第10話 立て、立つんだ――
お気に入り3000突破! もう感謝感激です!
今後もこの期待にお応えすることができるよう頑張ります。
さて、今回はジーンとアキのステータスを表示しておきます。
ジーン
ファイターLv13
《雄叫び》
《重装備》
《ステップ》
《頑強》
《両手剣術》
《???》
《???》
《???》
《???》
アキ
ファイターLv10
《ステップ》
《ダッシュ》
《???》
《???》
《???》
《???》
《???》
《???》
《???》
「「「オオオオオオオオオォッ」」」
開幕の合図とともに、男三人の《雄叫び》が響き渡った。
相手はモンスターではないので注意をこちらに向けることはできないが、攻撃力が僅かに上昇する。
だがアキはというと、涼しい顔をして大剣を構えたままだ、どうやら《雄叫び》も持っていないらしい。前衛クラスなら後衛を守るために当然持ってるはずなのだが…う~んますます謎だ。
「俺から行かせてもらうぜ! 覚悟しろ、アキ!」
「いいよ! 来なッ!」
ジョーがアキに向かっていって、ナタクが俺に突っ込んでくる。まぁ因縁的にこうなるよな。
しかし盾持ちが相手か、2レベルの差があるといっても堅実で隙の少ない盾&片手剣装備に対して大振りな大剣だと少々分が悪いかもしれない。……ならここはアレだな。
「まずは、《パワースラッシュッ》!」
大剣術の『スキル』を発動して突っ込んでくるナタクに思いっきり切りかかる。《パワースラッシュ》、通称パワスラは大剣レベル5で覚える基本的な強攻撃だ。ナタクは構わず盾を掲げて突っ込んでくる。
だろうな、けどそれは予想済みだ、渾身の力で叩きつける。
〝ガインッ〟
「ぐっ!?」
ナタクが驚きの声をあげ、動きも一瞬止まる。おそらく予想以上に重い攻撃だったからだろう。
「ハァッ!」
それでもすかさず突き攻撃を仕掛けてくるあたり、なかなかやりおる。だが俺だって一瞬の隙さえあれば《ステップ》で回避することも容易い。後ろに飛んで距離をとる。
「……盾の上からのこのダメージ…貴様、俺たちより上のレベルかッ」
見るとナタクのHPゲージが1割ほど減っている。盾の上からだから、一割でも結構な量だ。
「ご明察。盾があるからってまともに受けると、削られるぜぇ?」
俺は口の端を歪めて不敵に笑ってみせる。
「まじかっ、11より上って相当だぞ!」
「やっべー、ジーン側に賭けときゃよかった!」
フハハハハ、観客の驚きが心地いいのお!
「なに、そうと分かれば直撃を避けるだけだ」
だがナタクはそれほど動じる様子はない。やはり腕に自信があるのだろう。
「ふーん? できるもんならやってみな。…だがな、次は直撃させる」
俺も不敵な笑みは崩さず宣言し、『インベントリ画面を開いた』。そして取り出しやすいようにその位置を右手側にずらす。
「ん? ジーン様、アイテムを使うのは禁止ですよ?」
俺の謎の行動にマスターが忠告する。
「わかってるよ、これは次の『布石』だ」
「ほう? 何をするか知らんが――いくぞッ!」
そして再び突っ込んでくるナタク。
「ではもういっちょ、《パワースラッシュ》!」
渾身の力で縦振りで叩きつける。
ナタクは今度は盾で防ぐことはせず、素早く右に飛んだ。おそらく《ステップ》を使ったのだろう、大剣が空ぶって木製の酒場の床に深々と刺さった。
「――隙だらけだッ! 《スラッシュ》!」
スラッシュは片手剣術で覚える強攻撃だ。鋭い斬撃が俺を狙ってくる。
まぁ床に刺さった剣を握ったままじゃその通りだよな。
――なら、手放すだけだ。
「なっ!」
ナタクは驚き、突き出した剣は空を切る。
そりゃ驚くだろう、戦闘中に自分の得物を手放して回避すやつなんていない。
だが俺の得物は一つや二つじゃないんだよ。
「お返しだッ!」
そのまま俺は右手をインベントリに突っ込みながら、滑り込むようにナタクの懐に入り込む。そしてインベントリから『片手剣』を掴み、引き抜きながら――ナタクに切りつけるッ!
