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とろけるCheese  作者: KoKoRo
87/156

Cheese87〜過去の恋〜

初めて春さんと出会った病室。俺はそんな彼女に会いたくて、薄井には何も告げず、一人で病院に訪れた。

小遣いで買った花束を持って……。





病室の前で、俺は立ち止まった。扉に掛けた手が、極度の緊張で震えているのがわかった。

一度、呼吸を整えてて、再び扉に手を掛けた。



すると、静かな話し声が病室から聞こえた。


その声がすぐに春さんの声だと気付くのに時間はいらなかった。俺は扉を少し開け、中を見た。




俺の目に飛び込んだのは、薄井の姿と側に飾られたユリの花だった…。






春「ありがとう。翔。こんな大きなユリの花持ってくるなんてびっくりしたよ。」



薄井「姉さん、この花好きだろ?今日だけ大奮発だよ」



春「綺麗…」



薄井「具合はどう?痛みはない?」



春「全然!むしろこのまま走れそうなくらい元気よ」



薄井「そうか。よかった…」



春「ねぇ、翔。明日もあさってもまたこうやって顔を見せてくれる……?」



薄井「毎日来てるじゃないか?今さら何言ってんだよ…」



春「病室に一人でいるのが怖いの……。明日にはもう、この心臓は止まってしまうんじゃないかって……」



薄井「生きようとしてよ。姉さん」



春「翔…」



薄井「明日もあさってもその次の日も、姉さんに会いに行くよ。」



春「ありがとう…。私、翔のこと好きよ?……大好き。」



薄井「そんなこと言わないでよ。姉さん…」



(春の口元に手をあてる薄井)



春「かけ…る…?」



薄井「ここ、触れてもいい?」



春「!」




「――――――」








―――やめろ






―――やめてくれ!!







俺は病室から逃げ出すかのように走った。




信じたくない。

信じたくなんかない。



薄井は春さんのことが好きなんだと実感させられた。春さんも薄井のことを………?








心の奥底に、何かが詰まったようだった。それでも俺は、何もなかったかのように過ごした。




何も見てない。

薄井の気持ちなんか知らない。



ただ俺は………





春さんを好きなだけなんだ………。









――――――――――




夏休み中の学校で、俺は初めて薄井を殴り飛ばした。




春さんは本当に俺を選んでくれていたんだろうか?

本当は薄井を……




薄井「あー…、痛いな。まったく」



野高「……ごめん」



薄井「謝るな。お前に何も言わなかった僕が悪い。それはわかってる。わかってたさ……」



野高「………」



薄井「わかってたよ。けど……言えるはずないじゃないか!?」




…………ガッッ


(野高を殴る薄井)




野高「………っ」



薄井「姉さんが優を好きなら弟として応援するのが当然だろ?僕は間違ったことなんかしてない!!」



野高「応援?春さんが俺を好きだった証拠でもあるのかよ…?弟だって?…笑わせんなよ。お前は弟として春さんを見てたんじゃない。男として見てたじゃないか!違うのか!?」



薄井「姉さんが……姉さんがお前を好きにならなかったら、僕は――っ………」




野高「―――」




……………ガッ


(薄井のパンチを避け、殴り返す野高)





薄井「……ッ…」



野高「ごめんなんてもう言わない。過ぎたことはもう忘れる。忘れるしかないんだ……。もう……春さんはいないんだよ………」






ああ





まただ…






俺はまた、あの人のことを想って泣いてる……。





いつも泣くのは俺ばっかりで、薄井の涙を見たことがない。




俺は薄井を殴れても、薄井の心までは殴れなかった。




理由なんてわかってる。俺自身が弱くて、脆いからなんだ………




薄井「はは…。姉さんは幸せ者だな。こんな男に好かれていたんだから……」



野高「俺は春さんを好きになったこと、後悔してないよ。会えてよかったと思ってる」



薄井「―――」



野高「薄井…、俺は……お前と友達辞めるつもりはないからな」





薄井「……ばーか」








―――なぁ、優





人を好きになることに後悔なんか生まれないよ。





僕はそう思ってる。








――翌日、夏休みの補習二日目が行われた。




高橋先生「今日も暑さに負けず、補習を始めたいと思ったのだが………薄井、どうしたんだ?その顔の傷は?」



薄井「あはは。気にしないでくれたまえ!青春の1ページだ♪」



高橋先生「…は?」



………





わたしは、殴られた痕がくっきりと残る薄井先輩の横顔を見た。




薄井「……ん?なんだい、花子」



華「いえ、なんでもないです……」






その顔は少し、悲しい表情をしていた。









〜過去の恋〜 完。



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