Cheese29〜別れ〜
季節は春になった。
俺は真新しい制服を着て、春さんの病室へと足を運んだ。
………コンコンコン
「はーい」
声がしたのでゆっくりと扉を開けた。
野高「こんにちは…」
春「あー!新しい制服だっ!なんか高校生らしくなったね」
野高「そうですか?」
春「それに頭。髪、染めたんだね。似合ってるよ」
野高「…どうも」
春「野高くん、少し背、伸びた……?」
野高「え…?」
あなたは…
少しでも俺のことを見てくれていたのかな?
わずかな変化に気付いてくれるだけで
俺は嬉しかった。
―――5月―――
彼女に出会ってからあと少しで一年が経とうとしていた。
5月3日―――それは突然やってきた。
野高の母「優ーー!薄井くんから電話よー!」
野高(薄井……?)
野高「はい、どうしたんだよ?こんな時間に」
午後8時。薄井からの電話は一生忘れない。
…忘れられない。
『………』
受話器の向こうにいるはずの薄井がなぜかいないような錯覚に陥った。
野高「薄井……?」
薄井『…………姉さんが………死んだ……』
野高「……今……なんて言った……?」
薄井『病院にいるから来てくれ。今来ないと、もう…会えないから………』
野高「―――――」
―――嘘だ
―――こんなの嘘だ
ぐちゃぐちゃな頭のままで俺は病院に走った。
春さんが死んだなんて信じたくない。
―――信じたくなんかないんだ…………。
気がつくと春さんの病室の前にまで来ていた。
俺の足は突然動かなくなった。
…中に入るのが怖い。
すると中から啜り泣く声が聞こえた。
「起きて………、ねぇ…、死なないで!?春……っ」
野高「…………」
ああ……。
もう駄目なんだ……。
彼女の笑顔を……
もう永遠にみることができないんだ…………
…………ガラガラ
病室の扉が開いた。
中から出てきたのは…薄井だった…。
薄井「なぜ中に入らない?」
野高「……俺には……入る資格がない……。家族じゃないし…恋人でもない……。」
薄井「だからなんだよ?……姉さんのこと好きだったんだろ?」
野高「!」
薄井「最後に会ってやってくれ……」
野高「…………」
涙をこらえて彼女に会いにいった。
薄井の家族に悟られないよう、扉の近くから離れなかった。
遠くからみる彼女の顔は、死んでるようにはみえなくて
こらえていた涙が頬をつたった…………。
それから俺は黙って病室を後にした。
帰り道、
涙が止まらない。
すれ違う人にどう思われたっていい。
この涙を止める術がみつからない。
春さん
俺は……
あなたを愛していました。
〜別れ〜 完。