Cheese97〜ブラックコーヒー〜
久しぶりに砂糖の入っていないコーヒーを飲んだ。
甘いコーヒーを選んだら、今の俺と重なる気がして飲めなかった。
自分を追い詰めてどうすんだよ………
山田「落ち着いたか?」
野高「…はい」
山田「しっかし、お前が立川さんを好きだったとはねぇ。意外」
野高「………」
山田「つーかさ、野高くんがもっと行動を起こしてれば、立川さんはお前のこと好きになってたんじゃないかと俺は思う」
野高「勝手だな…。山さんの憶測は」
山田「憶測?違うね。俺は立川さんと初めて会った時、お前のことが好きなのかと思ったぜ?」
野高「どうして断言できるんですか?そんなこと」
山田「俺をそっちのけにして、お前のことを見てたからだよ」
野高「立川さんが…?」
山田「ああ。でもお前はあの時、写真に夢中だったけどな。自分が熱い視線を浴びてるなんて微塵も思ってなかっただろ?ざまーみろってんだ」
野高「それって、俺が夕日の写真を撮ってる時ですよね」
山田「お、当ったり〜!思い出したか?」
野高「なんとなくですけど。でも俺はあの時、立川さんよりも、夕日を撮ることが好きだった」
山田「じゃあ、今は?」
野高「今は…」
(瞳を閉じる野高)
今は………
『野高先輩』
はっきりと見えたんだ……。
彼女の声と、姿が……
(ゆっくりと瞳を開ける野高)
野高「夕日よりも、立川さんのことが好きです」
山田「あつ……」
野高「!!」かぁぁ
(ゆでダコのようになる野高)
山田「じゃ、君はバイトを終了して、さっさと彼女を追い掛けなさい」
野高「え…」
山田「え?じゃねぇよ。次、逃げたらぶっ飛ばすぞ!?」
野高「山さん」
山田「なんだよ?」
野高「俺はぶっ飛ばせないよ」
…………ガタッ
(席を立ち、カフェを出る野高)
山田「ブラックコーヒー……ね」
―――その頃、華は…
華(野高先輩にちゃんと返事、できなかった…。気持ちに応えられないことがこんなに辛いなんて思わなかった…。鈴木くんもわたしを振るとき、こんな気持ちだったのかな……)
『立川の気持ちには答えられない』
華
「立川さん!!」
華(――え?)
(後ろを振り返る華)
野高「―――」
華「野高先輩……」
野高「逃げてごめん、嘘ついてごめん、弱くてごめん……」
華「先輩が謝る必要なんかないんです……。謝らなきゃいけないのはわたしです!」
野高「違う」
華「だってわたしはっ……」
野高「わかってる」
華「野高先輩…」
野高「本当はわかってたんだ。君が誰かを想っていることも」
華「……」
野高「それでも俺は…立川さんのこと、好きなんだ」
華「!」
野高「あ〜…!なんか言えてスッキリしたかな」
華「そんなっ…!野高先輩、勝手すぎます……」
野高「立川さん」
華「……はい」
野高「俺は言えただけで満足なんだ。これ以上の気持ちを押し付けるつもりはないし、立川さんがそんな悲しい顔をする必要もない」
華「先輩……」
野高「でも……勝手に想わせてもらう。これだけは譲れないから」
華「や、やめたほうがいいですよ!?こんな変な女…。野高先輩にはもっと素敵な女性が似合います……」
野高「今は立川さんしか見えないんだ。だから、そんなこと言っても無駄だよ。…じゃあ俺、戻るから。さよなら」
(華に背を向ける野高)
華「野高先輩っ……ごめんなさい…。でも、嬉しかった………」
野高「…うん、大好き!」
(一度だけ振り返り、また走り出す野高)
華(どうしてだろう……。すごく…辛いよ…っ……)
――どこまで走ろう?
―――出口が見えない
――――終着点が見つからない………
――――♪♪
(野高の携帯が鳴る)
野高「―――!」
携帯の着信で、『薄井 翔』と表示されていた。
野高「……もしもし」
薄井『メダカのばぁ〜か!!僕からの着信には三回鳴る前に出たまえ!(怒)』
野高「無茶言うなよ…」
薄井『どうした?机の角に小指でもぶつけたか…?』
野高「どうして?」
薄井『いや、気のせいならいい。鼻声に聞こえるから泣いてるのかと』
野高「………」
薄井『お〜い、メダカ〜?応答せよ〜』
野高「俺、立川さんに好きだって言ったよ」
薄井『花子に?』
野高「見事に玉砕したけど、言えてよかったと思ってる」
薄井『それで泣いてたわけか』
野高「なっ……泣くわけないだろ!?薄井こそ、何で急に電話なんかするんだよ」
薄井『あ。そうだ。コーヒーの出前を頼む♪砂糖は三つ入れて持ってきてくれたまえ★』
野高「………パシリかよ……」
―――それでも今、薄井と話せてよかった。
見つからないと思った出口に出られた気分だったんだ………。
今度は薄井と、甘いコーヒーを飲もう。
〜ブラックコーヒー〜 完。