第14話 リザードリーダー戦
~ 第14話 リザードリーダー戦 ~
「……さーて、ついにやってきました」
朝まで練習や談話をして時間をつぶした後、日が昇ってから進軍を開始し、ほどなくして俺たちは山頂にたどり着いた。
そこには屈強そうな大トカゲが腕を組んで待ち構えている。
【Boss リザードリーダー】
ボスモンスターにはレベルが設定されていないが、その強さはユウの言う大猪とよりもきっと強いだろう。
「うわー、実際に見てみると、遠目からでもでっかいですね」
ユキちゃんが感心した声を上げる。
「あいつを倒さなきゃ先には進めないってわけね」
アキの瞳の奥で闘志が燃えている。
「倒せば、私たちが最初の討伐成功者となるわけですね」
沙耶もぎゅっメイスを握る。
「――って、え? 討伐成功者……まだいないの?」
「ええ、さっき「ニュース」を見ていたんですが、その情報が一つもありませんでした」
「それは……おかしいな」
ニュースとは、情報画面から見れる《アンノーン》内での出来事が書かれていく記事のことだ。
【2014.8.1 11:00 本日からThe Unknown World 正式サービス開始!】
【8.1 20:00 ○○さんが○○討伐に三番目に成功しました!】
といったように、お知らせやボス討伐情報やイベントの告知として使われる。
リザードリーダーが強敵とはいっても、もう3,4パーティぐらいは倒していても不思議でないはずなのだが……。
「なにかボスの仕様が変わったのか……?」
「そうかもしれません。けどだからといって避けることもできませんし、油断せず戦うしかありませんね」
他のエリアに行くにはボス戦は必須だ。迂回して進もうとしても、ボスはどこからとも無く現れて、行く手を塞いでしまうのだ。まぁ実はどこかに抜け道があったり、道なき道を進んで行けば通り抜けることも可能らしいが、確かな情報はいまのところ無い。だがそんなことするぐらいだったら戦いやすい場所でしっかり倒してしまった方がいい、一度倒してしまえば通り抜けは自由なのだから。
「あ、言っとくけど、アレ使うのは最後の手段だからね?」
アキが俺に釘を刺してくる。
「わかってるって」
俺は頷く。アレとは必殺技のことだ。昨夜の練習の結果、ついに成功させることが出来たが、会議の結果それは『最後の切り札』として使うことにしようということになったのだ。当たりさえすればその威力は凄まじいが、外してしまえばMP,SPの多くを無駄に消費し、目も当てられない結果になってしまうからだ。
とりあえずはリザードリーダーと真っ向勝負をしようという決断になった。
「では、尋常に勝負だトカゲ野郎!」
『ギョアアアアアッ!』
俺が一歩踏み込むと、リザードリーダーが応じるように咆哮をあげた。
ボス戦開始だ。
まずは沙耶ちゃんが俺とアキを『フォース・アディション』と『スピード・アディション』で強化、さらに俺には《防御補助呪文》の『プロテクト』をかけてもらって防御力の底上げしてもらう。
「おらぁああッ こっちだ!」
そして俺が《雄叫び》でリザードリーダーのターゲットを取りながら突っ込み、一対一で戦う。リザードリーダーの猛攻が襲い掛かるが、バッチリ支援呪文をしてもらった俺ならなんとか回避したり盾で防いだりする事ができた。盾で防いでもかなりHPが削られるが、沙耶ちゃんの『ヒール』もあるので安心して戦える。そして片手剣《投擲》で頭を狙う。残念ながら首をひねって回避されたが、問題は無い。本命はアキだからだ。
「まず一太刀、いただきッ!」
いつの間にか《ダッシュ》で横に回りこんでいたアキが《ジャンプ》で飛び掛る。少しでも隙を作ることが出来れば、それを見逃さずこうして《チャージ・パワースラッシュ》を放ってくれる。重い一撃を受けて「怯む」。プレイヤーもモンスターも、一定のダメージを与えると「怯み」が発生する。ボスであるリザードリーダーであっても、このように弱点へのチャージアタックはたまらないらしい。
