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≠ Unknown World Online  作者: 02
楽園という名の監獄へ
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第7話 星が導く帰還の糸口

 ~第7話 星が導く帰還の糸口~



 インベントリから回収していた木材を取り出して、木目に沿ってダガーで手ごろな大きさに切り分ける。アビリティ効果だろうか? ダガーに掛かる負荷が軽く、思ったより簡単に切り分けることができた。そして後は一つ一つ、細く長く、折ったりしないように丁寧に削っていく。


 ――シュッ ――シュッ


 ダガーが木を削る音だけが、静かなクリスタルの間に響く。



 大樹に生還した俺は、早速アビリティから《クラフト》を習得し、弓矢制作に取り掛かっていた。

 たったこれだけのことなのに、職人になった気分だ。 職人プレイヤーになるユーザーの気持ちも分かる気がする。



 ……傍目で興味深そうにジーっと見つめる存在がいなければ、だが。



 ジー。

 少女は俺に熱い視線を送る。


「……何だ?」


 びしっ。

 少女は俺の削っている木を指差す。


「何をやっているか気になるのか?」


 コクコク。

 少女が小さな顔を縦に揺らす。


「……今は木を削って弓矢を作ろうとしてるんだよ」


 こくん?

 少女は首を傾げて疑問顔になる。


「なんでそんなことしてるのかって顔だな、矢があるかないかは今の俺にとって重要なんだよ。ほらこれ」


 インベントリを開いてリーンの実を取り出す。


「これが俺がここに来てからの主食なんだが、これを取るためには弓を使って実を打ち落とす必要があるんだ。だから矢がなくなる=食料がなくなる=死んでしまうわ! というわけだ、わかった?」


 コクン。

 少女は納得するように頷いた。


 そして再び、

 ジィー。


「……何だ?」


 びしっ。

 少女は俺の持っている実を指差す。


「……もしかして、食べたいのか?」


 コクコクコク。

 少女が小さな顔をさらに縦に揺らす。


「まぁ、少し多めに取ってきたしいいか。お前もここに飛ばされてきてから何も食べてないんだろうし」


 ポイっとリーンの実を投げてやると、少女はわーい♪といった感じに喜んで両手でキャッチした。

(……なかなか可愛らしいが…ほんと何者なんだろな、こいつ)


 俺は数分前の出会いを少し回想する。



 ~~~~~~~~



「どちらさまで?」


 俺が声をかけると、少女は飛び上がって驚き――コケた。


「えっ? あ」


 そしてバシャーン、とクリスタルの泉に派手な音を立てて落ちた。

 しまった、驚かす気はなかったんだが。

 とりあえず謝ろうと駆け寄って――


「って、溺れてる?!」


 なんだ!? なんなのだこの少女は!?

 泉の一番深いクリスタルの真下でも膝の上ぐらいまでしかないはずなのにも関わらず、彼女は溺れていた。

 とりあえずこのままでは俺が殺人の原因になってしまう。それだけは避けなければならない。急いで手を貸して助け上げることにする。


「――ぷぁっ!」


 幸いにも少女の身体は非常に軽く、難なく助け出すことができ、最悪の事態は免れた。

 そして改めてその様子を確認しようとして――驚いた。


 何に驚いたかといえば、少女の顔だ、明らかに日本人離れしている。そしてさらには造ったように美形ときている。お人形さんのようだ、とはまさにこのことを言うのだろう。腰ぐらいまである金色の髪に、白くてフリフリの飾りが付いた今風の可愛らしいワンピースを着ていた。 そしてその身長は設定最低値の130cm――って、もしかしてそれより小さい? いや、そんなはずはないよな。 


 このアルカディアで異国の美少女と出合えただけでも驚きなのだが、その次の瞬間、俺は更に驚かされることになる。



「――Wet! Ανόητος!」


「……は?」


 彼女から発せられた言葉が、全く理解できない言葉だったのだ。



 ~~~~~~~~




(こっちの言葉は理解できている様子だから、おそらくバグか何かなんだろうな)


 俺は少女が喋れない理由をそう結論付けた。


(しかしそれでも外国人なのは間違いないだろうし、あの低身長……コケたり泳げなかった理由はもしかして現実との体格差があるからなんじゃないか?) 


