Cheese62〜一枚の紙〜
放課後の写真部室。泣き出した野高先輩。
不謹慎かもしれないけど、ほんの一瞬に見た野高先輩の泣き顔は、とても絵になった。
こんなに綺麗な涙を流す人を、初めてみた気がする。その涙はまるで、結晶のように透き通ってみえた……。
やがて野高先輩は、ぽつりと話し出した。
野高「もしも大切な人が死んでしまったら……立川さんはどうする?」
華「泣きます。」
野高「………」
華「たぶんずっと…一日中泣くと思います。でも、時間が流れていくうちに笑顔を取り戻す日がきっと来るんですよね…。」
野高「……そうだね」
華「大切な人がいなくなったらすごく悲しい…。でも泣くことよりも、笑顔でいられたらいいなって思います。その人の分までこれからを生きよう。前を向いて生きようって思える人になりたいです。」
野高「……立川さん」
華「はい」
野高「俺は…前を向けてるかな……」
華「向けてますよ。先輩の笑顔、わたしは何度もみてますから」
野高「………」
華「先輩……?」
野高「肩、大丈夫?ごめんね。いつまでも寄り掛かって」
華「いいえ。先輩はーー…」
野高「もう大丈夫だから。ありがとう。立川さん」
華「はい」
野高「…さてと。天気もいいし、写真でも撮りに行こうかな」
華「そういえば…薄井先輩って、今日はお休みですか?」
野高「え?薄井なら図書室に行くって言ってたけど、帰って来ないな…」
―――その頃、薄井は同じく図書室にいた浅井と一緒にいた。
薄井「………」
浅井「……何なのよ?薄井翔。私に何か用でも?」
薄井「いや?浅井くんが図書室にいるなんて珍しいからね」
浅井「生徒会室だと落ちついて仕事が出来ないのよ」
薄井「あはは〜?大変だね?」
浅井「無論、あんたがここにいても邪魔なんだけどねぇ?(怒)」
薄井「おお、そうか。そりゃ悪かったね」
………ガタッ
(席を立つ薄井)
浅井「……どうゆう風の吹き回し?やけに素直じゃない」
薄井「かわいい浅井くんの邪魔をしたくないだけだよ?」
………パコンッ
(薄井の頭に消しゴムを投げ当てる浅井)
浅井「あんたって奴は……」
薄井「冗談!」
…………ガラッ
(図書室を出ていく薄井)
浅井「……?結局何しに来たんだか…」
………図書室を出ていった薄井は、写真部室に向かった。
その頃、華と野高は屋上にいた。
野高「あー…。いい天気だなぁ…」
華「久しぶりに晴れましたね!最近ずっと曇ったり、雨が降ってたりしてましたから」
野高「うん。そうだね。やっぱり晴れてると気持ちがいいや」
華「はいっ!」
野高「ふぁ〜あ……。なんだか眠くなってきたな…」
華「……あ。男の人と、こうやってまったりするのは初めてかもしれません。」
野高「じゃあ…、手でも繋ぐ?」
華「!!??野高先輩!?」
野高「あはは!冗談だよ」
華「うぅ〜……、もうっ!!」
同時刻、池本がギターを持って屋上の扉の前までやって来た。
池本(ん?話し声がするな…。屋上で練習しようかと思ったけど、先客がいるんじゃしょーがない)
―――帰ろうかと思った…
―――だけど、聞き覚えのある声がした。
―――俺が好きな…
池本(…立川さん?)
思いきって屋上の扉を少し開けた。
そこには、野高先輩と楽しげに会話をする立川さんの姿があった。
―――悔しいけど
何もできない。
パンダの着ぐるみを着ていないと、自分は何もできやしないのか?
自分の身を隠さなければ、俺は前に進めないのだろうか…?
―――自分の勇気のなさに腹が立った。
この『歌』を歌う資格が俺には………ない。
ふと、手に持っていた紙を広げた。
自分で作った“華”という歌詞を見て何だか笑えた。
制服のポケット奥底にだらだらと歌詞が書いてある紙を閉まった。
―――もう二度と開かぬように……
俺は屋上に続く階段を、駆け足で降りた。
〜一枚の紙〜 完。