「《スラッシュ》!」
「ッ!」
胴にHit! 手ごたえありッ! 堪らずナタクは後ろに飛び距離をとる。
その隙に、今度は左手で盾を取り出して装備する。
「ふふふ、宣言通りになったなぁ、ナタク!」
「くっ! 複数の武器使いだと……ッ!」
ナタクの顔が憎々しげに歪む。
状況によって、常時開いたインベントリから武器を切り替えて戦う戦法、さっきいった準備のために金欠になった新しい戦術というのがこれだ。複数の武器を揃えるための出費がね。
β時代、俺は様々なモンスターと戦ってみて痛感したことがる。武器には敵によって向き不向きの相性があるということだ。
トロいやつには大剣が
素早いヤツには片手剣が
複数で来るヤツには盾が
近づくと危険なやつには槍が
言うまでもないかもしれないが、それぞれ有効だ。それを補うために、普通はパーティで仲間を募る。だがあえて俺はファイター適正のある武具術を複数取得してみた。アビリティスロットが○○術で埋まるのが痛いし、使い分けるから成長も遅いが、様々な戦い方が選べるようになったおかげでモンスターとの戦いは楽になった。二人よりもレベルが高くなったのは、その効率の結果かもしれない。なによりいろんな戦法がとれて戦闘が面白い。
まさか対人戦でも有効とは思っていなかったがな。
「さーて、これでお前のHPも半分近くに減ったな? もう余裕もない、レベル差もある、そして武装も同じとなったわけだ……どうするかな?」
「……くっ!」
今度こそナタクの顔から余裕が消えた。
「あははっ! やるじゃんジーン!」
と、ここでアキからのお褒めの言葉。そういえば彼女の方はどうなったのだろうか。
そちらの方を見てみると、ジョーと大剣同士で激しい剣戟を繰り返していた。HPはアキが1割ほど減っていて、ジョーは無傷だった。
「おいおい、ちょっと負けてるじゃねーか。せめて俺が勝つまでもってくれよ?」
「なーに言ってんの、心配御無用さ。というより、そっちも早くしないと、こっちが先に片付けちゃうよ?」
若干押されているというのに、その言葉に緊張感は無かった。むしろ余裕で、剣戟を楽しんでいるように見える。
「ハッ、ぬかせ! さっきから俺の攻撃を防ぐので手一杯じゃねぇか!」
まぁ確かにジョーの言うとおり、有効打は一発も入れられてないようだが…。
「あんたねぇ、私が様子見してるのに気づかないのかなー?」
そうなのだ、彼女からは何かを企んでいる様子がありありと感じられる。
「じゃ、ジーンもいいもの見せてくれたことだし、あんたの動きも大体分かった。なら私も――そろそろ本気でいきますか!」
そういうとアキは後ろに跳んで距離をとり、鉈大剣を正面に構えなおした。どこからでも来いといった感じだ。
「怖くないなら、かかってきな!」
「はん! おもしれぇ、見せてみやがれッ!」
ジョーはその挑発にあえて乗る様子だ、構わず切りかかっていく。大きく振りかぶって強力なパワスラを放つ。
アキはそれに対して、斜めに剣を構えて防御する。だが大剣でしっかりと防御したとしても、盾でなければそれなりのダメージがアキに入る――と思った瞬間、ジョーの大剣がアキの大剣に沿って滑っていく。
《受け流し》か! 《受け流し》はその名が示す通り、SPを消費して相手の攻撃を受け流すアビリティだ。だが攻撃の受け方と、発動タイミングがシビアで扱いが難しい。実戦で使ってる人はあまり見たことが無い。だがアキのそれは完璧で、ノーダメージでジョーの攻撃をいなす。さっき様子見をしていたのは、剣筋を読んで完璧に受け流すためか。
だがそれでどうする? 動作の遅い大剣では受け流しても追撃できな――
「せぃッ!」
「ぐぉ!?」
『蹴った』ぁ?! こいつ、ジョーを蹴り上げたぞ!
ゴイン、と金属装備同士がぶつかる音が響き、ジョーの身体が床からやや離れて浮く。HPも一割ほど減った。ただの蹴りがアイアン装備の男を浮かして、更にダメージまで通すなんておかしい。…こいつ、まさか《キック》を習得しているのか?
「はッ! はぁッ!」
そしてそのままアキは受け流しに使った大剣を手放し、やや浮き上がったジョーの体に、今度は 左!右!とアッパーをぶち込んだ! 《パンチ》もかよ! 胴、顔面と命中! あのゴツイガントレットで顔面はイテェ! HPが更に二割ほど減る。
そしてさらにジョーの体が浮き上がると――
「――せいやぁぁぁッ!!」
今度はその場で最小の動きで素早く回転し、回し蹴りを放ちやがった! 落ちてきたジョーの胴体にジャストミート。その威力は半端なく、ジョーを観客席にまでぶっ飛ばした。酒場の机の一つにガッシャーン!と派手な音を立てて落ちる。客からも悲鳴が上がる。
「まだだよッ!」
しかしそれで終わりではないらしい、アキは大剣を拾いなおし、ジョーに向かって跳び上がり――って高ッ?!