 リーンの実にかぶりつく少女を眺めていると、どんどん疑問がわいてくる。


「……?」


 俺の視線に気づいたのか、少女はキョトンとした様子で見つめ返してきた。


「いや、なんでもない、食事を続けていてくれ」


 まぁ湧き上がる疑問は一時置いておいて、とりあえず少女の意識がリーンの実に移っている隙に、俺は《クラフト》を再会することにした。


 ――シュッ ――シュッ


 木材が納得のいく細さと長さになったら、先端を尖らせやじりを作っていく。

 と、その時、なんとなく思いついた。


(……もしかしてこの先端に石とかを取り付ければ、威力が上がるか?)


 今は物がないから出来ないが、後で試してみようと決めた。

 やじりが完成したら、今度は弓の弦に引っ掛ける溝を彫る。そして仕上げに矢羽に『鳥の羽』をつけて、


「――っし、完成か」


 完成した矢を掲げて見てみる。初めてにしては、まあまあか?

 しかし、こうして全部作るのは骨だな。




『――ルルルルル』


 と、いいタイミングでチャットがかかってきた。


「――はいこちらユウ、おはようさん」 

『おはーっす。日はもう落ちてるけどな』

『おはうございます』


 《アンノーン》では夜だが、現実ではまだ午前中だ。


『で、何か新しい発見はあったかい?』

「ああ……まぁ……うん、昨日よりはるかに」


 俺の返答は歯切れが悪い。


『なんだよ、えらく言葉を濁すな、もしかして死んだか?』

「そんなことはない、確かに猪以上の強敵と出くわして本当に死にそうになったが…それ以上に今の俺の状態を、どうやって信じてもらおうかと、言葉に悩んでな」

『そんなに凄いことが起きたのですか?』


 凄いというかなんというか。


「不思議がいっぱいだ」

『…ほぉ? とりあえずありのまま言ってみろよ、別にユウの言葉を疑うなんてしないぜ?』

『ですね』


「そうか……。わかった、今の状態をそのまま伝えよう。だが二人とも落ち着いて聞いてくれ?」

『はい』『おう』


「――俺はセーフティーエリア帰ってきたと思ったら、そこに小学生ぐらいの金髪美少女の外国人がいた。今隣でリーンの実食べてる」


『『………』』



 シーン。



「……おい?」


『兄さん……厳しいサバイバル生活でお疲れになって…』

『お前……妹成分が不足しすぎてとうとう幼女の幻覚まで見るようになったか』


 なんという酷い言われよう!


「真実なんだよッ! 妹成分ってなんだ!」

『うん、ちょっと話しかけないでくれるかな? シスロリコンさん』

「言葉を疑うなんてしないぜ? なんて言ったのはどの口だジーンッ!」

『に、兄さん私は信じていますよ?』


 いやその反応は絶対信じてない!