「――我がマナから生まれし氷結晶よ、敵を穿て。『アイススピア』!」
そしてアキによって更なる隙が生まれた瞬間、ユキちゃんの4本の氷槍がリザードリーダーの両腕両足に突き刺さる。本数が増えたのはここに来る途中で《氷呪文》のレベルが上がったからだ。増えた分必要なMPも増えるが、氷槍1本あたりに必要なMPは減っているので火力効率は上がっている。そしてアキが着地したと同時にリザードリーダーも怯み状態から戻って反撃を仕掛けてくる。だが『アイススピア』で両腕両足が一時的に「鈍化」した状態では(ボスなら2,3秒で回復してしまうが)アキに攻撃を与えることはできない、縦切りなら《ステップ》で、横薙ぎなら再び《ジャンプ》でアキは華麗に回避する。で、姉妹が活躍している間に俺は空いた片手で沙耶ちゃんお手製の「ポーション+」で回復したり、投げた片手剣を回収する。そしてまた《雄叫び》から繰り返し。
いい、実にいいサイクルでダメージを与え続けることができてる。
「なんだ、たいしたことないな。これなら我らの奥義を見せる必要もないか……フッ」
「ジーンさん、フラグ、フラグ」
「HAHAHA、何を心配なさってるんだい沙耶ちゃん、この調子ならラクショーラクショー!」
――で、見事にフラグでした。
「ぐ……こいつβの時より強化されてやがる」
俺は苦々しく呟いた。
βで手合わせした時ならもう倒していてもおかしくないないダメージを与えたはずなのに、HPバーはなんとまだ3割も残っている。
こりゃ間違いなく防御力と体力が増えている、討伐成功者がいないのも納得だ、高かった難度が更に上がっていやがる。今のレベルで来る場所じゃない。
で、まずいことにこっちがそろそろもたなくなってきた。後衛二人のMPが切れ始め、俺の所持ポーションも心持たなくなってきた。十分な数を用意して、沙耶ちゃんに効果を+してもらったのにも関わらずにだ。
「こうなったら、やるか?」
リザードリーダーをくいとめながら、チラッと後ろを振り返る。
「……たしかにアレの威力は凄まじいけど、あと3割削りきれるかね」
アキは非常に不安そうな顔をしている。
「もし無理だったら、諦めて全力で逃げるということで」
「……わかった。けどミスしたら承知しないよ」
アキから了承を得た。
で、二人の妹さんも……ちょっと緊張した面持ちだったが頷いてくれた。
……OK! ついに試せる時がきたかッ!
「じゃ、準備はいいかいッ?」
「最後のMPポーションを使いました、いつでもいけます!」
「私もです」
ユキちゃんと沙耶ちゃんの頼もしい声。高価なMPポーションを使い切らせてしまったのは悪かったが(市販品はHPポーションの5倍の値段)、それにこたえるだけのものを見せてやりましょう!
「よし、じゃユキちゃん! 頼む!」
「はい! ――我の前に立ち塞がる敵を、凍てつかせ封じよ。『アイスウォール!』」
俺がバックステップで距離を取るのと同時に、リザードリーダーの足を中心にして高さ1mを越える氷壁が作り出され、その動きを封じる。
「――彼の者に何者にも束縛されぬ自由を与えよ。『クイック!』」
アキの身体が黄色いオーラに覆われ、敏捷度が大きく上がる。
「よし、いくよ! 《チャージ》」
「来いッ!」
そしてアキが駆け出して、俺に向かって跳ぶ。
すでに両手の装備をインベントに仕舞っていた俺は、両手で彼女の足をバレーのレシーブを受けるような体勢で受け、
「オッラァッ!」
思いっきり上に振り上げ、アキ自身を《投擲》する! 投げられるものならなんでも《投擲》の補正を受けるらしい。アキも俺の手を離れる瞬間に《ジャンプ》。《投擲》+《チャージ・ジャンプ》+『クイック』で、アキはありえないほどの高さまで飛び上がる。10mを超えたかな、いままでで一番高い。そして角度良し、高さ良し! 特訓の成果が出た、これなら敵の頭上に落ちる!