この酒場の天井まで4mはある、だがその高さまでアキは悠々と飛び上がり、体を捻って『着地』、そして天井を蹴ってジョーに突っ込む!
「はああぁぁぁぁッ!!」
〝バゴォォォオオンッ!〟
大剣が振られ、すさまじい轟音が酒場に響いた。その一撃は酒場の床をも貫通したらしく、派手な土埃が舞った。
「……なんつーコンボだよおい」
一連の流れを俺は呆然と眺めていた。ナタクも観客も一緒で、全員唖然としている。まさかこんな必殺技が…信じられん。
今の戦いを考察しよう。始めに《受け流し》で相手の体勢を崩す、そこへすかさず隙の少ない《キック》で蹴り上げ、浮いたところで《パンチ》での二連アッパー、そしてさらに回し蹴りで吹っ飛ばしたところで一撃必殺の追撃。天井まで跳んだあの異常な跳躍力は、たぶん《ステップ》と《ジャンプ》によるものだろう。そして天井から床に向かっての《ジャンプ》+重力加速+《パワースラッシュ》で……いや、これだけの威力、もしかして大剣を拾った時から《チャージ》を発動していたか?
それぞれのアビリティについて解説しよう。
といっても《パンチ》《キック》《ジャンプ》は説明しなくても分かるな、パンチキックは拳と蹴りの威力を高め、ジャンプは垂直方向への跳躍力を高める。これらはかなりマイナーなものだ。拳闘士を目指すプレイヤーもいるがそれは極少数。隙は少ないが、やはり武器の威力の方が高いし、リーチも短いのが痛い。そして何よりプレイヤー自信の実力がないと戦うことさえできないからだ。《ジャンプ》も同様で、平行方向への跳躍を高める《ステップ》より使い勝手が悪いから習得する者は少ない。
《チャージ》は使う者も多い。これはSPを消費して数秒力を溜め技の威力を高めるものだ。大剣や槍使いがよく使う、だが隙を狙って発動させないと空振りすることが多い。
俺は初めて見た、受け流し、パンチ、キック、ジャンプ、チャージ。これらをここまで使いこなすヤツを…。
今では理解できる、彼女の装備の意味。手足が金属防具なのは格闘の威力を高めるため、レザーアーマーなのは身を軽くして体術を繰り出しやすしつつ、跳躍力を確保するため、ゴツイ鉈大剣はどんな強力な攻撃でも受け流せるように、そして最大級の必殺技を繰り出すために……。
――土煙が薄れていく。
大剣を肩に担いだアキが、これ以上ない不敵な笑みで、倒れたジョーを見下ろし仁王立ちしていた。
「……ふふっ、訂正させてもらうよ、あんたもなかなかやるね、あの連撃でまだ気絶していないとは思わなかったよ」
なにっ?! あの攻撃を受けてジョーはまだ生き残っているのか?
よく見てみると、確かにHPは残っていた。だがレットゲージ、つまり1割以下の瀕死状態だ。そばには折れたジョーの大剣が転がっている。なるほど、最後の一撃をとっさに大剣でガードしたのか。それでも耐えられたのには驚きだ。《重装備》の恩恵もあるだろうが、こいつHPを底上げする《頑強》も取ってやがるな。
「剣戟も受け流さないと隙が無かった。弱っちいなんて言って悪かったよホント」
そしてアキは俺に振りかえり、ニコッとする。
ジョーは瀕死で動けない、ナタクのHPも半分近く、対する俺は無傷、アキも僅かにHPを減らしただけ。……勝敗は決した。
「私たちの――勝ちだ!」
「「「うおおおおおおおおぉぉぉ!?」」」
ドッ、と歓声に包まれる。
ここにいる者のほとんどがジョーたちに賭けていた人たちだろう。だが、これだけ見事な技を魅せられて、興奮しないはずがない。俺たちの圧勝! 賭けに負けて嘆きこそしても、誰もが賞賛を送り、それに異論を唱える者など居ない。
――と、思っていた。
「決 め 付 け る な ァ ッ!!!」
ナタクが、吼えた。
その怒気を孕んだ声に、一瞬にして酒場は静寂を取り戻す。
「…まだ決闘は終わってはいない、勝利の美酒に酔うのは、早い」
「……その通りだ」
ジョーが、ユラリと立ち上がった。
「あんた……まだ――」
「受け流しからの一連の攻撃、見事だった、感動すらした」
ジョーはアキの呼びかけを無視し、その目をまっすぐに見つめ、手放しの賞賛を送った。
「だがな…最後にとどめを刺さないのは、甘ぇよ」
そしてインベントリを開き、今度は細身の、太刀のような剣を取り出した。
「……あんたたち、まだやろうっての?」
「当然だ」
アキの問いにジョーは即答する。
「……おい、やめさせろって。あの状態じゃ無理だ」
俺はナタクに声をかけて降伏を勧める。どう見たってボロボロ、誰が見たって勝敗は見えている。
「もう負けだって」
「誰が負けたと言った」
だがナタクは頑として譲らない。
「つっても瀕死ペナルティがある中じゃまともに動け――」
「誰が『瀕死』だと言った」
「……なんだと?」
「彼は――」
「そおらぁッ!」
ジョーが動き出し――って早いッ?!