『まぁとりあえずその人の声を聞かないかぎりなぁ……ちょっと信じられないぜ』

『そうですね……その方にもチャットに参加していただけませんか?』


 ああそうか、チャットという証明手段があったか。


「それはいいが、彼女は日本語を喋れないのかバグなのかしらないが、会話できる状態じゃないぞ? こっちの言葉は理解できるようだが」

『んん? そんなバグ聞いたことないぞ? それに日本語も喋れないユーザーが《アンノーン》をやるはずがないんだが…』

『とりあえず、その声だけでも聞いてみたいですね』

「そうだな…ちょっとまってろよ」


 俺は少女を見やる。いつの間にか食事を終え、俺のチャット姿を興味深そうに眺めていた。

 そんな彼女に俺はチャット招待を送ろうとして――まだ名前すら知らなかったことに気づいた。

 とりあえずじっと少女を見ると、すぐに名前が浮かび上がってきた。



 【クロノス】



「……クロノス?」

『どうした?』

「いや、今チャットの招待を送ろうとして名前を確認したんだが……彼女は《クロノス》というらしい」

『クロノス……ギリシャ神話の時の神ですね。なんか少女には似合わない名前ですが?』

『……ひょっとして、それって男の娘ってやつじゃね?』


 何を言い出すんだこの変態は。


「いやいや、幼いといっても顔はどう見ても女性の造形をしているし、ちゃんと胸の膨らみもある」

『まぁ! 聞きました妹さん? この男やはり少女をイヤラシイ目でみていますよ!』

「オィッ?!」

『……やはり兄さん少女趣味に目覚めて』

「だから誤解だ!? 沙耶以外に女性の胸をまじまじ見たことなんてないぞ!」

『それなら良かった』

『いや良くないよ妹さん?! サラッと大問題ですよ!?』


 まあ兎に角、クロノスにチャット招待を送ろう。ピロンっと。

 クロノスにもピロンとチャット招待のウインドウが現れる。彼女は少し驚いてそれを見つめる。

 そして『なに?』、といった視線を俺に投げかけてくる。


「俺の仲間と一言二言会話してほしいんだ」

「??」

「頼む、一瞬だけでもいいから。俺が正気かどうかが掛かってるんだ」


 両手を合わせて懇願する。

 熱意は伝わったようで、少女は戸惑いつつもコクンと頷いてくれた。


 無事チャットを繋げる。


「OK、じゃクロノス、何か喋ってくれ」

「……?」


 ってなんでキョトンとしてやがるんだ。


「なんで不思議顔なんだよ、お前のことだよ」

「――Χρόνος ? Ποιον?」

『おおっ?? ホントに何言ってるか分からないな』

「Φωνή ακούγεται. Ποιον?」

『どの言葉とも違う感じがしますが、確かに少女の声ですね』


 とりあえず俺の幻覚でないということは、無事証明されたようだ。


「協力ありがとな、クロノス。チャット切ってもいいぞ」

「……Ενοχλητική.」

 

 少女は凄い不満そうな顔でチャットを切って、トタトタとクリスタルのある泉まで行ってしまった。

 不快な思いをさせてしまったかな……申し訳ないことをした。


『ということは、彼女も妖精の羽か何かでそこまで飛ばされてきたということでしょうか』

「おそらくな、満足に走れなさそうだし、モンスターに運良く見つからなかったんだろう」

『満足に走れない??』


 俺は彼女がコケて溺れた事件を伝え、そのことから彼女には現実との体格差があるのではないかという俺の推論を話した。それを聞いて二人が「うーん」と唸る。


『謎ですね…そんな低身長の方見たことないですし』

『不思議がいっぱいだな…』

「だろ?」


『まあその少女のことは分からないし、とりあえず置いておくとして、他に面白いこととかあったか?』

「ああ、そうだな後は――」


 俺はとりあえずリーンの実の効果と、強壮草のことと、鷲との死闘を伝えた。


『MP回復効果に、滋養草の上位版かぁ、どっちも初耳だ。しかもまだまだ謎がありそうな雰囲気。いいねー、凶悪なモンスターがいるのを差し引いても行ってみたくなったわー』

「来るのはいいが、その場合『死に戻り』なんて許さないぞ」

『わかってるって。けどなー、やっぱ行ってみたいわー』


 まったくこちらの苦労も知らないで暢気なものだ。


「――っと、そうだ。なぁ今アンノーン内で、何時かわかるか?」


 クリスタルの間からでは空が見えないので二人に聞いた。


『んーと、月が丁度頭上に来てるな』

『アンノーンで太陽や月は決まった軌道で、それぞれ対をなすように動いていますから、丁度深夜0時ってとこになりますね』

「もうそんな時間か、矢の生産をしなくては」『矢? ですか?』


 チャットの向こうで沙耶が首を傾げて疑問符を浮かべる姿が目に見える。


「買っておいた木の矢が尽きかけてるんだよ、これから何に使えるかわからないし、なくなったらリーンの実を取るのに困るしな。だからさっき《クラフト》のアビリティを習得して矢を作ってたんだ」

