第一夜
父さんと母さんが離婚した。
あの夏私は一五歳。遠くからセミの声だけが聞こえていた。
父と母に仲の良い永続的に続く家族というものを裏切られながらもどこかで信じ続けてきた私と父と母、三人でいる日々。ちっぽけな私の世界がもろくも崩れ去ったのを私は全身に感じていた。
あの夏私は世界の真ん中で一人ぼっちになった。
遠くでセミの声だけが鳴いていた。
おかしな事に あの夏、地球が異常をきたした。
始めに起きた異変はきのこの巨大化。 そこらじゅうに巨大きのこが生えてくる。
人々はみなパニックになり地球崩壊やウイルス侵入説、異星人襲来説がまことしやかに囁かれた。治安は一気に悪くなり、今までギリギリの線で保たれていた平安は崩れさった。そして次の異変は魚が空を飛び 鳥が海で泳ぐようになったこと。
そのグロテスクで夢のような光景に更に人々はパニックをおこし、たくさんのコミュニティができた。過激なコミュニティに属した人間は不安定な状態の中の判断力欠如と集団の強大な力により殺人や犯罪を大量に犯すようになる。
沢山の信仰宗教も生まれ、激しい修行により命を落としたものも多数存在した。そんな日々が続き、いつしか日本の人口は半分に減っていった。
そしていつしか人々は気付く。
きのこが巨大化しても鳥が海で泳いでも魚が空を飛んでも自分達の人体および生活には何も影響しないことを。
そして様々な傷跡を残しながらも人々の平安な日々は取り戻されていった。
この事件は後にノアの箱船からもじられて「ノア」と呼ばれるようになった。
私は一七歳、高校生になっていた。
今世の中の価値判断は大きく変わり
良く言えば柔軟で自由。 悪く言えば社会全体のモラル感の欠如。
大人達もわからなくなってしまったのだ。このような不条理な状況が起きてなお学歴がどうの制服の裾のたけがどうの単位がどうのなど言えなくなってしまったのだ。
学校は今ほぼ全てフリースクール状態。みな制服を脱いで私服を着ている。
きのこを見て育った子供が高校生になりきのこファッションなるものをするようになり大ムーブメントを起こした事をきっかけにファッションの価値観も大きく変わり美の価値観も変わった。「もうなんでも有りなんじゃないか」若い世代は特に今まで個性的と言われるようなファッションをすることがむしろ普通になっていった。
それゆえ今私の高校では周りを見渡せばそれはそれはカラフルだ。
私の通う高校は湘南の真ん前にある。
教室からは海が見える。
真っ赤な海は今日もきれい。
私は昔の青い海よりも今の赤い海の方が断然好きなのだ
血の色と同じ色。残酷な感じがとてもすてき。
教室の隅の方でカラフルなパッチワークの帽子を被った青い髪の女の子が変わったアクセサリーを売っている、 安藤ゆきが私にきづいた「あっふたみちゃんおはよ〜 学校久しぶりにきたねぇ。なにしてたん?」
「今度学祭でクラブイベントやろうとしてさ。 企画作りの為クラブめぐりしてたわ」
「ねぇふたみちゃん。これ赤い海をイメージして作った指輪なんだけど、お一つどう?」
そう茶色い大きな目をくりくりさせながら聞いてくる安藤ゆき。
彼女は青いベリーショート 色白で小顔 、背が小さくてちょこまか歩く。
私はある意味彼女に男が抱く恋心のような物を抱いている。なので安藤ゆきが作る指輪はあまり好きじゃないけどついつい買ってしまう。
あっ断っておくが私はレズビアンではない。可愛い、美しい物が好きなだけなんです。
「ふーん。面白いね。買うよ。いくら?」
「ほんとは五百なんだけどふたみちゃんいつも買ってくれるから二百円で良いよ〜。」
「はい」
「さんきゅ〜です」
急に背後に気配を感じた瞬間後ろから声がした
「お〜またいつもみたくレズってんのかぁ?」
「なにいってんのさ〜ようちん〜二人付き合ってんじゃ〜んうらやましい〜」
安藤ゆきがはやしたてる
「まあな〜愛してるよ〜ふたみぃ」
そういって私の恋人陽一は調子良く笑う。
こんな感じで私の学園生活は充実していた。
15の時両親が離婚した事もその後世界が破滅した事も、もう過ぎた事。
私はむしろ今の世界の方が好きだった。
みんな同じようにダサい制服を着て規則に縛られて役にたたない勉強をガリガリする。
私はそんな学校が大嫌いだった。
だから世界が壊れた時むしろすっきりしたんだ。
ほんとの世界は混沌としているんだから。