「《パワースラッシュ》ッ!」
「なッ?! ――くぅ!」
まさかの鋭い一閃に、アキは不意を突かれた。しかしなんとかガントレットで胴を庇い防御する。だが体で受け止めてしまったことには変わりない、HPが一気に――5割も削られただと?! 先の軽傷と合わせて一気に半分以下、イエローゲージに突入する。
~ 第10話 立て、立つんだ―― ~
「そぉら、そらそらそらぁ!」
そして追撃、立て続けにアキに切りかかる。その太刀筋は、なお鋭くなる。
嘘だろ……なんでパワーとスピードが上昇してるんだよ?!
「彼は、瀕死になってからが本番だ」
ナタクはその様子を見て満足そうに笑って言った。
「瀕死になってから……まさか《底力》?!」
《底力》、敵からダメージを受け瀕死になった時、ペナルティを受けず逆に全ステータスが上昇する、使い勝手が極めて難しいアビリティ。
「そうだ、ダウンした後こそがジョーの真骨頂。そして《底力》を生かす連撃用の太刀に切り替えた彼に、彼女は耐えることができるかな? 見たところ防御力は弱い、後一撃まともにもらえばやられてしまいそうだ」
「くっ!」
その通りだ、今は彼女は受け流しとステップで上手く立ち回っているが、もし壁際に追い詰められてしまったら避けきれないかもしれない。
――ならばッ!
「おっと! 行かせはしないッ!」
アキに加勢しようとしたところで、ナタクの剣が襲ってきた。盾で弾く。
「……なぁ、俺たちはここで見守ろうじゃないか。お互いのパートナーの勝利を信じて、な?」
そう言って隙なく盾を構える、てこでも動かないつもりか。ナタクはダメージを受けているとはいえ、まだ半分は残っている、速攻では倒せない、強引に助けに行けば確実に切られる。
一瞬、身体が震えた。
なぜだ? 恐怖? 自分たちが負けてしまいそうだからか?
――いや、そうじゃない。
「…はははッ」
俺は笑った。自然と笑ってしまった。
「どうした?」
「いや、失礼。……楽しくてさ」
これは武者震いだ。俺はこの状況に興奮しているのか。
お互いがお互いの力を全て出し合い、勝敗がどちらに転ぶかわからない、この緊迫感。
これこそ、俺が求めていたもの。
「悪いが、押し通らせてもらう。お前程度で、俺を止められるとでも思うなよ…ッ!」
俺の挑発的な態度に対して、ナタクも笑みを浮かべる。
「ふっ、来るがいい…ッ!」
〝ガィンッ!〟
俺がいざ突っ込もうとした時、一際大きい剣と剣がぶつかる音がした。アキがなんとかジョーの一撃を弾いて、大きく距離をとっていた。
「ハハッ、どうした? さっきより防戦一方になってるじゃないか」
ジョーがアキに話しかける。口の端が楽しそうに歪んでいる。
「……まさかそんな隠し玉を持っていたとはね」
対するアキは焦燥の表情を――浮かべてるわけがなかった。余裕の表情は消えたが、それでも獰猛に笑っていやがる。
「ふふっ、それでこそやりがいがあるってものよ。けどね、勝つのは私だ」
ははははっ、言うねぇ!
あの連撃を見せられた後だ、彼女の自信には根拠があるということを知っている。ということは、まだ何か手があるっていうのか? ……まったく、頼りがいがあるなぁ、おい。
ならば俺も、隠し玉は全部使ってやろうじゃないか。
「OKおーけぇ、じゃ続きといこうぜ。……戦いっていうのはな、9カウント目で立ち上がってからが本番なんだよ!」
ジョーが叫び、第二ラウンドの幕が上がる。