Cheese30〜謝罪〜
春さんの死から一年が経過した。
俺はまた、あなたの前にいる。
ここで眠るあなたに会いに。
野高「………。」
雨が強くなる中、野高は春の墓の前から動くことはなかった。
「…風邪ひくよ」
雨に濡れる俺に傘をかざしてくれた。
野高「なんだよ。別々に墓参りするんじゃなかったか?」
薄井「気が変わった。やはり最初に墓参りをするのは家族だろう?」
野高「そうだよな。ごめん」
薄井「線香はたてたかい?」
野高「持ってきたんだけど濡れちゃって火がつかないよ」
薄井「馬鹿だね。君は。姉さんも天国で爆笑しているに違いない」
野高「そうだといいよ…」
薄井「………線香忘れた」
野高「駄目な弟だな……。薄井」
薄井「………。」
野高「薄井?」
薄井「優に謝らなきゃならないことがある。」
野高「なんだよ?」
薄井「今日は姉さんの誕生日なんだよ」
野高「……え?」
薄井「あの日、姉さんは君に会いに病院を抜け出したんだ」
野高「なに……言ってんだよ?春さんが俺なんかに会いに来てくれるわけないじゃないか!?」
薄井「優のところに行く前に家に帰ってきたんだ。チーズケーキを作りに」
野高「……」
薄井「優に絶対食べてもらうって張り切って作っていたよ。馬鹿な姉さんだ。もう体は限界だったはずなのに」
野高「なんで…?なんで止めなかったんだよ!?」
薄井「止めたに決まってるだろ!?そんなことはやめろって何度も言った。でも僕は本気で姉さんを止めることができなかった」
野高「どうしてだよ……。薄井」
薄井「姉さんは優のことが好きだったんだよ」
野高「!」
薄井「誕生日に好きな人に会いたいと願う姉を、どうやったら止められるんだ?」
野高「ごめん。薄井」
薄井「………っ」
野高「………ごめん」
謝らなければいけないのは僕の方なのに……
悔しかったんだ。
姉さんを優に取られるのが………
僕は姉としてではなく、一人の女としてみていたのかもしれない。
貧弱な姉を僕が守りたかった。
………でも
僕じゃ駄目だった
優でなければ姉さんを守れないとわかったから
夏祭りのあの夜、
僕は身を退いた………
薄井「暗い雰囲気になってしまったじゃないかっ!?…あ、そういえば花子が学校に来てこんなものを置いていったぞ!」
野高「なにそれ?」
薄井は華から預かったケースの蓋を開けた。すると………
ぷぅ〜〜〜〜ん
野高「くっ!?クサッ!!」
薄井「あはは〜♪チーズフォンデュだ☆花子もなかなかシャレたものをつくるね♪♪」
野高「ちちちち〜ずっ!?」
薄井「花子いわく、メダカへの差し入れだそうだ!!さぁ……」
野高「………さあ?」
薄井「食いたまえ〜〜〜〜っい☆☆☆」
野高「嫌だーーーーーーーーーーー!?」
薄井「もれなくマシュマロ付きだぞ?それでも食わん気かっ!?」
野高「マシュマロ…?」
薄井「マシュマロにとろとろチーズをつけて食べてごらんよ。ほら!」
野高「…………」
野高はマシュマロを一つ取り、少しだけチーズを付けて食べた。
薄井「どうだい?」
野高「うまい……かも」
薄井「その言葉、花子に会ったら言ってあげたまえ。きっと喜ぶよ」
野高「……そうだね」
春さん、
俺は
あなたが作ったチーズケーキも食べてみたかったな……
きっと俺、
全部食べたと思います。
好きな子が作ったものならなんだって………
〜謝罪〜 完。