Cheese64〜翔の追憶〜
姉さんが家を出た直後、一本の電話が掛かってきた。
僕は受話器を握りしめながら電話に出た。
薄井「……はい。薄井です」
『白川病院の者ですが、そちらは薄井さんのお宅で間違いないですね!?薄井春さんが病院を抜け出したんです!!そちらにいませんか!?』
薄井「……いません」
『そうですか…。御両親はご在宅ですか?』
薄井「両親には僕から伝えます。」
『わかりました。こちらも周辺を探していますから、見つかり次第連絡致します。』
―――そんなような電話があった後、僕は父さんと母さんの携帯に連絡して伝えた。
―――案の定、二人はすぐに家へ帰ってきた。
そして………
あの電話が掛かってきた。
…………プルルルル
………ガチャ
(素早く電話に出る父親)
父「もしもし」
『白川病院の朝窪です。薄井春さんがこちらに救急車で運ばれてきました。只今処置をしていますので、すぐに来て下さい。』
―――父の顔つきが、みるみると悪くなっていくのがわかった。
父「病院に春がいる。すぐに向かうぞ」
――僕達は外に出た。
花子が見つめる中、僕は父さんの車に飛び乗った。
今の僕には姉さんのことしか頭にない。
………病院に着き、父さんは受付のカウンターにいた看護師に姉さんの居場所を聞いた。
すると、姉さんは入院している部屋にいると看護師は答えた。
駆け足で病室に向かった。父さんも母さんも顔が真っ青だ。
―――――僕は今、どんな顔をしているんだろう………
ノックもせずに父さんは扉を開けた。
目の前には体中、線で繋がれた姉さんと、傍には医者が立っていた。
母「はっ……春は………大丈夫なんですよね!?先生!?」
医者「……確実に脈が弱まっています。心臓も僅かに動いているだけで、いつ止まってもおかしくない状態です。」
母「春は………助かるんですよね……?」
医者「前にも言いましたが、春さんを救う方法は心臓移植しかありません。」
父「……」
母「ドナーは見つからないんですか……?お金ならいくらでも出します!!だから春を助けて下さい!!」
薄井「………母さん」
母「ドナーがいないなら私の心臓をこの子にあげて下さい!!春が助かるのならこんな命っ……」
薄井「母さん!!」
母「!」
僕は泣き叫ぶ母の腕を強い力で握った。
薄井「母さんの心臓を貰ったって姉さんが喜ぶわけないだろ……?」
母「………翔……」
薄井「まだ姉さんは生きてるじゃないか…。今、生きようとしてるじゃないか」
医者「……我々も最善の手を尽くしました。後は春さんの生きる気力に託すしかありません。」
……………………………………………………時間だけが流れた。
……そして、午後7時47分。姉さんは眠るように息をひきとった。
―――目の前が真っ白になった。
僕は無意識で優に電話を掛けていた。
―――優はすぐに病院へ駆け付けた。
病室に入った優は姉さんの顔を見て、すぐに出て行った。涙を流しているのがわかった。
僕は姉さんが死んでから涙を流していなかった。母さんは大声で泣いている。今まで泣くことがなかった父さんも涙を流している。
悲しいのに涙は乾いたように出なかった。
―――――姉さんが死んで三日後、花子の様子に違和感を感じた。
心配になった僕は、餌を皿いっぱいに入れ、花子の前に出した。
花子はただ見つめるだけで食べようとはしなかった。
薄井「なんで食べないんだよ……?」
次の瞬間、花子は僕の目の前で倒れた。
薄井「………花子………?」
僕は花子に触れた。
今までまともに触れたことのない花子に触れた。
息をしていない。
薄井「冗談だろ?花子……。なぁ……起きろよ…花子……」
体を摩っても動かない。
薄井「ほら…、花子の餌だ…。全部食べろよ……」
花子の手を掴んでわかった。ガリガリに痩せている。
――僕のせいだ……
―――僕が花子にちゃんと餌をあげていなかったから………
僕が花子を………
殺したんだ……
触れていた花子の体が冷たくなっていった。
薄井「ごめんな。花子…。もう餌あげないなんて言わないから…だから僕を一人にしないでくれ……」
「………逝かないでくれ!!花子」
…………ガバッ
気がつくと僕は誰かの手を掴んでいた。
僕の目に立川華の姿が映った。
華「わたしは……ここにいますよ?」
あまりにもすっとんきょうな答えに何だか笑えた。
―――長い夢を見ていたようだ。
薄井「優はどうした?」
華「今、お茶を買いに行ってます」
薄井「そうか…。僕が寝てる間、ずっとここにいたのか?」
華「はい…。起こそうと思ったんですけど、熟睡してたのでやめました」
薄井「そうか…。」
華「ところで……わたしの夢でもみてたんですか?先輩…」
薄井「内緒」
華「う゛……」
…………ドタドタドタ
そんな時、写真部室前の廊下を誰かが走ってくる音が聞こえた。
〜翔の追憶〜 完。