『また珍しいものをとったな』

「まあな、でも仕方がないさ。で、それが結構大変な作業なんだ、だから夜が明ける前に少しでも作っておこうと思ってな」

『って兄さん? まさか一本一本削って作ってるんですか?』

「ゑ? その通りだが?」

『……ユウくーん、《クラフト》のアビリティウインドウ出してみー?』


 なんだかジーンの声に呆れた感じがあるのが気に食わないが、言われた通りに開いてみる。

 するとそこに、他のアビリティにはない言葉が載っていた。


「れ・し・ぴ?」


 そしてその項目を押してみると、


【折り紙】【木箱】【釣竿】

【火切り板】【火切り杵】

【まな板】【麺棒】【おたま】【木製食器】

【木彫りの人形】【仮面】~~などなど。


 と、なんだかよくわからないものがズラッっと現れた。


『そこにあるのが今のレベルで作成できる物のレシピです。たぶん矢ならそこにありますよね?』

「え~と……ああ、あるな」


【木の矢】

材料:木材+羽

必要工具:手ごろな刃物

(生産)


『で、そこの生産ボタンを押してみてください』

「はいよ、ポチッと」


 ――コトッ


「……はい?」


 俺は目を丸くした。いきなり目の前に木の矢が落ちてきたのだ。


『今やったのがレシピ生産です。物を作る時は基本的にこうして「生産」するんですよ』

「…俺の苦労は、一体」

『いえ、そこまで落ち込むこともありませんよ、手作業で作る方が経験値も多く入りますし、レシピ以上に良いものができたり、レシピ以外のも作ることができますから』

「…慰め、ありがとう」


 これからはアビリティを習得する時は、使い方もよく調べてからにしようと、心に決めた。

 で、現在は鳥の羽と、壊れた矢から回収しておいた矢羽があるので、結構な数が生産可能らしい。


(矢は消耗品だし、一つ一つ丁寧に作る必要もないよな)


 そう判断して俺は矢の生産ボタンを連打した。


「――っと?!」


 そして十数回目ぐらいにボタンを押した時だ、唐突に眩暈に襲われた。


『どうしました?』

「いや、なんか生産してたらちょっと眩暈が」

『ああ、SPかMPが足らなくなってデメリットが発生したんですね』

「デメリット?」

『レシピ生産は簡単に作り出すことができますが、その分相応のSPやMPを使うんです。クラフトのレベルが上がれば消費も少なくなるのですが、まだ1でしょうし、だから作る量を抑えないとすぐにSPMPを切らしてしまい、デメリットが発生します。クラフトの場合デメリットが眩暈だったんでしょうね』


 ステータスを見るとSPが0になっていた。


「なるほど、昨日ステップを使おうとしてコケたのは、デメリットが発生してたのか」

『そういうことです、座って自然回復を待つのがいいでしょう』

「いや、クリスタルに触れば全快だし」


『――へ? 全回復?』


 ここで黙っていたジーンが驚いた声を上げた


「? ああ、全回復するクリスタルがあるから休む必要も――」

『ちょ、ちょっと待て、そんなクリスタルがあるなんて初耳だぞ?』

「あれ、言ってなかったか?」

『聞いてませんね』


 そういえばクリスタルの間のことは説明してなかったな。セーフティエリアはどこも同じだろうと思ったから。


「えっとな、ここは小さな体育館くらいの大きさで、その中央に泉と、蒼く輝くクリスタルがあるんだ、でそのクリスタルに触れるとな、HPとSPが全回復する。確認はしてないがMPもそうだろう」

『そらすげぇなぁ……』

「え、セーフティエリアには普通あるものじゃないのか?」

『ないない。そんな便利な物があれば、職人プレイヤーが生産しにセーフティエリアに溢れかえってる』


 なるほど、言われてみれば確かにその通りだ。


『基本、セーフティエリアには何もない。あったとしても椅子とか横になれる場所とか、食べられそうな実がなってたりするだけだ。そんな上等なクリスタルがある場所なんて知らない』

「そうなのか…」


 改めて蒼クリスタルを見てみる。相変わらず神秘的な輝きを発している。他には無いという全回復のクリスタル、それがあるということは、ここはなにか神聖だったり、特殊な場所だったりするのだろうか?