――ピシッ バキッ
っとその時氷が割れる音。リザードリーダーの足が氷壁から一歩踏み出し、抜けようとしていた。やはりボスモンスター相手じゃ動きを簡単に封じることはできなかったか。
「だが移動は許さねぇえええッ!」
瞬時に俺は両手に盾を装備。
「オラァ! 《バッシュ》《バッシュ》《バッシュ》!」
とにかく《バッシュ》でどついて押し返す。敵が移動して攻撃が外れてしまえば、アキが落下の衝撃で大ダメージを受けてしまう、それだけは避けなければならない。強烈な斬撃が襲ってくるが意地でも引かない、引くわけにはいかない。
「ナイスだジーン! もいっちょ《チャージ》!」
なんとか押しとどめていると上からの声。大剣を振り上げたアキが落ちてくる。
「――彼の者の秘めたる力を目覚めさせよ。『アウェイクン・パワー!』」
そこへ沙耶ちゃんの攻撃補助呪文、アキの身体が今度は紅いオーラで覆われ、攻撃力が上昇する。
そして今リザードリーダーは俺を攻撃していて、アキには注意を払っていない。
最高の条件が整っていた。
俺は叫んだ。
「いっけぇアキィ――ッ!」
攻撃補助を受けたチャージ・パワースラッシュに、重力加速が加わり、有象無象をも断罪するかのようなギロチンが、今、
「はあああああああッ!」
アキの掛け声と共に、弱点に振り下ろされる。
――ザシュァアアッ!
見事頭に命中!
そしてそれだけではない、そのまま胴体まで鎧もろとも切り裂いていく。
硬いはずの鱗が、剥がれて上から花びらのように散ってくる。
その様を見ながらも俺は最後の役割も忘れない。落ちてくるアキをキャッチし、落下ダメージから守るのだ。
リザードリーダーに攻撃を当てて減速したアキは、難なく抱きとめるとこができた。そして万が一の反撃を警戒して距離を取り、安全な場所まで離脱してから振り返る。
……そこには、真っ二つに裂けたボスの姿があった。
これが俺たちの連携必殺技、名付けるならば、『グラヴィティストライク』。
――シュゥゥゥゥゥ
リザードリーダーの亡骸が上から順々に、灰のように光の粒子となって消えていく。
「かった……勝ったぞぉぉぉッ!」
俺はアキを抱きかかえながら勝利の雄叫びをあげた。
俺たちは正式サービスが始まってからまだ誰も突破していないボスを倒す快挙を成し遂げた!
超ロマン技まで成功させたうえでだ!
「ハハハハッ やったなアキ! 大成功だッ!」
この勝利の喜びを分かち合うため呼びかる。
「――って、どした?」
だがなんか様子がおかしい。何かに耐えるようにぷるぷると小さく震えている?
「――ぉ――おまっ」
そしてなぜか顔を赤くして怒りの形相なんですか――って、
「あ゛。」
Oh、マンマミーヤ。
そこでボクチンも気づきましたよ。俺の右手がアキさんの《※想像にお任せします》を触っていらっしゃいますね? ……とりあえず彼女を地面に立たせて解放いたしましょう。はい。
「――せりゃぁああッ」
「ホワアアアアッ!?」
やっぱり切りかかってきますよねぇーッ!?
もちろんガードゥ! ――ってそれでも一割以上もっていかれてる!?
「アキ、更に強くなったな!」
「殺す!」
話を逸らす作戦、失敗。
「いや、聞け! これは不可低力! らっきぃすけべ☆というやつなんだよ!」
「殺すッ!」
ガリガリ減るHP。
「いやっ! ちょ、マジ勘弁! 死ぬから! 今のHPなら俺死んじゃうからぁぁぁッ!!」
「もとよりヤるつもりだぁぁぁッ!」
「いやー、ほほえましいですねー」
「恥ずかしがってる姉さん新鮮だわー」
「「二人ともニヤニヤしてんじゃねーよ(ないよ)ッ!!」」
なんでボス倒した後に命の危機に晒されなきゃならんのじゃあああああ!!!
……それからなんとかアキのSPが切れるまで耐え、生き残ることができた俺であった。。。
《News》
【8.2 16:30 ジーン・アキ・沙耶・ユキさんが、ガルム山脈Boss【リザードリーダー】討伐に初めて成功しました!】
やっとジーンパーティ編を終わらせることができました!
改めて読むと急いで詰め過ぎ感がありますね……後で要修正だ。
次回からやっとユウ&クロノスサイドのに戻ります!