Cheese28〜不安〜
彼に出会って半年の月日が流れた。
相変わらずわたしは病院で生活をしている。
毎日ではないけれど一週間に三回、彼は見舞いに来てくれた。
受験生の彼に悪いと思いながら、わたしは彼が来てくれることを嬉しく思っていた。
………コンコンコン
病室の扉を三回叩く音がした。
彼だと思った。
いつも三回ノックをしてひょっこりわたしの前に現れる。
少し…王子様みたいに見えてくる。
野高「こんにちは。春さん」
春「こんにちは。今日も来てくれたのー?大丈夫?受験生!」
野高「希望は大丈夫だって先生に言われてますから」
春「へぇー!なんか余裕だね?どこの高校を志望してるの?」
野高「一応、志岐織高校を希望してます」
春「え?志岐高?じゃあ、翔と一緒だね。あそこって男子高だけどいいの?」
野高「なにがですか?」
春「男子高なんかに行ったりしたら彼女ができませんよ〜?」
野高「……」
この人は……
からかってるのかな?
春「…なーんて。わたしも志岐高近くの女子高に通ってたんだ」
野高「え?それって志間織高校のことですか?」
春「うん。でも途中で学校辞めちゃった…。こんな体じゃなかったらちゃんと卒業できたのかな」
野高「……当たり前じゃないですか…」
春「ねぇ、野高くん」
野高「?」
春「野高 春だと…いい名前にならないかな?」
野高「……え?」
春「…ね?」
野高「そう…ですね」
きっと彼女は深い意味で言ったんじゃない。
でもいつか俺は彼女にプロポーズをするんだろう…。
ずっと、
俺の傍で笑っていてほしいから。
月日は流れ、冬がきた。
俺と薄井は高校の一般試験を無事に終え、合格発表を待っていた。
――合格発表当日――
薄井「ふがーーー!?人の頭、頭、頭だらけで番号がみえんじゃないかっ!?」
野高「あはは…。こう男子ばっかり群がってるとさすがに前には出たくないな」
薄井「前にでなくては番号がみえないぞ!?いいからきたまえ〜〜いっ」
野高「…っておい!?引っ張るなよ!?」
強引に引っ張られながら前へと突き進んだ。
それと同時に不安が襲い掛かった。
もしも受かっていなかったら……
薄井「……あったよ。君の番号」
野高「えっ?」
薄井の言葉に振り返ると確かに俺の受験番号である『1151』がそこにあった。
野高「よかった…。薄井は?あったのか?」
薄井「……ない……」
野高「嘘だろ!?何番だ!?」
薄井「996番だっ!探してくれ〜〜!!」
慌ててその番号付近を探したがみつからない。
薄井「……落ちた?」
野高「おい…。薄井…」
薄井「なんだっ!?憐れみならよしてくれっ!!」
野高「その受験番号、反対に見てないか?」
薄井「は……?」
薄井の受験番号『966』で探すと………
薄井「あった!?あったぞ〜〜♪♪♪」
野高「どこに受験番号反対にみる奴がいるんだよっ!?」
薄井「ここにいる!」
結局、第一志望の高校に二人揃って合格することができた。
その後、俺と薄井は春さんに合格の知らせをするべく、病院へと向かった。
病院に着くと、院内が少し慌ただしく感じた。
薄井「………」
野高「何かあったのかな?」
すると、後ろから声を掛けてくる人がいた。
??「翔!!」
薄井の母親だ。
薄井「なんで母さんがここに?仕事は…?」
母「春が……春がっ……」
薄井「姉さんがどうしたの!?」
母「容態が……急変して……医者の人が来てくれって……」
薄井「姉さんは無事なの!?ねえ!?母さん!!」
母「……もう……長くないっ………て……」
野高「―――――」
ぼんやりと頭が白くなっていった。
やがて薄井は医者の人に呼ばれ、何処かへ行った。
『御家族の方に大事な話があります』
医者が伝えた言葉。
大事な話ってなんだよ…?
春さんが長くないってなんなんだよ……?
他人の言葉だけが頭を過ぎる。
何もわからない俺は
ただ泣くことしかできない無力な人間だった……。
〜不安〜 完。