Cheese59〜繋いだ手〜
雨の中、わたしはパンダさんに連れられて、動物園の中に入った。
華「パンダさんは傘をささなくて大丈夫?」
カッパが雨の雫でいっぱいになっていた。
相当雨が降っている。
パンダ「………」
(ゆっくり頷く)
華「………。」
なんだか、パンダの中にいる人をわたしは知っているような気がした。
華「ジャイアントパンダって何処にいるかわかりますか?」
パンダ「………?」
(首を傾げる)
華(このパンダさん、動物園の人じゃない…。中に入ってる人は、誰なのかな…?)
―――その頃、動物園の入口では……
龍「………。」
薄井「中に入らないのかい?今なら誘拐犯と花子に追い付けるよ」
龍「今さら……行けるかよ。」
薄井「…傘」
龍「?」
薄井「傘を忘れるほど急いでたんだね。君は」
龍「そうじゃねーよ」
薄井「……青いね。」
龍「俺は帰る。……あんたはどうする?」
薄井「帰るよ」
龍「マジで何しに来たんだよ?あんた…」
薄井「言っただろ?暇つぶし。」
その頃、園内にいるパンダと華は……
華「わぁーー!!猿がいっぱい!!」←ものすごく楽しんでる人
パンダ「……」
(手招きするパンダ)
華「?」
(パンダの方に近づく華)
華「あっ!?猿の赤ちゃん!!かわいい!!」
パンダ「……」
(喜ぶ華を見つめるパンダ)
華(パンダさんが誰なのかなんて余計なこと考えるのはやめよう…。今を楽しめるだけで充分…。)
その後も、雨が降り続く中、園内をパンダさんと一緒に回った。
ゾウやカバの大きさに驚いたり、ゴリラに警戒されたり……、いろいろあったけど楽しかった。
一通り園内をじっくり回り、そろそろ帰ろうとした頃、雨はすっかり上がっていた。
パンダ「……!」
(空を見上げ、指をさすパンダ)
華「………あ!」
空には見事なほど綺麗で大きな虹がかかっていた。
華「こんな大きな虹を見たのは初めてだなぁ……」
パンダ「………」
パンダは繋いでいた華の手を離した。
華「パンダさん…?」
わたしの手を離したパンダさんはもう遠くの方へと行ってしまった。
手を離されて気付いた。
園内を回っている間、わたしはずっとパンダさんの手を握っていたんだ……。
華「…やだな……わたし……。子供みたい……」
あたたかくなった右手を見つめ、なぜだか悲しくなった。
急にひとりぼっちになって、寂しさが込み上げてきた。
でも、パンダさんがいてくれてよかった。心からよかったと思ってる。
――なのに……
この涙だけは止めることができなかった……。
その頃、華と別れたパンダは……
………ぺたぺたぺた
(やみくもに走り続けるパンダ)
…………ゴツッ
(鉄骨にあたるパンダ)
パンダ「〜〜〜!!」
………ガバッ
(気ぐるみの頭を外す)
池本「……あっつ」
正直、気ぐるみの中はサウナにいるみたいに暑く、何度も頭を外そうかと考えた。
………でも、できなかった。
俺なんかじゃ、鈴木の変わりにはならない。
…だからせめてパンダとして立川さんの傍にいたかった。
少しでも彼女が楽しんでいてくれればいい。
正体なんか知られなくていい。
俺が立川さんを勝手に好きなだけだから…………
池本「……ごめん……立川さん………。置いてったりしてごめんね……」
だからせめて………
元気な彼女でいて欲しいと、俺は願う。
―――翌日、華はいつも通り、学校に向かった。
教室にはすでに龍の姿があり、席に座っていた。
華「…………。」
………ガタッ
(無言で席に着く華)
龍「………立川」
華「………。」
龍「昨日は悪かった。俺……動物園には行かなかった。」
華「!」
龍「ずっと待ってないよな?俺のことなんか」
華「……待ってないよ。」
―――待ってたよ…。パンダさんが来なかったら、きっと……ずっと来るまで待ってた………。
龍「もう…俺のことは想うな。俺なんかよりずっとマシな奴、いるだろ」
華「……うん。そうする。」
―――無理だよ…。
そんな簡単に言わないでよっ…………。
龍「立……」
俺はあいつの顔を見た。
誰だコイツ?と思うぐらい目が腫れて赤くなってた。
――けど、俺は立川に何もしてやれない。
今ここで泣いてるお前に掛ける言葉はない。
だから……こんな最低な男のことなんか嫌いになっちまえばいい。
〜繋いだ手〜 完。