Cheese78〜君に会いたくて〜
わたしは今日も池本くんから逃げた。
あなたを見ていると、息が詰まりそうになる。
理由を考えればすぐに答えは出るのに、わたしはそれから逃げた。
答えを出す前にわたしは逃げたんだ…。
でも
今、はっきりと気づいてしまった。
夢に向かっているその姿にわたしはいつしか恋に落ちていた……。
華「はぁ……はぁ………」
―――わたしはどこまで逃げるの?
―――どこまで逃げたらいい?
「―――花子。」
走り続けた先に「声」が聞こえた。
顔を上げると、わたしは写真部室の前に立っていた。
薄井「今日は遅刻しないで来たね。えらいえらい。」
華「………」
薄井「…?どうした?中に入らないのかい?」
華「………っっ!!」
―――わたしは先輩に背を向け、また走り出そうとした。
……………ガシッ
(薄井が華の腕を掴む)
華「……!?」
薄井「Cheese同好会改め、悩み相談所に変更。悩んでないかい?僕でよければ相談に乗るよ」
華「薄井先輩……」
―――なんでわかるんだろう?
―――この人はどうしてわかっちゃうんだろう………
薄井「ほら。早く中に入りたまえ」
華「……はい。」
わたしは写真部室の中へと入り、いつも座る席に着いた。
華「………野高先輩はお休みですか?」
薄井「メダカならさっき頭が痛いといって保健室に行ったぞ。まったくもって不健康な男だ」
華「そうなんですか……。」
薄井「で?花子の悩みを僕に聞かせてくれないかい?」
華「こんなこと先輩に話せません。一人で考えたいんです」
薄井「……そうか。でもそれで楽になるかな?」
華「!」
薄井「僕は花子の悩みを誰にも言わないし、聞いたってどうせすぐに忘れるよ。悪い言葉でいうけど、人の悩みなんて僕にしてみればちっぽけなものでしかない」
華「………」
薄井「人に打ち明けることでメリットになるのは『楽になること』だよ。」
―――わたしは薄井先輩を信じてる……。
華「わたし、池本くんが好きなんです。」
薄井「ジュンジュン?」
華「薄井先輩にはわたしの好きな人のことなんて、ちっぽけな問題なのかもしれません。でも、わたしにとっては……すごく重要なことなんです」
薄井「恋の悩みか。もしかして不良系少年に悪いなぁとかちっぽけなこと考えてる?」
華「!!どうして……」
薄井「花子。大事なのは今の気持ちだよ。鈴木を好きだった気持ちは嘘じゃないだろうし、今の気持ちも嘘じゃないんだろ?」
華「はい」
薄井「だったら悩む必要ないじゃないか。今の気持ちを正直に相手にぶつけなさい」
華「それが問題なんです……!」
薄井「………は?」
………ガラガラッ
(写真部室の扉から野高が入る)
野高「………」
薄井「おぉ!メダカくん、生きてるか!?」
野高「……生きてるよ。あ、立川さん。こんにちは」
華「こんにちは……。野高先輩、頭痛で保健室に行ったんですよね?大丈夫ですか?」
野高「うん。へーき。頭痛薬も貰ってきたしね」
華(なんだかまだ具合が悪そうにみえる…。気のせいかな…)
薄井「そういえばチーズたっぷり☆のサンドイッチを作ってきたんだ♪食べるかい?」
野高「…うん」
華「是非食べたいです!!」
薄井「あはは♪じゃあ、ちょいと待ってなさい!確か鞄の中に入れてあったと思うからね」
華(チーズ♪チーズ♪)
野高「…そうだ。立川さんに見せたいものがあるんだ。俺が撮った写真なんだけど…」
華「先輩が撮った写真ですか?是非見たいです!」
野高「うん。じゃあ、ちょっと待ってね」
………ジィーー
(鞄のチャックを開け、アルバムを取り出す野高)
華(写真♪写真♪)
野高「…………っ」
…………バサバサッ
(野高のアルバムが地面に落下し、写真が辺りに散らばる)
華「野高先輩……?」
………………ドサッ
(野高が倒れる)
華「野高先輩!?」
…………ガタッ
(席を立つ華)
華「薄井先輩!!野高先輩がっ……」
薄井「―――優!!」
……………………………………………………
写真部室で倒れた野高先輩を薄井先輩が保健室までおぶっていった。
保健室には先生も誰もいなかくて、ガランと静まり返っていた…。
…………ギシッ
(野高を保健室のベットに降ろす薄井)
薄井「田中先生を呼んでくるよ。それまで優を頼む」
華「わかりました」
そう言って薄井先輩は駆け足で保健室を出て行った。
華「………」
野高「――うっ…」
華「!」
野高「あ……れ?立川さん…?俺は――」
華「野高先輩、大丈夫ですか!?急に倒れて……すごく心配したんですよ?」
野高「……ごめん」
華「どうして具合が悪いのに無理するんですかっ……!!」
野高「………たんだ」
華「……?」
野高「会いたかったんだ……。立川さんに…」
華「………え…?」
〜君に会いたくて〜
完。