 謎は深まるばかりだ。


「――ってあれ?」


『どうしました?』


「いや、少女が……どこにもいない?」


 さっきまで泉で水遊びしていたはずなのだが。


『それって…もしかして外に出たんじゃ?』


「――それはまずい」


 夜はどんな敵がでるか分からん。

 俺はすぐ走って入り口に向かった。SPがないので普通に走った。


「クロノス! ――っと、よかった」


 幸いにも、大樹を出たところで、その姿はすぐに見つかった。

 入り口の数メートル先で後ろに手を組み、静かに夜空を眺めていた。

 俺の呼びかけに気づいてはいるのだろうが、振り返ることはなかった。

 

「……Είναι όμορφη.」


 そして何か、一言独り言のように呟いた。


「……ああ、そうだな」


 俺は肯定の相づちを打った。なんとなく、「綺麗ね」と言っている気がしたのだ。俺の返答に少女はちょっと驚いたように振り返ったが、微笑んだだけで何も言わなかった。再び夜空を眺める。


(…確かに、綺麗だよな)


 夜はログアウトしているか、弓の練習をしていたので、いままでこうしてしっかりと夜空を眺めることはなかった。しかし、改めてこうして眺めてみると――非常に美しかった。電灯の明かりが全くない世界だ、その上《鷹の目》効果も重なって、現実ではお目にかかれないほどの星々の輝きを眺めることが出来る。

 さらにこの世界は夜が1時間、現実の1/12だ。つまり12倍の早さで空模様が変わってゆく。


 その様子は、100倍リアルなプラネタリウムにいるような感覚だった。

 澄んだ空気と、時折訪れる爽やかな風も心地よい。

 流れていく星々は輝く川のようで、月も美しい曲線を描いてその川を滑っていく。





 ――?


 “違和感”


 ――なんだ?


 “それはおかしい”


 ――俺は、何かが、引っかかる……?



『ユウ、大丈夫だったのか?』


 ――と、考え事に耽りそうになったところで、ジーンの声で我に帰った。


「ぇ、ああ、外で夜空を眺めてるだけだったよ」


 俺の報告に、二人の安心した様子がチャット越しに伝わってくる。


『そうでしたか、確かに凄く綺麗ですからね』

『だよな。こんなの日本じゃお目にかかれないし』

『日本でも見ることはできますよ? 私の住んでいるところの、もっと山の方ならこれぐらいは』


 妹の住んでいる家は、少し都会からは外れてたところにある。

 そういえば俺も昔親に流星群を見に連れて行かれたことがあったな。……本当に小さい頃の話だ。もう思い出せないぐらい、懐かしい。


『ああー違う違う、確かに都市明かりが届かないとこなら星はよく見えるだろうけど、見え方も日本とちょっと違うだろ?』

『ああ、確かに』

「ん? 星座? アンノーンと現実の夜空は一緒だろ?」

『視点が日本と少し違うということですよ、兄さん』


 わからなかった俺に、沙耶が解説してくれた。


『《アンノーン》ではさっき言ったように太陽が真上を通りますから、この夜空は日本より本来もっと南のものってことです』

『真夏の日本とそれほど大差はないけどさ、南十字星っぽいのも見えるし、南国からならこんな感じに見えるのかなーっとね』






「ぁ――




 ――んーと、月が丁度頭上に来てるな――


 ――流れていく星々は輝く川のようで、月も美しい曲線を描いてその川を滑って――




 ―― そ う か ッ!?」


『うぉ!』『えっ?』「Τι!?」


 突然の俺の叫びに、三人が驚く。だが今の俺にはそのことも気にならなかった。


「なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ! いや、アルフガルドには1日もいなかったから、仕方ないか」


『兄さん?』『一体どうしたんだよ』

 二人が心配そうに尋ね、クロノスも訝しげに俺を見つめている。


「クロノス!」


 俺はガッシリと少女の肩を掴む。その勢いと突然の行動に、クロノスはビクッと身を固める。

 怖がらせてしまったようで申し訳ない。だが、俺はこの感動をどうしても誰かに伝えたかった。


「ありがとな、お前が外に行ってくれたから気づけた!」

「っ、???」

 なお戸惑う少女に、俺は確信した声で宣言する。






「――俺たちは、帰れるんだよ」



読んでくださり、ありがとうございます。


ユウが何に気づいたのか、お察しの方も大勢いらっしゃることでしょう。

しかし、そう簡単には逃がしませんよ(笑)


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