転移前に狩った雑魚素材がいくつかだけ。


 見事に初期アイテムしか揃っていない。続いて装備品を確認する。


武器:ダガー 

頭  :なし

体  :レザーアーマー

腕  :レザーガード

脚  :レザーブーツ

その他:レザーマント

 

 俺の命を救ったレザー装備セットだが、これもここではおそらく初期装備に毛が生えたようなものでしかない。


「……詰んでるよな」


 どう考えても詰んでいる。誰が見ても完全に詰んでいる。

 こんなアイテムと装備で、この凶悪なモンスターがうろつく楽園を脱出できるか?

 飢えをしのぐことができるか?

 いや、まず脱出口がどこにあるかすらわからないのだ。

 抜け出すなど不可能――いや、簡単に脱出する方法はある。

 『諦めて死ねばいい』のだ。そうすれば多少の経験地を失う変わりに、始まりの広場まで戻る事ができる。そうすれば妹と友人に、無事再会することも出来る。


「だが、俺は――」



 自身の拳を硬く握り、改めて決意する。



「――生き残って、生還してやろうじゃないか」




 こうして俺の、忘れられた楽園での、地獄のサバイバル生活が始まった。


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