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とろけるCheese  作者: KoKoRo
63/156

Cheese63〜離れた心〜

青空が広がる屋上。野高先輩と二人でのんびり過ごしていました。



野高「あ。あっちにある雲、魚の形にそっくりだよ」



華「うぅ?きわどいですよー?先輩」



野高「そうかな…?あ!?あれはだんご三兄弟にそっくりだ!」



華「あはは!古いですね〜!」



野高「雲ってさ…面白いよね」



華「そうですね!でもわたしは野高先輩の例えの方が面白いです」



野高「そうかな…?」



華「はいっ!」



野高「……ぷっ」



華「??」



野高「俺は立川さんと一緒にいるだけで楽しいよ」



華「!」



野高「そうだ…写真。立川さんを撮ってもいい?」



華「むむっ無理です!無駄です!!」



野高「無駄…?」



華「わたし、写真写りが悪いんです…。元が悪いのでしょうがないんですけど…」



野高「どうして?もっと自分に自信持ちなよ。綺麗に撮るから大丈夫。こうみえても上手く撮る自信はあるんだ」



華「しっ…しかし…」



………パシャッ


(デジカメで華を撮影する野高)




華「あぁ!?不意打ちですよ!?」



野高「ほら。こっち向いて笑って」



華「〜〜〜!」




…………ビュッ


(水鉄砲を華に浴びせる野高)



華「ふぎゃっ!?どこからそんな小道具を!?」



野高「今、うちのクラスで流行ってるんだ。水鉄砲」



華(絶対流行らせたのって薄井先輩だろうな…)



野高「笑ってくれないと俺……水鉄砲かけるかも」



華(きょっ強制!?)



華「……」にたぁ〜


(不気味な笑みを浮かべる華)



野高「………」ビュッ


(水鉄砲噴射)



華「びょっ!?冷たい!?」



野高「ほら!自然に自然に!」


………ビュビュッ



(なおも噴射)



華「やめてくださいぃ〜!?」



野高「……!」



………パシャッ





―――そうだよ。






―――俺は立川さんのこの笑顔が好きなんだ………。









しばらく写真撮影が続いた。たまに飛ぶ、水鉄砲の水しぶきが心地よくて、気がつくと自然に笑っていた。






―――その頃、薄井は写真部室の扉の前にいた。




………ガラガラッ



薄井「メダカー!花子ー!今帰ったぞ〜…い…」


……………


薄井「……なんだ。誰もいないのか…。」



(周囲を見渡す薄井)


薄井(鞄が置きっぱなしだな…。二人して何処に行ったんだか…)





薄井「…………一人はつまらん。寝る!」


………ガタッ


(おもむろに椅子に座り、机に寝そべる薄井)




薄井(そういえば、前にもあったな…。同じようなことが…)







……………………………………………………………………さんっ…






…………姉さんっ!!



「翔!やめなさい…。春は入院しないといけないのよ……」




「大丈夫だよ。翔。すぐに退院して帰るから」



姉さんが高校生の時、通っていた学校で倒れて病院に運ばれた。




医者に、姉さんはこのまま入院した方がいいと言われた。まだ小学生だった僕は気が動転していた。




薄井「いつ帰るの!?僕を一人にしないで!!」



春「大丈夫。翔には花子がついてるでしょう?」



薄井「嫌だよ…。僕、花子なんか大っ嫌いだ!」



春「そんなこと言わないで…。今まで私が世話をしてたけど、今度は翔が可愛がってね?…お願い。」







それから姉さんが家にいない生活が始まった。



僕は抜け殻のようになった。いつもそこにいるはずの人がいないのだから。



母「翔。花子に餌はあげたの?」



薄井「…あげたよ。」





僕は嘘をついた。





別に一日くらい何も食べなくたって死にはしないだろう。




母「…そう。でも何だか元気がないように見えるんだけど…」



薄井「姉さんがいないからだろ!?そんなに心配ならもう一度餌でもあげたら!?」



母「翔……」





母親にあたったって、姉さんが帰ってくるわけでもない。



ましてや花子にまであたる僕は……最低だ。







………ガチャ



僕は家の外にいる花子を見た。




花子は玄関先の道路一点だけを見つめていた。




まるで姉さんの帰りを待っているかのように。





薄井「……おまえばっかり姉さんに可愛がられてたじゃないか…。おまえばっかり……」




僕の存在に気付いた花子は、少し鳴いて僕に近付いてきた。その顔つきは餌を求めているように見えた。




………クゥン……




薄井「欲しがったってあげないよ。」





………バタンッ





僕は花子に触りもせず、玄関の扉を閉めた。







父さんも母さんも僕も犬が嫌いだ。



家族の反対を押し切って、姉さんが拾ってきた犬だ。





僕に責任なんかない。





花子に情があるわけでもない………。








そして数年が過ぎた。




姉さんが死んだあの日のことを今でも思い出す。




姉さんは病院から抜け出して家に帰ってきた。……優のためにチーズケーキを作りに。





僕は懸命に止めた。



それでも姉さんの意志は変わらなかった。





残されたわずかな力でチーズケーキを作り、姉さんは家を出た。



最後に花子にそっと触れ、小さな声で言った。




「大好きだよ。花子」




………ワンッワンッ




花子は大声で鳴いた。




その声で姉さんが止まることは二度となかった………








〜離れた心〜 完。



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